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 それから試合は動いて11-09。烏野の優勢で進む試合はローテーションが回って、先程の菅原の説明の通り月島のサーブと共に西谷と日向が入れ替わった。

 音駒の安定したレシーブに苦戦しつつも烏野も日向と影山の速攻を適度に入れて押していく。その戦況に僅かに汗を浮かべた猫又は芝山に顔を向けて日向が何本決めたかを訊ねると、芝山は持っていたスコアブックに視線を落とす。

「十二点中、四本です。それに10番の囮のお陰で他のウイングスパイカーの決定率も高いです」
「とんでもねえな……」

 猫又はそう呟くと審判に向けてタイムアウトの要求をして音駒高校の一度目のタイムアウトが入った。それを合図に鶫と清水は選手達にタオルやドリンクを配っていく。それがおおよそ済むと鶫は烏養と共に選手に指示出しをするサポートを行うが、その間も周囲の声――音駒のミーティングの様子は把握していた。

「……ありゃあダメだ」
「え?」

 あれはとんでもねえバケモンだ。

「10番ですか?」
「10番の動きも変人じみてるが、セッターの方だ」

 スパイカーへの最高打点への最速のトス。針の穴を通すコントロールだ。

「ただ、誰にでも通用するトスじゃない。トスに絶対的な信頼を持って飛び込んでくるスパイカーにしか上げられないトスだ」
「……」
「しょうがねえ、天才はしょうがねえ。……が」

 天才が一人混じったところでそれだけじゃ勝てやしないのさ。

 猫又はそう言うと孤爪に視線を向け、それに気付いた彼は僅かに視線を外して居心地悪そうにしながらもゆっくり口を開いた。

「……翔陽が攻撃の軸……なら、止めちゃえば良い」

 孤爪の言葉に山本が誰だと首を傾げれば福永は首を横に振り、代わりに黒尾があのすばしっこい10番だと答えた。

「縦横無尽に動かれて捕まえらんないなら、その動く範囲を狭くしちゃえば良いよ。そんで後はひたすら追っかける――犬岡」
「ハイっス!」
「ウチで一番すばしっこいのお前だよね」
「あざっす! ハイっス!」

 犬岡と呼ばれた7番の男子が姿勢を正してそう答えると孤爪は視線だけを後方に向けて日向を見ると、確かにあんな攻撃は最初見れば誰でも驚くと肯定して目を細めた。しかしそれは一瞬で、直ぐに音駒の面々へ顔を向け直す。

「でも、最初クリア出来そうにないゲームでも繰り返すうちに慣れるんだよ」
「……」
「あの9番10番は言わば――」

 鬼と、その金棒

「まずは鬼から金棒を奪う」
「……」
「だが忘れるなよ。鬼はコートの中だけじゃねえ」
「?」

 猫又はそう言葉を続けると視線を烏野の方に向け、烏養の隣に立っている鶫を見つめた。それに黒尾と孤爪以外の選手達がどういうことだと言いたげに目を丸くすると、猫又は困ったように笑う。

「お前ら聞いたことないか、東北で有名な女子バレーの選手」
「えっ」
「鶫のことだよ」

 猫又の言葉に黒尾が補足すれば、周囲の面々はまさかと言うように鶫を見た。

 勿論鶫はその視線に気付いていたが敢えて気付かないふりをして烏養のサポートを続け、そうとは知らない音駒の面々は目を丸くしたまま猫又へ視線を戻した。

「広く細部まで観察する視界に瞬時の判断力、精密で常に研究されているデータ。それらを活かしても余りある運動能力とセンス。もし舞雛が男子バレー界にいたとしたら、あの9番なんて目じゃねえな」
「え、そんなに凄いんスか……」
「バレー雑誌にも何度も載ってる有名選手だ。最近じゃめっきり見なくなっちまったが……。あの観察力と判断力は鈍るモンじゃねえ」
「っつーと研磨みたいな感じか」
「違う……」

 猫又の言葉を噛み砕いて呟いた山本のそれを聞いた研磨が即座にそれを否定し、ゆっくりと視線を上げる。その目には何処か戸惑いと僅かな恐れが揺らいでいた。

「俺なんかとは、全然違う……あれは」

 これから先のことまで、全部を見透かしてる眼だ。

 

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