05



「そおらあああ!」
「おおっ、あのデカい一年ふっ飛ばした!」

 田中の威勢の良い声と共に打ち込まれたスパイクは月島のブロックを吹き飛ばしてコート内へ沈み、得点へ繋げた。普段の練習以上に力を発揮している田中を見た澤村が苦笑いをして田中を煽ったのは失敗だったかもねと月島に視線を送れば、彼はしくじったと言いたげに舌打ちをひとつした。

 月島側からのサーブを受けた田中がレシーブをし、影山がボールの落下地点に素早く回り込み日向の名前を呼ぶ。日向はその声に応えてそのトスに向かって跳んだ。圧倒的な跳躍力に周囲の面々が驚く中で月島は冷静にそのタイミングを見計らってブロックに跳び、日向のスパイクは惜しくもそのブロックに弾き返された。

「っ――!」
「昨日もびっくりしたけど、君、よく跳ぶねえ。それであとほーんの三十センチ程身長があれば、スーパースターだったかもね」
「も、もう一本!」


***



「……あー、またブロック」
「これで何本目だ?」

「くそ……」

 田中はパワーも経験もあるので凡そのブロックを打ち抜いて得点に繋げているが、日向は月島と山口のブロックに阻まれて得点に繋げることができずにいた。悔しげに唇を噛む日向を見ていた月島はその視線を影山へ移し、嫌味を含めた笑みを浮かべる。

「ほらほら、ブロックにかかりっぱなしだよ?」
「……」
「王様のトス、やれば良いじゃん。ブロックを置き去りにするトス! ついでにスパイカーも置き去りにしちゃうやつね」
「……うるせえんだよ」

 山口がサーブをミスして落としたボールを拾い上げた影山はボールを持つ手に力を込め、真っ直ぐに彼らを見据えた。

「……速い攻撃なんか使わなくても――勝ってやるよ」
「行けっ、殺人サーブ!」

「影山のジャンプサーブか……強烈だったな」
「でもあちら側には澤村先輩がいますよね」
「!」

 菅原の呟きにそう返したのは隣にいた鶫だった。まだ部活に参加してから数日の彼女からそんな言葉が聞けるとは思わなかったと菅原は目を丸くしたが、同時に彼女の“噂”を思い出すとそう言えるのも当然かと納得をした。

「……コートを把握する目と耳、か」

 些細なことも見聞きし自分のものにする才能。

 彼女の才能に菅原が舌を巻く中で影山はボールを宙に放り、ジャンプサーブを打ち込む。威力も十分でコース取りも悪くないサーブだったが、正面に回り込んだ澤村は難なくそれを受けるとボールの勢いを殺してセッター位置へレシーブを上げた。

「!?」

 澤村のレシーブは月島がトスへと繋げ、山口のスパイクはレシーブをしようとしていた日向の腕を弾く。

 サーブで何点か稼ぐつもりだった影山が悔しそうに歯噛みをすれば、田中は気にするなというように彼の肩を叩いた。

「くそ……」
「大地さんの武器は攻撃よりあの安定したレシーブだ。守備力は半端ねえぞ」
「……何点か稼げると思ったか?」
「!」

 ネット越しにその会話が聞こえていた澤村が影山にそう声をかけると、彼ははっとした顔で澤村へ視線を向ける。澤村の顔には彼のサーブを上げたことに特別驕った様子はなかったが、代わりに自信に満ちた笑みを浮かべていた。

「突出した才能はなくとも、二年分お前らより長く体に刷り込んできたレシーブだ――簡単に崩せると思うなよ」
「ほら王様! そろそろ本気出した方が良いんじゃない?」
「何なんだお前! 昨日からつっかかりやがって! 王様のトスって何だ!」

 言っている意味が分からないと言うように叫んだ日向を見た月島はその長い指で影山を指し示し、影山が王様と呼ばれているのか知らないのかと問いかけた。その問いに日向は一瞬不思議そうな顔をしたものの、普段の影山の様子やプレーを思い返しながら首を捻った。

「? こいつが何かすげー上手いから……他の学校がビビッてそう呼んだとかじゃないの?」
「ははっ。そう思ってる奴も結構居ると思うけどね」

「……」

 月島はそう言いながら一瞬だけ鶫の方を見て彼女の顔色を窺うと、彼女は心配そうな表情を浮かべて影山を見つめていた。

「噂じゃコート上の王様って異名、北川第一の連中がつけたらしいじゃん」

 “王様”のチームメイトがさ。

「意味は――」

 自己チューの王様、横暴な独裁者。

 

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