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 俺の仕事はただひたすら繋ぐこと。

 “空”はスパイカーたちの領域で俺はそこで戦えないけど、必ずスパイカーたちのいる頂まで繋いでみせる。
 何度“壁”に跳ね返されたって、繋げば繋いでさえいればきっとエースが決めてくれる。

 壁に跳ね返されたボールも今度こそ繋いでみせるから、だからもう一回、

 トスを呼んでくれ、エース。



「ん、ローリング!」
「!?」
「サンダーアアア!!」

 西谷の決め台詞と共に拾われたボールは籠の中へ綺麗に入り、西谷は得意げな顔で笑顔を浮かべている。そんな彼の動向はいつものことのようで菅原と田中はどう反応していいか迷ったものの、菅原は適当にナイスレシーブと声をかけ田中は普通の回転レシーブじゃねえかと笑った。

「何で叫んだんですか?」
「何、今の……」
「ブフッ!」
「影山・月島・山口まとめて説教してやる! 屈め! 俺の目線より下に来い!」
「教えて! ローリングサンダー教えてえええ!」
「コラー、変なこと叫びながら動くんじゃないよ。危ないよー!」
「……ふふ」
「舞雛?」
「あ……ごめんなさい」

 澤村の傍で情報分析をしていた鶫が思わず笑うとその声を拾った澤村が首を傾げ、鶫は大したことじゃないんですと眉を下げて口元を緩ませた。

「とても楽しそうだなと思って」
「騒がしいだけじゃないか?」
「いいえ、そんなこと」
「おつかれさまーっ」
「! 集合ー!」
「オース!」

 武田が体育館に顔を見せたので澤村が集合をかけて部員たちを集め、鶫もまた清水と共に彼らの端に立つ。よく見れば武田の顔は何時もより明るく少々浮足立っているように思えたが、その些細な変化に気付いていたのは鶫だけのようだった。

「皆、今年もやるんだよね!?」
「?」
「ゴールデンウィーク合宿!」
「はい。まだまだ練習が足りないですから」

 烏野のゴールデンウィーク合宿。何となくあるとは思っていたがその存在をしっかり口にされれば鶫も日向同様に心を弾ませ、今から楽しみだと口角を緩ませる。しかし武田の話はそれだけでは終わらず、彼は得意げに眼鏡のブリッジを上げると両手の拳を握った。

「ゴールデンウィーク最終日、練習試合組めました!」
「!!」
「練習試合!」
「たっ、頼もしいな武ちゃん! どうした!」
「相手は!?」

 東京の古豪“音駒高校”。

「東京? ねこま?」
「音駒ってあの……ずっと烏野と因縁のライバルだったっていう……?」
「うん! 確か通称――」

 ネコ。

「猫?」
「俺らも話だけは聞いててよ。前の監督同士がずーっと昔からのライバルで、前はよくお互いに遠征に行ってたんだと」
「実力が近くて相性も良かったから、遠出する価値があるくらいの良い練習試合が出来たって聞くよ」
「ほーっ」
「練習試合があると近所の人は皆見に行ったらしいよ」

 名勝負! “猫対烏! ゴミ捨て場の決戦!”

「――つって」
「それ本当に名勝負だったんですか」

 確かに烏と猫を引き合いにするならゴミ捨て場が一番しっくりくるが、そのフレーズで果たして名勝負になるのかとやや疑っている月島が呆れた顔でそうツッコミを入れる。月島の言い分は少しだけ分かると苦笑いをした鶫だが、音駒のことはよく知っていたので彼らの実力も噂程度には耳にしている。

「音駒高校、か……」
「俺たちもいつか戦ってみたいねってたまに皆で話してたんだ」
「おお……!」
「でもここしばらく接点なかったのに、どうして今?」
「うん、詳しいことはまた後で話すけど……。音駒高校っていう好敵手の存在を聞いて、どうしても”因縁の再戦”をやりたかったんだ」
「?」
「相手が音駒高校となれば……」

