07



 土曜日の午前中を使って行われた試合が無事に終わり後片付けも済むと、今日は練習をせずに早々に解散となった。各々着替えや帰り支度を済ませて第二体育館から出て行く中、影山は少々慌てた様子で鶫に声をかける。

「鶫!」
「どうかした?」
「菅原さんと話したいことがあるから先に行く! 後からゆっくり来い!」
「う、うん。分かった」
「悪いな。絶対に走るなよ!」

 影山はどうやら先に出て行った菅原に用があるようで彼の背中を追うように早々に第二体育館を出て行く。慌ただしく出て行った影山を見送った鶫は一先ず中断していた帰り支度に取りかかると、ふと自分に歩み寄ってくる気配に気が付いて顔を上げた。

「?」
「鶫ちゃん、影山は?」
「日向くん」

 鶫に歩み寄ってきていたのは日向だった。少々離れた場所からこちらに歩み寄ってきていた日向は彼女がこちらに直ぐに気付いたことに驚いたものの、物事に敏感な彼女だから直ぐに気付いたのかもしれないと思っただけでそれ以上気に留めることはなかった。

「飛雄くんなら菅原先輩に話があるから先に行ったの」
「そっかー。あ、じゃあおれと一緒に行こう!」

 おれも帰り道そっちなんだと日向が誘ってくれたので鶫はその厚意に甘え、彼と一緒に影山の元まで行くことにした。

 自転車を取りに駐輪場へ向かった日向を部室棟の脇で待っていると二階から話し声と共に数人の部員たちが降りて来て、鶫の姿に気が付いた澤村が階段を降りたところで足を止めた。

「舞雛?」
「澤村先輩。お疲れ様です」
「お疲れ。先帰ったと思ったけどどうした?」

 そう声をかけてくれた澤村に続いて降りてきた田中も鶫に気が付くと階段を降りて足を止め、その会話の輪に混ざってきた。

「自転車を取りに行った日向くんを待ってます」
「ああ、そういやアイツ自転車で山越えてるとか言ってたな。つーか鶫ちゃんって影山と帰ってなかったか?」
「飛雄くんは菅原先輩に話があるみたいで先に行きました」
「スガと? 何だろうな」
「それは聞いていないのでちょっと……」
「お待たせー! あ、お疲れ様です!」
「おう、日向」

 澤村と田中と話している間に駐輪場から自転車を押して戻ってきた日向が合流し、澤村がそれならばと肉まんをご馳走してくれることになった。それを聞いて大喜びしている日向と田中を見た澤村は傍で静かに話を聞いていた鶫へ視線を移し、時間は大丈夫かと訊ねてきた。

「舞雛も一緒に行くべ」
「え、良いんですか?」
「ああ。肉まん嫌いじゃなかったらだけど」
「じゃあお言葉に甘えて。ありがとうございます澤村先輩」
「どういたしまして」

 じゃあ行くかという澤村の言葉で四人は肩を並べて学校を後にし、道中の話題は新入生の二人に向けられた。

「舞雛は影山と付き合い長いのか?」
「はい、小学校の時からずっと一緒です」
「ずっと一緒か……」

 何気ない澤村の話題になにか思うことがあったらしい田中がそう呟くと鶫は不思議そうな顔をしていたが、話題を振った澤村は何となく田中がこれから言うことを察したのか微妙な表情を浮かべた。

「……鶫ちゃん」
「はい?」
「――影山と付き合ってんのか」
「田中さん!?」

 その話題は前に本人と話しましたと言うように声を上げた日向だがそれを田中が知るはずもない。そしてこの手の質問は今まで何度も経験してきたのか鶫は少し苦笑いをしながらも静かに首を横に振った。

「いえ、そんなこと。違います」
「あんなに口調も態度も優しいのに!?」
「飛雄くん、昔から過保護なんです」
「いやいやいや、そりゃあないだろ!」
「でも本当のことですし……」
「おれも同じこと聞いたんですけど、影山が付き合ってないって言ってましたよ」
「マジか!」

 それならうちのマネージャーはどちらもフリーなのかと田中はブツブツと呟き、そんな彼に日向はどうかしたのかと首を傾げる。その手の話題に敏感ではない鶫もまた困ったような様子だったが、学校を出て間もなくして影山と菅原の姿が見て取れた。

「お、スガいたな。スガー」
「スガさーん!」
「菅原さーん!」

 澤村に続いて田中と日向が手を挙げながら菅原の名前を呼び、それに菅原は小さく手を挙げて応える。そんな菅原の人望を改めて目の当たりにした影山は少々渋い顔をして、他のメンバーからの信頼とかと呟き、その声は鶫の耳に届いていた。

「俺、負けません!」
「……うん。俺も負けない」
「スガさーん、大地さんが肉まん奢ってくれるって――」
「でもさ影山」

 青葉城西って北川第一の選手の大部分が進む高校だよな。

「!」

 菅原の指摘で日向の脳裏には中学時代にネットを挟んだ向こう側で影山と肩を並べていた彼らの顔が思い浮かぶ。そして鶫もまた同期である国見と金田一の顔が思い浮かんでいて、彼らが青葉城西に進学していることは当本人たちから話しを聞いているので知っていた。

「ああ、まあそうっすね」
「いやそのー……やり辛くないかなと思ってさ」
「? 同じチームだったら考えるかもしれないけど……」
「?」
「戦うなら、ただ全力でやるだけです」

 真っ直ぐで迷いがないその返事で菅原も納得したのか、そうだなと頷く。するとその脇から田中が顔を覗かせ、菅原がセッターとして出られないことに納得がいかないと口を挟んできた。やはり正セッターの菅原が蔑ろにされていることがどうしても納得がいかないらしい。

「そりゃあ悔しいけど……」
「?」
「影山が中学ん時と同じだと思ったら大間違いだって見してやりたいじゃん!」
「!」

 そう言いながら影山の肩を叩いた菅原に影山は驚いた様子で目を丸くして、傍でその話を聞いていた鶫もなにか思うところがあったのか穏やかに微笑んだ。

 

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