08
「――そういえば、一年も部室使っても良いって知ってるの?」
「え?」
ホームルームを終えて放課後になった騒がしい教室内で隣の月島からそう聞かれた鶫は首を傾げたが、それが日向と影山のことを言っていることに気が付くと少しだけ悩むように唸った。
「ううん……どうだろう。知らないかも」
「あいつら入部早々に出禁食らってたもんね」
「確かに……」
あり得ない話じゃないかもと鶫が困ったと言いたげに眉を寄せた時、手元の携帯がメールの着信を告げた。差出人は今まさに話題に挙がっていた影山で、菅原に呼ばれたので真っ直ぐに部活に向かうという旨が書かれていた。
「……飛雄くん、先に部活に行くって」
「もしかして部室のことじゃないの」
「そうかも……」
「じゃあ別に話す必要ないんじゃない」
もし知らなければ今日言えば良いでしょと席から立ち上がった月島は鶫を見下ろし、放っておくと危なっかしいから一緒に行くよと言って先に教室を出て行く。ちょうど荷物をまとめ終わった山口が一緒に行こうと声をかけてくれたので鶫もまた席を立ち、彼らと共に部活へ向かった。
「お前えええ! 何度顔面でスパイク打てば気が済むんだボゲェ!」
「うわあああ!」
「ちょ、影山タンマ!」
本日六度目のコンビミスに苛立った影山に胸倉を掴まれた日向が悲鳴を上げれば菅原が慌てて止めに入った。何時も通り騒がしい部活だが、先日影山からプレッシャーをかけられた日向が本調子になれずにいる。
当然鶫はそれに気付いていたが自分が今なにかを言って変にプレッシャーになっては元も子もないと様子を見ているが、影山の苛立ちが我慢の限界にきていた。
「うーん……」
日向の緊張感は解けず影山の苛立ちは最高潮。この調子で火曜日の練習試合は大丈夫かと鶫は心配そうに眉を下げたがコート内では相変わらず二人は言い合いをしていて、それを見かねた菅原が二人の間に割って入っていた。
日向の緊張感が解けないまま迎えた火曜日の放課後。運転をしてくれる武田先生にお礼を言って乗り込んだバスは順調に青葉城西高校へと進んでいた。
影山の隣に腰を落ち着けた鶫だが、賑やかな車内で気にしているのは日向の様子。バスに乗り込む前後に見た日向の顔色は良いとは言えず、肩に力が入りすぎているようにも見えた。
「……うーん」
「どうかしたのか?」
「ううん、何でもない。独り言」
「それなら良いけどよ」
あくまでも練習試合。肩に力を入れず試合をしてくれればそれで良い――なんて言っても今の日向くんには余計なプレッシャーになってしまいそう。
「おい、日向。ポッキーやるぞ――ってお前、何その顔!?」
「えっ? あ、ちょっと昨日眠れなくて……」
影山との会話の合間に聞こえてきた日向の声に鶫が心配して席から腰を上げた時、窓へと手を伸ばしていた日向がバスの揺れに耐えられず田中のズボンに嘔吐した。
「!?」
「バス止めてえええええ!」
「ひ、日向くん……!」
鶫は慌てて鞄から雑巾とビニール袋を取り出して二人の元へ駆け寄って手近な窓を全て開け、清水もまたバスの窓を開けて換気をしていく。武田が慌ててバスを路肩に停める傍らで澤村と菅原は顔を見合わせ、鶫の隣に座っていた影山は顔を引き攣らせた。