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「何、今の……」
「コートの端っこから端っこまで一瞬で……」
「スパイカーの手に吸い込まれるようなトス……」
観客が唖然としている中で主審が整列のホイッスルを鳴らし、選手たちはそれぞれのコートに並んで整列をし挨拶をする。その様子をベンチから見ていた武田は一気に力が抜けたのかパイプ椅子にストンと座り、深く息を吐き出した。
「……すんごい」
「あ、そうか。先生は三対三見てないから、日向と影山の攻撃見るのは今日が初ですもんね。ね、凄いでしょ! もう凄いっつーか怖いっつーか」
「集合ー!!」
「!?」
「お願いしアース!」
挨拶を終えた面々がベンチに一気に押し寄せて武田の前に集まり頭を下げると、何が起きるのかと武田は目を丸くする。今まで武田は運動部の顧問をしたことがないらしく、部員たちが何を待っているのか分からない様子だった。
その武田の戸惑いを察した菅原が隣から、なんか講評とかと小声で囁けば武田は合点がいったようでなるほどと頷き、話す内容を少しだけ脳内でまとめてから話を始めた。
「えーと……僕はまだバレーボールに関しては素人だけど、何か凄いことが起こっているんだってことは分かったよ」
「?」
「新年度になって凄い一年生が入ってきて……でも、ひと筋縄じゃいかなくて。だけど――」
“日向と影山は今はバラバラだけど、ちゃんと力を合わせられたら何か……凄いことになる気がするんです。”
「澤村くんがそんな風に言ってて、その時はよく分からなかったけど――今日、分かった気がする」
「……」
「バラバラだったら何てことはない一人と一人が出会うことで、化学変化を起こす」
今この瞬間も、どこかで世界を変えるような出会いが生まれていて
それは遠い遠い国のどこかかもしれない
地球の裏側かもしれない
もしかしたら、東の小さな島国の、北の片田舎の――ごく普通の高校のバレーボール部かもしれない。
「そんな出会いが此処で……烏野であったんだと思った」
「……」
「大袈裟とかおめでたいとか言われるかもしれない」
でも信じないよりは、ずっと良い。
「根拠なんかないけど、きっとこれから――君らは強く、強くなるんだな」
自分なりに精一杯の感想を伝えた武田。そして烏野側のコートでは少しの静寂があり、話を上手く飲み込めなかった日向と影山が首を傾げたところで武田は我に返り気恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
「ごめんっ! ちょっとポエミーだった!? 引いた!?」
「いやいやいや、そんなことないです!」
「あざす!」
「アザース!」
武田の講評を終えて澤村が改めて集合をかければ部員たちはそちらに集まっていき、そんな彼らの背中を見つめていた武田は誰に言うでもなくポツリと呟いた。
「早く技術を教えられる指導者を見つけないとな……」