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「集合ー!」
「お願いシアス!」
「シアース!」
「――正直、予想上の実力だった」

 特に攻撃。

「9番と10番の速攻を止められる奴はそうそう出てこないだろう。レフト二人のパワーも強力な武器だと思う。あとは――」

 いかに攻撃へ繋ぐのか、だな。

「ハイ!」
「とは言え、とにかく君らはチームとして荒削りだし練習不足。でも――」

 圧倒的潜在能力。

「練習次第で相当強くなれるだろう。全国大会で会おう」
「あザース!」



 練習試合を終えて各々が協力をして後片付けをしている時、ドリンクボトルを纏め終えた鶫は水道前で清水に声をかけられたのでボトルケース端に置き彼女の方へ顔を向けた。

「少し話があるの。良い?」
「はい、何ですか?」
「大会の選手登録の締め切りが近いのは知ってると思うけど……」

 マネージャーの登録、貴女にしようと思ってる。

「え?」
「マネージャーは一人しかベンチに入れない。貴女は烏野を勝たせるには必要だし、ベンチにいた方が良いと思って」
「そんなこと……」
「私のことは心配しないで良いから。試合中にも出来る貴女の役目は私には出来ない。だからいて欲しいと思っただけ」
「……潔子先輩」
「皆のこと、宜しくね」
「はい!」

 清水の思いを受け止めた鶫が力強く返答をした頃、倉庫にいた田中に山本が声をかけていた。自分と性格が似ている山本に声をかけられた田中は即座に喧嘩口調で山本に食いかかったが、山本の様子はどこかおかしかった。

「あ? 何だてめぇコラ。まだやんのかコラ」
「あ、そ、そっちのマ、女、マ」
「?」

 明らかに様子がおかしい山本にようやく気付いた田中が訝しげな表情になると、山本は冷や汗を大量にかきながら先程までの張り上げた声とは打って変わったか細い声でこう言った。

「眼鏡かけたマネージャーさんの名前、なんて言うんですか」
「!? てめえええええ! ウチの大事な潔……マネージャーにちょっかい出す気かあああああ!? そのフサフサした部分しつこく触るぞオラアアアアア!」
「いや、話しかける勇気はない」
「……」
「……」

 訪れた静寂。しばらくして田中は山本に掴みかかっていた手を下ろすと、僅かに顔を逸らす。

「……潔子さん」
「!」
「清水……潔子さんだ」
「なんと……! 名が体を表している!」

 山本の感動したような声に田中は何度も頷き、最初話しかけるまで大分かかったから気持ちは分かると得意げに話してみせた。

「もう一人は舞雛鶫ちゃんだ」
「おおっ! あのマネージャーさんとは違った可愛い子……!」
「そうだろうそうだろう! 純粋で可愛くて気が利くし、バレーの知識や技術もあるからな! でもな、潔子さんは――」
「?」
「話しかけてガン無視されるのもイイぞ」
「!」

 既に悟りの境地を越えた田中の言葉に山本は衝撃を受けるが自分にはまだハードルが高いと両手を振り、それを見た田中が結構良い奴だなと笑うと山本も居住まいを正す。

「……お前もな。俺、山本猛虎だ」
「田中龍之介だ!」

 次は全国で会おうぜ!

 そんな青春が繰り広げられている倉庫外のコートでは影山が孤爪を凝視していて、会話したいなら声かけないとと菅原がアドバイスするものの雰囲気を察してか孤爪はそそくさと逃げる。そして日向と犬岡は擬音語で話していたかと思いきや、次第に何を話しているのか理解できない会話へと変貌する。

 そんな彼らが偶々目についた月島が足を止めていると、それに気付いた黒尾がニヤリと笑った。

「高校生の会話じゃねえなあ」
「!」
「でも君はもう少し高校生らしくハシャいでも良いんじゃないの」
「そういうの苦手なんで」
「ふーん……若者だねえ。お、鶫!」
「?」

 ドリンクボトルやデータブックを片付け終えた鶫が体育館に戻ってくると、直ぐに気付いた黒尾が彼女に声をかけて駆け寄った。

「どうしたの?」
「ちょっと話してえことがあったの思い出した。ちょっと場所変えようぜ」
「!」

 黒尾に背中を押された瞬間息を詰まらせるようにして鶫がビクリと震えれば、黒尾が不思議そうに眉を寄せて彼女の顔を覗き込む。鶫はバクバクと鳴る心臓を落ち着かせるように両手で胸元を押さえると、慌てて首を横に振った。

「な、なんでもない。大丈夫」
「……それなら良いけど」
「ええと、それでなんの話?」
「ああ、話ってのは――」



「友よ、また会おう!」
「アレなに」
「知らん。あんま見るな」

 後片付けを終えて球戯場前で繰り広げられている田中と山本の握手。それに孤爪が僅かに興味を持ったものの携帯をいじっている黒尾がバッサリと切り捨てた。それにそうと短く返して彼の後をついて行こうとした孤爪だったが、後方から声をかけた日向に呼び止められ足を止める。

