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 昔から自分からトモダチとか作れたためしがない。

 他人は苦手で関わりたくないくせに他人の目は凄く気になる。
 目立たないように神経を尖らせた。

 昔から遊び相手は歳も家も近いクロと、小学校半ばまで一緒だった鶫だけ。
 スポーツは特に好きじゃないけど、バレーボールは昔から触ってた。

 中学はクロに言われて何となくでバレー部に入った。
 人数は試合出来るギリギリだったけど、ちょっと楽しかった。

 高校でもまた何となく続けた。
 少し前まで強かった学校だった。

「……」

 人が沢山居た。ココは苦手だと思った。

「一年片付け遅せえよー。帰れねえだろー」
「ちんたらすんなー」

 センパイというのは、一年とか二年早く生まれただけでどうしてあんなに威張るんだろう?


「……お前は鋭い観察眼を持ってるし、指示だって的確だ」
「……でも三年生に何か言うと生意気だって言われるから言いたくない。昨日も他の一年より沢山走らされた」
「噂で猫又監督が復帰するって聞いた。三年だってもう直ぐ引退だ」

 だから、辞めんなよ?

「今の一、二年はお前の凄さを分かってる。お前は絶対チームを強くする」
「……」
「それに約束しただろ、鶫と」

 クロはバサリと音を立てて何時ものアレを取り出した。もう数年前になるその雑誌は学生バレーボールを取り上げているそれで、同じ物をクロはいくつも持ってる。それに載っているのは数年前に約束した鶫の姿だった。

「女子バレー界の新星、実力は折り紙付きのエーススパイカー。それにあの異名。俺たちよりもずっと先に進んでる」
「……うん」
「俺たちと別れてからも鶫はバレーを続けて、何時か一緒にバレーするっつー約束守ってんだ。破ってどうする。俺たちも鶫に負けねえくらいに強い選手にならねえと顔向け出来ねえだろ?」
「……そう、だね。約束守らないと」



 日向のスパイクに掠る犬岡の指先。僅かに軌道はずれたもののボールは音駒のコートに沈んだが、日向と影山は14-11という得点表を見て微妙な表情を浮かべていた。そしてベンチで試合を見ていた鶫は難しい表情をしてコートの配置に目を配る。

「……デディケートシフト」

 鶫が気になっていたのは、ブロッカーをレフトまたはライトに片寄らせるブロックの配置。音駒は先程のタイムアウトからずっとこの形態を取っていて、レフト側にずっと片寄らせたままだった。

「……このブロック、エースをマークする為じゃありません。日向くんの動きを誘導しようとしているのかもしれません」
「!」

 鶫がコートを見たままそう言うと、烏養と近くにいた菅原は彼女へ視線を移した。彼女は少し難しい顔でコートを見たまま言葉を続けた。

「日向くんはブロックが居ない所へ優先的に進み、他のスパイカーはそれを避けて進む。それを利用してブロックを片方に寄せれば空いている方に動く」
「確かに……」
「それに誰か一人――おそらくあの7番が日向くんをマークする役目をしています。そしてその他のブロッカーはその他のスパイカーにつく。……現時点で日向くんと飛雄くんを押さえるにはとても有効的な手段だと思います」

 鶫が言うように目の前のコートでは日向が動くと同時に犬岡が真っ先に反応をして他のブロッカーはその他のスパイカーに意識を向けていた。そして影山が上げたトスは綺麗に日向の元に運ばれたものの、犬岡の指先を掠った。そのスパイクはやや勢いを弱めて夜久が正面で拾う。

「夜久さんナイスレシーブ!」

 そのボールは綺麗にセッター位置へ返り、着地した犬岡が笑顔を浮かべる。

「俺だって攻撃も負けないぜ!」
「俺だってブロックも負けない!」

 犬岡の言葉に日向が意気込んでブロックの構えを取ると孤爪は落下してきたボールを受けて――トスを上げることなくそれを烏野側のコートへ落とす。

 それに反応しきれなかった日向の背中を越えたボールはギリギリ西谷の手に届くことはなく床へと落ちて、悔しげに西谷が体を上げる。不意打ちでツーアタックを入れてくる孤爪の判断力に鶫と影山は目を細めた。

「おい、力みすぎんなよ。ちょっとの隙も見られてる」
「おっ? おう」
「……」



 それから犬岡のフェイントを田中が寸でのところで拾ったがボールはセッター位置とは違う場所に飛ぶ。近くに居た西谷がそれに直ぐに反応した。

「スマン、ノヤっさん。カバー頼む!」
「任せろ!」

 そして同時に影山がセッター位置から離れて助走の為の距離を取った。それに直ぐに気付いた鶫は僅かにベンチから腰を上げ、そんな彼女の様子に菅原は僅かに目を見開く。その理由は直ぐに分かった。

「ライト!」

 影山がトスを呼んだことに控えていた日向と菅原が驚いた表情を浮かべ、鶫はじっとその様子を見つめる。トスを要求された西谷は直ぐに影山の位置を把握し、影山ラストと声をかけてトスを上げた。

 それを聞くが早いか影山は助走距離から十分に駆け出してネット際で跳ぶと空いているネット端にスパイクを打ち込んだ。威力とスピードも十分なそれは誰にも拾われる事なく音駒側のコートに沈み、それを見た東峰や田中、日向を始めとしたスパイカーの面々はショックを受けた表情を浮かべる。

「!!」
「おい! 今のがサイドライン沿い真っ直ぐ、ストレートだからな! ちゃんとコースの打ち分け出来ようになれよ!」
「うぐぬー……」

「影山のハイスペック、マジ腹立つわー」
「全くです」

 彼らがそれぞれに影山のハイスペックに舌を巻いたり悔しがっている傍らでは、鶫が楽しげな表情をしていたものの直ぐに表情を落とした。

「……凄いな」

 私もあんな風に、バレーがしたかった。


「すっごいですねー! 烏野高校のセッター!」
「ああ」

 音駒側のベンチでは芝山と猫又も影山のハイスペックさに舌を巻いていたが、芝山がでも孤爪さんだってスゴイですと笑顔を見せた。それに猫又は目を細め、コートに居る孤爪に視線を向ける。

 他人が苦手で他人の目を気にするが故、他人をよく観察する。

「アイツは予測が上手いんだ。コイツはこういうタイプできっとこう動く――っていう予測が。……でも、ウチの強さはそのがポイントじゃないけどな」

  

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