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 何時もより少しだけ早く烏野に到着した鶫と影山。この時間ならまだ誰も居ないかもしれないと校門の方へ顔を向ければ、校舎外にある自転車置き場から軽い足取りで学校へ向かう日向の姿が見えた。

「あ、日向くん」
「!」

 鶫が日向に声をかけようとした時、隣に居た影山が後から来いと言うと同時にその場から勢い良く駆け出した。それを見た鶫がまたやってると苦笑いをしたのもつかの間、影山は物凄い形相と勢いで日向を追いかける。

「!? うわっ、うわあああああ!」

 影山は日向を脇に転がすように追い抜いて校舎へと駆け抜けていき、日向も慌てて体勢を立て直して直ぐにその後を追う。基本的な身体能力なら日向の方が上、しかし距離が空いてしまったので勝敗は五分五分。もう姿が見えなくなってしまった彼らの背中を追うように鶫も控え目にその場から踏み出した。

 部室棟の前に鶫が辿り着くと其処では日向と影山が息を切らせていて、時折咽ながら呼吸をしている。どれだけの全力疾走をすればそうなるのかと苦笑いを浮かべて彼らに追いついた頃には二人も話せるくらいには息が整っていた。

「ゼー……これでっ……ハー、俺のっ、ゴホッ! 31勝30敗1引き分けだっ! ゲェッホオェッ!」
「と、飛雄くん……」
「……違う」
「違わねえ! 俺の逆転だ!」

 まだ息を切らしている影山に反して身体能力が高い日向が既に息を整え終えて小さな声でそう言うと、影山が直ぐに噛み付いてそれを否定する。それに鶫がまあまあと苦笑いをしながら落ち着かせようとしたが、日向は突っ伏していた体勢から体を起こしてその場に腰を下ろした。

「……おれの、30勝32敗だ」
「?」

 去年の今頃、お前に負けた。

「ボロ負けした」
「日向くん」

 中学最後のあの大会。無名の雪ヶ丘と強豪の北川第一。

 高い身体能力を持ちながらもセッターとチームメイトに恵まれなかった日向。
 高い技術力を持ちながらもスパイカーとチームメイトに恵まれなかった影山。

「――“お前がコートに君臨する王様なら、そいつを倒しておれが一番長くコートに立ってやる”」
「!」
「お前を倒すのは、絶対おれ!」

 それが十年後でも二十年後でも。

「絶対!」
「……てことは、この先お前は俺と同じ舞台にいるってことだな?」
「!」

 それが日本のテッペンでも。

「“世界”でも」
「!」
「……」
「あ、当たり前だ!」
「あと俺は“王様”じゃねえ」
「ギャアアアアア!」

 そんな二人のやり取りを見つめていた鶫の方へ振り返った影山が鶫の小さな頭に手を置くと、鶫はきょとんと目を丸くしながら彼を見上げた。

「お前もだろ、鶫」
「え?」
「コーチやるんだろ」
「!」

 影山の言葉に鶫は目を丸くすると大きく首を縦に振り、それを見た影山は満足そうに笑う。影山のその笑みを見た日向が驚いたように目を見開き何かを言いかけたが、その言葉は菅原の笑い声で遮られた。

「おー、世界か。デカイなー」
「!」

 その声に三人が右へ顔を向けると其処には澤村と菅原、東峰の姿があった。それに鶫が慌てて頭を下げると菅原がぱっと表情を変えて嬉しそうにひらひらと手を振って、それを脇で見ていた東峰が少し驚いたように目を見開いていた。

「その為にはまず、この日本の東北六県の更にその中の一県の予選の一回戦、ちゃんと勝たないとなー?」
「はざまーす!」
「期待してるからな、変人コンビ!」
「オス!」

 変人?

 勢い良く返事をしたは良いが何故そう呼ばれたのかが分からない日向と影山は首を傾げる。それに鶫がクスリと笑うと澤村は鶫に顔を向け、彼女に笑みを向けた。

「舞雛、お前のサポートも期待してるからな」
「はい!」
「頑張ろうな、舞雛」
「うん、一緒に頑張ろう」
「ありがとうございます!」



「よーし、忘れ物ない!? 出発するよー!」
「お願いします!」
「しあーす!」

 マイクロバスに乗り込んで行く面々の中で田中がゲロ袋を用意してきたと日向に向かって胸を張っていて、それを横目で見ていた鶫は少しだけ困ったように笑う。先輩や他の部員たちが乗り込んだのを確認して鶫もバスに足を向けると、影山がバスの前で待っていた。

「ほら荷物」
「別に良いのに」
「良いから」

 何時ものことだが鶫が断る前に肩にかけていた荷物を攫った影山は先に乗り込むと片手を差し出し、鶫は困ったように笑ったもののその手に自分の手を乗せる。それを見ていた菅原は僅かに目を細めたもののそのまま席についた。


 

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