12




 翌日の放課後。ホームルームが終わって早々に練習に行きたいと迎えにきた影山と共に第二体育館へ向かった鶫は影山と共にネットを張ると部活が直ぐに始められるように準備を整え、体育館の端で青葉城西の練習試合で取ったデータをまとめていた。

「ううーん……」

 やっぱり青葉城西と比べると実力差がはっきり分かる。個々のポテンシャルは負けていないけど、やっぱりひとつひとつの技術力が違う。これからのことを考えると部活の練習も見直して、もっと積極的に外部との練習試合を組まないと駄目かも……。

「鶫!」
「どうしたの?」
「コートの端の方に何でも良いから“的”置いてくれ」
「うん、分かった」

 影山の意図していることを直ぐに汲み取った鶫は一度データをまとめていた手を止め、手元に置いていたミネラルウォーターのボトルをコート端に置いた。他者から見れば適当に置かれたように見える的だが鶫が指定したのは影山のコントロールを上手く見極めた上での位置取りで、彼もそれが分かったのか闘争心を擽られて口角を上げる。

「ぜってえ当ててやるからな」
「ふふ、頑張って」

 それから何本かジャンプサーブが打ち込まれたが的に当たることはなく、鶫はその様子を視界の端で捉えながら昨日のデータを書き込んでいく。それから程なくして何本目かのサーブが打ち込まれた時、体育館の入口から日向が飛び出してきてボールの前に回り込んで腕を構えたが、勢いを殺しきれなかったボールは鈍い音を立てながら弾き飛ばされる。同時にその勢いに負けた日向が床に転がり、影山は練習を邪魔されたことに眉を釣り上げて声を張り上げた。

「ギャッ!」
「おい邪魔すんな日向ボゲェ! 今当たったかもしんねえのに!」
「取った!? おれ取った!?」
「取れてねえよボゲェ! “ホームラン”だアホォ!」
「と、飛雄くんそのくらいにしてあげて。私、ボール取ってくるから」
「甘やかさなくていい!」
「おれ取ってくる……」
「アホッ」

 傷心した日向に容赦なく苦言を口にした影山に鶫は少しだけ困ったように眉を下げたものの、ある意味で何時も通りの二人の様子にそれほど気にする必要もないかと表情を緩めて再びペンを手にした時、体育館の入口に一人の男子生徒が立っていることに気が付いた。

「……誰?」

 その男子生徒は偶々体育館を通りがかった様子ではなく、足にはシューズを履いている。しかし鶫は彼に見覚えがなかったので恐らく上級生だということは予想できたが、彼が一体誰なのかまでは分からない。何か用事でもあるのかと鶫が声をかけようとした時、彼は影山のジャンプサーブと共にコートの方へ駆け出し、待っていましたとばかりに腕を構えた。

 そしてそのフォームは綺麗かつ完璧。素人のレシーブの構えではないことを直ぐに察した鶫が息を飲んだ瞬間、影山のジャンプサーブを確実に捉えて勢いを一瞬で殺した。

「……完璧」

 勢いも回転も殺して、返球はしっかりセッター位置。
 完璧で綺麗なサーブレシーブ。

「おおーっ、すっげえサーブじゃねーか。すげえ奴入ってきたな」
「……え、ええと」
「おおーっ! ノヤっさーん!」
「?」
「おーっ! 龍!」

 唖然としていた三人だったが澤村たちが来たことで我に返り、鶫はその男子生徒と田中が嬉しそうに駆け寄っている姿を目で追った。その二人の後方には田中と一緒に来たらしい澤村と菅原の姿があり、二人もその男子生徒に気が付くと表情を明るくして笑顔を浮かべた。

「西谷!」
「チワース!」
「……西谷?」

 西谷と呼ばれた男子生徒は澤村たちと知り合いのようで、先程体育館に駆け込んだ時に放った学ランの上着を拾い上げている。先程見たレシーブと澤村たちと知り合いということを知った鶫の脳裏にもしかしてという可能性が思い浮かんだ時、澤村が三人を呼び寄せた。

「二年の西谷だよ」
「あっ、チワース!」
「オース!」
「はじめまして」
「お、おう!」

 日向と影山に続いて鶫も頭を下げれば西谷は少々戸惑った様子で挨拶を返し、それに鶫が不思議そうに首を傾げる。何か変なことをしてしまったのかと鶫がまばたきを数回する脇で、あることに気が付いてしまった日向が声を震わせた。

「お、お……」
「どうした日向?」
「おれより、小さい……!?」

 

PREV   TOP   ×××