「あのさ……道で会った時、特別バレー好きな訳じゃないって言ったよな」
「あ……うん」
「今日は? 今日勝ってどう思った?」
「?」

 日向の質問の意味があまり理解出来ていない孤爪は首を傾げたが日向の真っ直ぐな視線と声に押され、少ししどろもどろになりながらも別に普通かなあと答える。それに道で出会ったあの時、孤爪にゲームのことを同じく問いかけて同じように返されたのを思い出した日向はぐっと息を飲む。

「次は……」
「?」
「絶対必死にさせて俺たちが勝ってそんで――悔しかったとか楽しかったとか、別に以外のことを言わせるからな!」
「……」
「はあはあ……」
「……うん、じゃあ期待しとく」

 孤爪と日向のやり取りの外では澤村と黒尾が意味深な握手と笑顔を交わしていて、それに菅原と夜久が口元を引き攣らせている。次は負けません、次も負けませんと爽やかな笑顔できつい握手を交わしながら言いあっているその様子はとても恐ろしく、その隣では烏養と直井が同じようなことをしていて、菅原と夜久がツッコミに精を出していた。

「挨拶!」
「ありがとうございましたー!」

 互いに礼をして握手を交わしながら最後の挨拶をしている様子を脇で見ていた鶫だが、ふいに腕が引かれたことに気付いて顔をその方向へ向けた。その先には黒尾の不敵な笑みがあったが、どうかしたのかと問いかけようとした鶫の言葉は黒尾が彼女の右耳に口を寄せたことで遮られる。

「鉄朗く――」
俺の初恋の責任は取れよ、鶫
「え?」

 鶫にしか聞こえない声量でそう囁きそのままそっと離れると黒尾は口角を更に上げたが、鶫は右耳を押さえて呆然とした顔で黒尾を見上げることしかできない。偶然にもその光景を目撃した影山は鶫の両肩を掴んで彼女を回収し、目の前の黒尾を睨みつけた。

「余裕ねえ男は嫌われるぜ、セッターくん」
「黙っててもらえますか。それと鶫にちょっかいかけんの止めて下さい」
「それは出来ない相談だなァ。ま、せいぜい頑張れよ」
「は?」
「じゃあな、鶫」

 分かりやすく喧嘩をふっかけてヒラヒラと手を振りながらその場を離れた黒尾が音駒側に合流すると、何やってんだと言うように夜久から背中に一発頂きそのまま音駒の面々はその場から背中を向けて立ち去って行った。

「……クロ、ああいうことするの止めなよ」
「あれくらい良いだろ」
「良くないんだけど……」
「ハイハイ、もうしねえよ。あ、研磨」

 孤爪からも珍しくお叱りを受けたが気に留めていない黒尾は鶫から預かったメモを彼に手渡す。それを訝しげながらも受け取った孤爪は二つ折りにされたそれを開くと目を丸くした。

「これ……」
「鶫の連絡先。俺はアドレス交換したから登録したら連絡してやれよ。それは他の男に渡る前に処分しろ、良いな」
「いや、うん……分かった」

 早速メモを見ながらアドレスを登録し始めた孤爪の様子を横目で見て、周囲の面々がそれぞれに話し込んでいる様子を確認すると再び孤爪に視線を戻して僅かに背中を屈め、小声で話しかける。

「それと」
「な、何……」
「ホントなら本人から聞かなきゃいけねえことだが、俺から話す」
「何を?」

 鶫がマネージャーしてた理由。

「!」
「気になってただろ」
「……そう、だけど。何時聞いたの」
「練習終わって直ぐ。まあ……アレだな」
「?」

 何でその時、傍にいてやれなかったんだろうな。

「……え」
「正直キツイ。俺なら折れてるかも」
「そんなに……?」
「まあな」

 でもそれでもアイツは折れなかった。
 バレーをすることを諦めなかった。

「だから俺は、そんなアイツが好きなんだろうなァ」
「急に惚気ないでよ」
「惚気てねえだろ」


 音駒の面々が新幹線のホームを潜り終えた頃、烏野の面々も既に帰路についていた。静かな帰り道だったが今まで不機嫌だった影山がそっと口を開き、鶫とは反対側の隣にいた日向が顔を上げる。

「――今日のが公式戦だったら、一試合目負けたあの瞬間に終わるんだ。ぜんぶ」
「……知ってる」
「――そーだ、分かってんじゃねーか」

 そんでその公式戦、IH予選はすぐ目の前だ。

「さっさと戻るぞ。今日の反省と分析と、そんで練習だ」
「あス!」

  

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