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「先生」
「?」
「あの二人……」
「日向くんと影山くんですか?」
「同じ中学出身か? それとも小学校から一緒とかか?」
「えっ? いやいや! 彼らはこの前会ったばかりですよ! 影山くんと舞雛さんは小学校から一緒みたいですけど、彼らは最初は馬が合わずに大変だったみたいで――……烏養くん?」
「……非情だな」
烏養が何を言わんとしているのか分かった鶫だがそこで口を挟むことはせず、コートに顔を向けたままノートにメモを取っていく。そのノートの端には“影山””菅原””正セッター”の文字が躍っていたが、鶫のメモを覗いた者がいないので、誰もそのことに気が付かなかった。
試合は20‐18で町内会チームの優勢。しかし高校生側の勢いは収まることはなく、それに押された町内会チームの嶋田は静かな助走と共にボールを放る。その助走と姿勢、ボールの動きからジャンプフローターサーブであることを見極めた鶫だが、目の前でボールが曲がったことに驚いた日向はそのボールを取り切れず床に滑り込んだ。
「ボエーッ!」
「わはは! みたか!」
「んんんっ!? 特に凄い威力のサーブって感じじゃあないようでしたけど……」
「“ジャンプフローターサーブ”です」
無回転サーブとも呼称されるそのサーブは、無回転で打つことでボールの軌道が急に落ちたり曲がったりしてブレることが特徴とされている。サッカーで言われる“ブレ球”とほぼ同じ位置にあるそのサーブだが、ボールの種類によってブレ方が変わってくるのも特徴のひとつとされている。
「舞雛さんは物知りですね!」
「いえ、そんなに大したことじゃありません」
鶫が武田にジャンプフローターサーブのことを講釈している間に嶋田の四本目のサーブが入り、24‐18で町内会チームがマッチポイントに乗る。このまま一気に取られてしまうかと思われたが澤村がボールを拾い、影山がナイスレシーブと声をかけながら落下地点に回り込む。その脇では日向がライト側に跳び三枚のブロックが日向に釣られ、田中のスパイクがほぼフリーで通ったが西谷がボールを拾い上げた。
「ナイス西谷!」
「ぬあぬ!?」
「スガ!」
「旭!」
綺麗に上がったレシーブは菅原がレフト位置にいた東峰の元へとトスを上げ、ブロックに跳んだ日向の手を弾き飛ばしてブロックアウトを取る。セットカウントは2‐0、練習試合は町内会チームの勝利で終了した。
「――いやー、よく分かんないけど青春だったなー」
「“トスを呼んでくれエース!”とかねー! 青春良いねーっ」
「“俺がいればお前は最強だ”とか言ってみてえ。高校生かっけえ!」
「……」
「……」
嶋田と森に散々弄られている西谷と影山は気恥ずかしさで顔を赤くしている脇では、オッサン組の置いてけぼり感ときたらと笑っている滝ノ上に菅原がすみませんと頭を下げている。そんな彼らの様子を少し離れた場所で見ていた鶫は微笑ましそうに目尻を下げていた。
「……まあ、なんつーか」
「?」
「まだ色々バラバラな感じだけど、ちゃんとまとまったら良いトコまで行けんじゃねーか、お前ら」
「!」
「ありがとうございました!」
「あざーっしたーっ!」
「おう」
町内会チームは烏養を残してそのまま第二体育館を後にし、部員たちは見送りを終えて再び体育館の中に戻ると烏養の講評を受けた。
「とにかくレシーブだ!」
「オス!」
「それができなきゃ始まんねえ。明日からみっちりやるからな!」
「あざしたー!」
「したーっ!」
「おう。ストレッチサボんなよ」
わらわらと集まってストレッチを始めた部員たちを眺めながら烏養が大きなため息をつくと、そんなにレシーブが酷かったかのかと眉を下げた武田の問いかけに彼は静かに首を横に振り、先程の試合の話をしている影山と菅原に目を向ける。
「自分が選手として“選ばれる側”にいた頃は考えもしなかったが」
“選ぶ側”っつーのも色々悩むモンだよな。
「飛雄くん」
「あ?」
ストレッチを終え掃除と後片付けをしているなか、ちょうど倉庫から出てきた影山に鶫が声をかけた。その表情はどこか嬉しそうに微笑んでいて、何か良いことでもあったのかと影山は首を傾げたが思い当たる節がない。
「何かあったのか?」
「今日の飛雄くん、凄く格好良かった」
「!?」
突然の褒め言葉に影山は動揺してビシリと固まったが鶫はそんな彼の様子に首を傾げながらもそれを追及することはせず、何本目のサーブが良かったということやどこの位置取りが良かったなどといくつか話したあと、何かを思い出したように両手を合わせてそうそうと声を弾ませた。
「一番良かったのは、日向くんにかけた言葉」
「アイツに?」
「皆のこと、ちゃんと見えてるようになってて凄いなって思った」
「……おう」
「飛雄くんのこと、見直しちゃった! 」
今言いたいことはそれだけと笑う鶫に影山は上手い言葉を返せずひとつ頷くだけに留まり、後片付けが終わったのを見計らった烏養が一発シメて上がれと声をかければ部員たちが円陣を組む。その輪を烏養たちと共に傍で見ていた鶫の顔は少しだけ寂しそうにも見えたが、その口元は穏やかな笑みを浮かべていた。
「烏野ファイッ!」
「オース!」