 きっと、“彼”も動くはず。

「だからその時は、舞雛さんも宜しくね」
「はい!」
「頼りにしてるからね。そうそう、部活の切りが良いところでちょっとだけ職員室に寄ってもらえるかな? 相談したいことがあるんだけど、僕はこの後ちょっと電話かけないといけないところがあるから今すぐに時間取れなくて」
「分かりました。お伺いさせていただきます」
「宜しくね」
「よし! せっかくの練習試合を無駄にしないように、練習も合宿も気合い入れんぞ!」
「オース!」

 澤村の声と共に部員たちが気合いを入れ直し練習が再開すると体育館内は再び騒がしくなり、武田も体育館を出て職員室へ戻っていく。鶫もまた自分の仕事に戻ろうとしたが西谷が澤村に声をかけたので反射的に足を止めたものの、何となく聞いてはいけない話の空気を察してこっそり二人から離れた。

「すみません。俺、練習試合出ません」
「……東峰が戻ってないからか」
「……」
「……お前は東峰が逃げたって思って腹立ってるのかもしれないけど、西谷は西谷なんだし――」
「……翔陽は良い奴だし」
「?」
「他の一年も曲者揃いだけど面白そうな奴ばっかで、舞雛はすげえ良い仕事するマネージャーです。これからこのチームはなんかこう、良い感じにやっていくんだと思います」
「……」
「俺もここで練習したい。……けど、俺も試合に出て勝ったら、旭さんがいなくても勝てるって証明になるみたいで」

 今まで一緒に戦ってきたのに、旭さんいなくても勝てるみたいになるの、嫌です。

「わ、ワガママ言ってすみません……」
「……分かった。でも合宿は出てくれよ」
「?」
「ノヤさん! もっかい、ローリングサンダーもっかい!」
「!」

 練習試合に出ないと言ったのに合宿に参加する理由が分からなかった西谷だったが、それはボールを持ってローリングサンダーをもう一度見せてほしいと強請ってきた日向を見れば直ぐにそう言われた理由が分かった。澤村の笑みを見た西谷は困ったように頭を掻きながらも少しだけ口元を緩めて日向の元へ足を向け、それを見た澤村はそっと息を吐いた。

「舞雛」
「!」
「悪いな、足止めさせて」
「あ、いいえ! 私こそすみません」
「良いって。俺らのこと気にしてくれたんだろ。ああそうだ、こっちは俺が見ておくから武田先生のところ行って来な」
「分かりました」


***



「――それでね、舞雛さんには合宿のお手伝いを頼みたいんだ」
「はい、是非やらせてください!」
「そう言ってもらえると助かるよ」

 鶫が職員室に向かうと武田が所用を終えたところらしく、ちょうど良いタイミングで話を聞くことができた。武田の相談したかったことはゴールデンウィーク合宿のことで、いくつかの書類と資料を鶫に手渡すとそれぞれの書類に沿った説明を受けることができた。

「清水さんは家が近くて用事が終われば帰ってしまうから、一人でもマネージャーが泊まり込みをしてくれると助かるんだ。舞雛さんの親御さんはそういうの大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。小学校からずっと宿泊込みの合宿があったので」
「良かった。じゃあ親御さんにこの書類にサインしてもらってきてね」
「この書類以外の詳細は何時頃出ますか?」
「これから澤村君と一緒に決める予定だよ。多分舞雛さんにはマネージャーの仕事と合わせて練習メニューとか技術指導の補助なんかを頼むと思うから、それも含めて決まったら連絡するから待っててね」
「分かりました」
「今説明できることと渡せるものはこれだけかな。部活中に来てもらってごめんね。ありがとう」
「いえ、とんでもないです。では失礼します」

 部活頑張ってねと手を振った武田に見送られて職員室を後にした鶫はいよいよ本格化してきたゴールデンウィーク合宿に口元を緩ませ、手元にある書類にもう一度視線を落とす。

「……音駒高校、か」

 どんなプレーをするチームなのか、どんなプレイヤーがいるチームなのか。烏野と関わりが深いライバル校の存在にワクワクしながら体育館へ戻る廊下を歩いていると、正面の進路指導室のドアが開いて一人の男子生徒が出てきた。

「ありがとうございました」
「気を付けて帰れよ、東峰」

 

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