16




 ――五月三日、東京駅。

「うおおっ……! 俺、新幹線初めて!」
「え、マジで……」

 広々とした東京駅の一角を赤いジャージに身を包んだ集団が列を作り歩いていた。ほとんどは新幹線に乗ったことがあるか否かの話題だったがその途中で宮城は初めてだと話題が移り変わり、列が乱れたのを見た長身の男子が後方へ振り返る。

「おい、まとまって歩け。学校じゃねえぞ」
「スンマセン!」

 赤いジャージの背には英字で“NEKOMA”と書かれていて、少しだけ乱れていた列は落ち着きを取り戻す。列がまとまったことを確認した長身の男子は跳ねた黒髪をガリガリと掻きながらため息を吐き、金髪をプリン頭にした男子へ視線を落とす。

「アイツ、宮城で元気にしてんのかな」
「さあ。昔から体調崩しやすいしどうだろうね」
「それなんだよなー。つーか、俺ん家もお前ん家もアイツの連絡先知らないっつうんだから困るよな」
「家だけは分かってたじゃん。留守電だったけど」
「アイツの親忙しいんだから家じゃ繋がんねえだろ」

 本人と話せないなら家の電話は意味がないと渋い顔をする黒髪の男子に対して金髪の男子は淡々とした口調で返事をしていて、その様子に連れねえなァと溢した彼だが直ぐにニヤリと笑みを浮かべる。

「ま、バレーっつったらアイツだろ。上手いことどっかで会えねえかな」
「東京より宮城は広いし、そもそも宮城の高校通ってるか分かんないって言ってたじゃん」
「まあそうだけどよ」
「鉢合わせる可能性ないと思う」
「行ってみねえと分かんないだろ。家電かければ繋がるかもしんねえし」
「何、宮城に知り合いでもいるの?」

 先程からの会話が気になったのか金髪の男子よりも小柄な茶髪の男子が二人の間から顔を覗かせ、それに金髪の男子がまあねと少しだけ目尻を下げて返事をする。珍しい表情をした彼に驚いた茶髪の男子がばたきを数回すると、黒髪の男子が話してなかったかとスポーツバッグの肩紐をかけ直しながら彼に視線を向けた。

「幼馴染みが向こうにいる。引っ越してもう七年くらいだな」
「幼なじみもう一人いたんだ。どんな奴?」
「あー、そうだな。ひと言でまとめるなら“可愛い奴”」
「は?」

 大真面目な顔で黒髪の男子がそう言うと茶髪の男子はどういうことだと言いたげに眉を寄せ、当然その会話を隣で聞いていた金髪の男子は変なこと言わないでよとツッコミを入れたが、黒髪の男子は真面目に言ってんだろと不服そうな顔をする。

「何時もふわふわしてて危なっかしくて仕方なかっただろ」
「それは、そうだけど」
「その癖、バレーのことになると馬鹿みたいに強――」
「いやいやいや! ちょっと待て!」
「何だよ」
「……幼なじみって女子?」

 もしかしてと言いたげに茶髪の男子がその会話に割って入れば、それも言ってなかったかと黒髪の男子は少しだけ首を傾げ、金髪の男子は言ってなかったよと呆れた顔で彼を見上げた。

「それもっと早く言ってほしかったんだけど!」
「悪い悪い」
「聞いてなかったこっちも悪いけど。……で、その幼なじみの女子って可愛いんだ?」
「俺の初恋の相手だから当然だな」
「は!?」

 一度目は宮城に知り合いがいること、二度目はもう一人幼なじみがいたこと、三度目はその幼なじみが女の子であったこと。そして四度目の驚きは、その女の子が黒髪の男子の初恋の相手であったこと。

 これ以上なにが出てくるんだという驚きの連続に茶髪の男子は口を引き攣らせたが、その一方で黒髪の男子は久しぶりに会っても絶対に分かると自信満々な笑みを浮かべている。

「それも現在進行形」
「意外に一途」
「俺は一途なんです」
「……」
「おいなんだその顔」

 何とも言えない顔をしている茶髪の男子に心外だぞと黒髪の男子は眉を寄せ、そんな顔するならコイツも同じだぞと隣にいた金髪の男子を指し示した。それに茶髪の男子がそうなのかと目を丸くすると金髪の男子は巻き込まれたとばかりに渋い顔をしたものの、少しだけ視線を外しながら顔を隠すように顎を引く。

「それ小学校の時の話……」
「今は違うって?」
「……そうだけど」
「ふーん」
「なに、その顔」
「別に何でも?」

 ――そして、ネコがやってくる

 

PREV   TOP   ×××