07



「そうだな。怖いのは影山と舞雛“単品”じゃないってとこ見してやろう」
「澤村先輩」

 肉まんを買っている間に今までの話が聞こえていたのかそう言った澤村は傍にいた日向へ顔向けると、彼は何時の間にか澤村から受け取っていたらしい肉まんの袋を漁って口いっぱいにそれを頬張っていた。

「……」
「あっ、おふっ!」
「お前なに先に食ってんだよ!」
「ふざけんな!」
「うわああああ!」

 日向の様子を見た鶫が苦笑いをするが早いか田中と影山が日向の胸倉を掴んで文句を言い、その騒ぎを聞きつけた一人の男性が店からハタキを持って出てきた。

「おいお前らバレー部だな!? 店の前で騒ぐな!」
「! サーセェーン……」
「本当にすみません……!」

 店の人と思われるその男性に鶫が慌てて頭を下げれば、その男性は鶫を見て少し驚いたように目を丸くした。その驚きは謝られたことへの驚きではなく鶫自身に向けられていて、それに気づいた鶫が不思議そうにその男性を見上げれば、彼は何でもねえと短く返事をしてそのまま店の中へ戻って行った。

 一先ず場が落ち着くとちょうど月島と山口も店の前を通りかかり、田中が彼らに肉まんを差し出していた。その傍では影山が菅原に勧められて袋から肉まんをふたつ手に取り、傍にいた鶫へそのうちのひとつ差し出した。

「ほら食えよ」
「ありがとう」
「喉に詰まらせんなよ」

 手渡された肉まんを半分に割ってから齧った鶫を影山が穏やかな目で見つめる様子を傍で見ていた他の面々は肉まんを食べていた手を思わず止め、田中はギリィと音が鳴りそうな歯ぎしりをして二人を見つめた。

「……あれで付き合ってないって嘘だろ」
「そうなの!?」
「ああ、スガは聞いてなかったんだったな」
「……てっきり付き合ってると思ってた」
「だよなあ」

 あんなに優しい顔をする影山は鶫以外の前じゃ見ないもんなと澤村は笑い、それに菅原も頷いて同意する。

「スガ、今の内に日向のこと決めるぞ。舞雛と影山の意見も聞きたいし」
「そうだな」
「じゃあ声かけてくる」
「頼んだ。俺は中を使わせてもらえるように話してくる」

 菅原は手に持っていた残りひと口の肉まんを口へ放り込み先に坂ノ下商店へ入っていき、澤村は鶫と影山に声をかけて三人揃って店へ入る。

 店内にはテーブルがひとつと四脚の椅子があり、テーブルには“さわぐな”と書かれた貼り紙がされている。テーブルの傍にはヤカンを温めているストーブがあり、空気の抜けるような音と共に蒸気を出していた。

「今度の練習試合の日向のポジションをどうしようかと思ってさ」
「それなら鶫の得意分野です。こいつの意見を聞いてください」
「私?」

 澤村から相談されたのは日向のポジションのこと。中学時代まともなチームとして活動していなかった彼には経験したポジションというものがなく、現時点でどのポジションにも所属していないことになる。次の試合ではセッターとして影山が出るのでそれと合わせて鶫の意見を合わせてポジションを決めたいということらしい。

「ああ、確かにそうか。舞雛はどう思う?」
「あの馬鹿がどのポジションが良いか分かってるだろ」
「それはそうだけど……」
「どんな意見でも聞くから言ってくれ」
「……分かりました。あくまで個人的な意見ですが――」




「――で、練習試合のポジションだけど、“コレ”で行こうと思う」

 翌日の部活でのミーティングで澤村からスターティングメンバ―が発表された。

 前衛のレフト側から田中・日向・澤村。後衛は影山・月島・縁下。そして日向の名前の下に書かれたポジションはMB、つまりミドルブロッカーだった。

「!?」
「影山と日向はセットで使いたいし、月島は烏野では数少ない長身選手だ。青城相手にどのくらい戦えるか見たい」
「はあーい」

 間延びした返事をする月島の隣では一年で唯一メンバーから外れた山口が表情を曇らせている。そして澤村が提示したスターティングメンバ―を見た田中が驚いた顔をして、一般常識で考えれば尤もな意見を口にした。

