22



 試合は進み22-20。烏野も20点台に乗り、試合の流れや雰囲気も烏野側に味方しつつある。音駒側は一度目のタイムアウトを取ったものの、かなり落ち着いた様子で焦りは見えなかった。

 日向の不安定な速攻や東峰の重いスパイク、それに負けず劣らずの田中のスパイクが決まり烏野の流れが強くなってきていたが、あと1点でマッチポイントという所で孤爪のツーアタックが決まり先にマッチポイントを取ったのは音駒の方だった。

「焦ったりしねーのかよ……さすが大人猫だな」
「大丈夫です!」
「?」
「皆、まだギラギラしてますから」

 こんな状況でも勢いが落ちない田中が同点をもぎ取ると息巻いてスパイクに跳び、それに感化されている山本がブロックに跳んだがそれは劣り、時間差をつけて跳んだ澤村がスパイクを決め1点をもぎ取った。そしてまたローテーションが回り、前衛に東峰が上がってくる。

「……ここで巻き返さないと」

 ミドルブロッカーを引き付けるだけではなく躱して得点に繋げられる日向くん、そして個人的な攻撃力が一番高い東峰先輩。その両方が今の烏野の最強のローテーション。これを逃したら逆転するチャンスは多分ない。

「ピンチだけど……此処で1点獲れればデュースですね!」
「あ」
「あっ、デュースっていうのは――」
「知ってますよ! 2点差がつくまでは試合は続くんだよね!」
「ですね。バレーには時間制限がありませんから2点差がつくまではどこまでも続きます」

 つまりこの一本を獲られたら即試合終了、烏野が同点デュースに持ち込めば逆転のチャンスが生まれる。

「この一本が正念場……ですね」

 田中が拾ったレシーブを影山は追い、ライト側から飛び出した日向へチラリと視線を向けたがトスはレフト側へ上げる。既に跳んでいた東峰はそれを打ち込み夜久は重い音を立てつつもそれを拾い上げたが、烏野側へボールを返してしまった。

「くそっ……スマン!」
「東峰、ダイレクトだ!」
「叩け、旭!」

 やや低めに返ってきたボールはダイレクトアタックを仕掛けるには好機。それを見て指示を飛ばした烏養に続き澤村も声を上げれば、直ぐに体勢を立て直した東峰は再び飛んでボールを打ち込んだ。

 だがそれはまた音駒のプレイヤーに拾われ、再び烏野側へボールが返る。

「ああっまた向こうのチャンスボールに……!」
「それで良い。不格好でも攻撃のカタチに出来なくても」

 ボールを繋いでいる限りは、負けないんだ。

「チャンスボオオル!」

 日向のこの感じ
 初めて戦った時と同じ、土壇場での圧倒的存在感

 “ここにいる”、“ここに持ってこい”と

「!」

 呼んでいる

 日向はブロックを躱すようにクロスでスパイクを打ち込み、そのボールを夜久が脇から跳んで拾い上げる。ネット下程の高さで飛んだボールはネット前にいた音駒の2番がレシーブで拾うが後方へと飛ぶ。音駒側のコートに落ちると思われたボールは孤爪の右手で掬い上げられ、烏野のコートへと運ばれる。

「――強いスパイクを打てる方が勝つんじゃないんだ」
「ヤバい! 下がれ下がれ!」

 ボールを落とした方が、負けるんだ。

 慌てて後衛へ下がった烏野の面々だったが一歩足らず、そのボールはライン内へ軽い音を立てて沈み込む。

「これが繋ぐということだ」

 試合は2セット連取した音駒高校の勝利で幕を下ろした。



「完敗、だな。ウチにしてはミスも少なかったし強力な武器はキッチリ機能してた。でも勝てなかった」
「……」
「アレが“個人”じゃなく“チーム”として鍛えられたチームなんだろうな」
「……」
「おい、もう終わり――」
「もう一回!」

 黙って立ち尽くしていた日向に影山が声をかけようとしたが、日向が音駒の面々に向かってそう叫ぶと周囲の面々は目を丸くする。驚く周囲に反して猫又監督はニッと笑みを浮かべ、カラカラと笑った。

「おう、そのつもりだ!」
「!」
「“もう一回”があり得るのが練習試合だからな!」



 二試合目――22-25、24-26。
 三試合目――25-27、30-32。

 試合を追うごとに接戦になってきた烏野と音駒の練習試合だったが、流石に此処まで試合を短時間で積み重ねるとプレイヤーの疲労も蓄積されていく。しかしそれに嵌まらない人物――日向は汗をかきながら勢い良く顔を上げた。

「もう一回!」
「うぬっ!? 何なんだ! 目茶苦茶動いてるだろ!? 体力底なしか!?」

 猫又監督も驚かせる日向の体力と気力、そして食らいついたら離さない負けず嫌いの精神。そろそろ止めないと時間も時間だと鶫が苦笑いをすると烏養が日向の襟首を掴み、新幹線の時間があると止めに入り練習試合は終わりを告げた。

「またウチとやりたいなら公式戦だ」

 全国の舞台。沢山の観客の前で数多の感情渦巻く場所で、ピカッピカキラッキラのでっかい体育館で――。

「ゴミ捨て場の決戦、最高の勝負やろうや」
「――!!」

 ハイと大きな声で返事をするプレイヤーたち、それをベンチで見ていた鶫は持っていたバインダーを抱き締めながらそんな彼らを少しだけ羨ましそうな目で見つめていた。そんな些細な変化に偶然気付いた菅原だが、その目があまりにも寂しそうな色をしていたので声をかけるのを躊躇った。


 

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