06
「――それにしても、一応ひと段落ついたな」
「?」
「スガも田中も、舞雛も何か色々やってくれたんだろ?」
「えっ!? いやっ、別に何も!?」
「取り敢えず、丸く収まって良かった……。ありがとうな」
ほっとしたよと言うような澤村の言葉に菅原と清水は顔を見合わせ、彼を労わるようにその肩をポンと叩いた。その様子を見ていた鶫もまたふっと表情を緩ませ、ふと日向たちの騒がしさが変わったことに気が付いてそちらへ顔を向けた。
「おい日向! 休んだか!? 休んだな!? もっかい速攻の練習すんぞ! 感覚残ってるうちに!」
「オオッ!」
「田中さん、ボール出しお願いします!」
「ゲッ! もう動くのかよ!?」
流石にもう少し休ませろと言いたげな田中だが日向と影山はもう練習に乗り気で、影山は足元に転がっていたボールを拾い上げるとウズウズとする体を揺らしながらそのボールを両手で弄ぶ。
「早く練習試合で試してえな……。練習試合とかねえのかな」
「練習試合……! 他の学校と試合……!」
「実際の試合には月島×3みたいなブロックが居るんだからな!」
「うおお! 凄く嫌だ!」
「……」
影山の言葉に日向が望むところだとガッツポーズをしながらそう返したが、話の引き合いに出された月島はこいつらは何を言っているんだと言うように彼らを見つめている。先程までネットを挟んで戦っていた彼らだが随分打ち解けたようで、その空気は穏やかだった。
「でも確かに、そろそろ練習試合組みたいよな。でも――」
「組めた! 組めたよー!」
澤村の声をかき消したのは一人の男性の声。その声の主は息を切らしながら体育館へ駆け込んできて、嬉しそうな顔をしながら持っていたメモを握り締めた。
「練習試合! 相手は県のベスト4、青葉城西高校!」
「“青城”!?」
「ゲッ」
「どうやって組んだんだろ……」
顧問と思われる男性教師が口にした“青葉城西高校”。その名前を知らない者はここにはおらず、それぞれがまさかと言いたげな顔をしていた。
「おっ! 君らが問題の日向くんと影山くんか! 今年からバレー部顧問の武田一鉄です。バレーの経験はないから技術的な指導は出来ないけど、それ以外の所は全力で頑張るから宜しく!」
「おス!」
「あっと……それと、君が舞雛鶫さんだね。どうぞ宜しく!」
「宜しくお願いします、武田先生」
顧問教師である武田と挨拶が済んだところで彼は申し訳なさそうな笑みを浮かべながら部員たちを集め、練習試合の申し込みを直接していたせいで部活に顔を出せなかったことをまず謝罪してきた。しかし彼らはそれを責めることはなく、むしろどうしてそんな強豪校と練習試合を取り付けられたのかという疑問でいっぱいだった。
「先生、青城なんて強い学校とどうやって……?」
「まさか、また土下座を……!?」
「してないしてない! 土下座得意だけどしてないよ、今回は!」
ただ、条件があってね。
「条件?」
「影山くんをセッターとしてフルで出すこと」
「な!」
「なんスかそれ。烏野自体には興味ないけど、影山だけは取り敢えず警戒しときたいってことですか。なんスかナメてんすか、ペロペロですか」
「い、いやそういう嫌な感じじゃなくてね……」
「い、良いじゃないか。こんなチャンスそう無いだろ」
烏野の正セッターは菅原。しかし警戒しておきたいのは烏野自体と言うよりも影山自身というのが明け透けな条件に田中は直ぐに突っかかったが、それを押し留めたのはこの条件を飲めばセッターとして試合に出られない菅原自身だった。
「良いんスか、スガさん! 烏野の正セッター、スガさんじゃないスか!」
「……俺は、日向と影山のあの攻撃が四強相手にどのくらい通用するのか見てみたい」
「……先生、詳細お願いします」
「あ……えっと、実は、条件はもうひとつあるんだ」
申し訳なさそうな武田が二つ目の条件について話せば部員たちはまだあるのかと渋い顔をして、もうひとつの条件が何なのかを訊ねる。すると武田は手元のメモに視線を落としてから、実は何かの間違いじゃないかどうか聞いたんだけどと前置きをしてからその視線を鶫へ向けた。
「もうひとつの条件っていうのがね」
舞雛さんを連れてきて試合を全て見せること。
「それなんだ」
「はあああ!?」
「な、何か不味かった!?」
「! あ、いえ……ちょっと」
条件の矛先が鶫に向けられたことに誰よりも早く反応を示したのは不服そうな叫び声を上げた影山で、そんな彼に驚いた武田が苦笑いをすれば彼ははっと我に返りモゴモゴと言葉を濁す。しかし驚いているのは影山と当事者である鶫だけではなく、他の部員たちも同様に驚きを示していた。
「舞雛に試合を見せるって、一体どういうことだ?」
「それは僕にもちょっと分からなくてね……。相手方は、舞雛さんが部員であるか否かは問わないからとにかく連れて来てほしいって話だったんだ」
理由は分からないけどそう言っていたよと話す武田に部員たちは首を傾げていたが、先程不服そうな声を上げた影山は隣にいる鶫を静かに見下ろし、彼女がその視線に気が付きひとつ頷いたのを見てから周囲に目を向けた。
「……あの」
「どうかしたか影山?」
「その条件、多分アレです」
鶫の“観察力”がどれくらいなのか見たいからだと思います。
「観察力?」
「コイツは昔から、それに長けてる」
それは天性の才能。
コート上の全てを把握して先を見通し、相手を静かに追い詰める力。