「ていうか、デカさが重要なポジションに日向スか!?」
「ミドルブロッカーって、ノッポヤロー月島と同じポジション!?」
「あ、ちょ、ちょっとポジションおさらいして良い!?」
「先生、それなら私が」
「あ、じゃあお願いしようかな」

 ポジションの名前が出たことで武田がバレーボールのハウツー本を出して該当のページを探すためにページを捲り始めたので、傍にいた鶫がそう声をかけて武田とそしてバレーボール初心者の日向のためにポジションを改めて書き出す。

「ポジションは大きく分けて四つです。今回はポジションが三つしかないのでもうひとつはまた後で説明しますね」

 セッター(S)は、スパイクのためのトスを上げ攻撃を組み立てるチームの司令塔。ウイングスパイカー(WS)は、攻撃の中核を担う攻守のバランスが取れたオールラウンダー。

「そして日向くんを配置したポジション」

 ミドルブロッカー(MB)は、ブロックで相手の攻撃を阻み主に速攻で得点を稼ぐ。更に囮として敵のブロックを引き付ける役割を持つ。

「こんな感じです」
「分かりやすい。ありがとう、舞雛さん」
「どうしたしまして」

「良いか日向! お前は、最強の“囮”だ!」
「おおお!? 最強の囮! おお……何か、パッとしねえ……」
「鶫が推薦したポジションに文句言うんじゃねえ!」
「え、鶫ちゃんが?」

 イマイチ気分が上がらなかった日向だったが、影山からこのポジションを推薦したのが鶫だと聞くと思わず下げていた顔を上げる。そんな日向に鶫は穏やかな笑みを向け、ちゃんと考えたつもりだからと前置きをして彼をそのポジションに推薦した理由を話した。

「速攻で点を稼いで相手ブロックの注意を日向くんに集中させることが狙いなの」
「……つまりどういうこと?」
「日向くんをマークすればその分だけ他のスパイカーが自由に行動できる」
「あ……」
「考えてもみろ、月島みたいなデカい奴が何人もお前の動きにアホみたいに引っかかったら気持ち良いだろ!」
「うおお! 良い、それ良い!」
「……逆に」

 お前が機能しなきゃ他の攻撃も総崩れになると思え。

「!?」
「と、飛雄くん!」
「ちょっと! あんまプレッシャーかけんなよ!」
「?」

 影山から告げられた言葉に日向は表情を凍らせ、それは言ったら駄目だと鶫と澤村が口を挟んだが時はすでに遅し。意図せずに言われたこととはいえ結果的にはプレッシャーになった日向は頭を抱え、鶫はそんな彼の様子にやってしまったと言いたげにため息を吐いた。

「でも、肝心のブロックはどうすんだよ。いくら高く跳べても、元々デカい奴と比べたらジャンプのてっぺんに到達するまでの時間がかかるだろ。その分ブロックの完成が遅くなる」
「日向くんのブロックは一般的なブロックとは違うところに重点を置いています」
「?」
「重点を置いているのはボールへのワンタッチです」

 日向の反射速度があればネットの端から端までの移動をしても、ボールへのワンタッチには十分間に合う。相手のスパイクに触って勢いを弱め、ボールを確実に拾いそこからカウンターを仕掛ける。

「そんないきなり上手いこといくか?」
「少なくとも、最初は上手くいかないだろうな」
「大地さん」
「上手くいくかなんて確証はないし、相手チームには馬鹿にされたりするかもなあ」

 でも、やってみれば何かしら分かることがあるよ。

「練習試合なんだしさ!」
「……オス」
「何より空中戦で日向の高さに敵う奴、うちのチームじゃ月島と影山くらいだ。だから日向、自信持って――」
「ハイ! 俺、頑張ります! 高校で初めて六人でやる試合だしっ! いっぱい点取って囮もやって!」
「!?」
「サーブも! ブロックも! クイックも!」
「ちょ、落ち着け!」
「全部……!」
「うわあ!」
「ショートした! 日向がショートした!」

 ボンッと音を立てて目を回して床に倒れた日向に澤村と少し遅れて鶫が駆け寄ると、彼はすっかり目を回して意識を失っている。初めての練習試合やスターティングメンバ―としての緊張感などですっかり参ってしまった日向の様子に、鶫は一抹の不安を覚えざるを得なかった。

 

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