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得点は動いて15-22。青葉城西があと三点で1セット先取という所で及川にサーブが回ってきた。先程及川のサーブを取った田中が気合いを入れた声を張り上げると同時に及川はサーブを打ち込んだ――その先は、田中と西谷の間。
「!」
「お見合い……!」
武田が思わずそう声を上げると、客席からも今度は間狙いかという声が聞こえてきた。絶妙なコントロール、それに烏野側がピリピリし始めた所で二本目に及川が打ち込んだのは――威力のない軟打。
強烈なサーブの印象を散々植え付けてからのそれには反応し切れず、青葉城西はセットポイントに乗った。
「烏養さん」
「?」
「及川先輩のサーブ対策、第2セットでした方が良いと思います」
鶫が持ち運び用のホワイトボードのマグネットを動かして提示したフォーメーションに、烏養は目を見開きそっと口元に笑みを浮かべた。
「……賭けに出たな、舞雛」
「いいえ、皆さんの能力と技術力を考慮した結果です」
そのサーブを同じく客席で見ていた及川のファンの一人が今まで色々と説明をしてくれていた滝ノ上と嶋田に声をかけると、ファンのもう一人が烏野側の応援だからと諌めたが嶋田はそれに素直に頷いた。
「――バレーはさ。サーブを受ける側の方が得点しやすいんだ」
何故なら先に攻撃を仕掛けることができる上に体制も整っている。そして次は得点した側がサーブ権を持つことになるので、理屈通りならば行けば交互に点が入るはず。
「でもあの及川くんはサーブだけで大量に点を獲ってる」
――もしもバレーに究極のプレーがあるとしたら、サーブだけで25点獲ることだと思うんだよね。
話に聞き入っている女子二人に嶋田はまあ無いとは思うけどと笑うと、また及川へと視線を向けてゆっくりと目を細めた。
「相手に攻撃のチャンスすら与えない」
それがサービスエースだから。
「これで決めるぞ!」
「オオ!」
及川の声に続いて青葉城西側のメンバーが気合いを入れ直す。もうこのセットは獲ったようなものなのにどうしてなのかと客席側の面々は話していたが、鶫は及川の考えを何となく察していた。
「……」
烏野はセッターが替わってから三連続ポイント。たとえ奇襲だったとしても確実に立て直した。
調子に乗ったまま2セット目には行かせないよ。
及川が打ち込んだキレの良いサーブの先は澤村と東峰の間。先程の田中と西谷のようにお見合いになってしまう可能性が高かったが、鶫はあまりその可能性を危惧していなかった。何故なら――。
「俺が取ォォォる!」
「ハイッ」
「大地さんナイスレシーブ!」
澤村の気迫に負けて東峰がボールを譲ることが予測出来ていたから。
澤村のレシーブでセッター位置へボールが飛び、駆け出したスパイカーは三人。日向の囮、ライトからは田中。岩泉は二人を認識してから後方へ上がったトスを見て東峰のバックアタックと予測しブロックに跳んだものの、その重いスパイクにブロックは弾かれる。スパイクで落ちたボールは近くにいた花巻が拾うが、勢いを殺し切れなかったボールは烏野側の日向正面へと返る。
「日向ダイレクトだアアアアア!」
「!」
それを見た影山が飛ばした声に日向はビクつきながらも慌てて跳び、初めてのダイレクトアタックをしたがタイミングが合わずギリギリで相手コートへボールを返す。それにへたくそと影山は再度声を上げ日向はうっせーなと文句を言っていたが、青葉城西側はかなり乱されていた。
「岩ちゃん、ナイスレシーブ!」
「……」
「青城の速攻な、俺達のやるのよりほんのちょっとだけタイミングがゆっくりみたいなんだ。だから――」
いつもより少しだけ溜めてから――跳ぶ!
菅原のアドバイス通りにブロックに跳ぶ日向。菅原の読み通りに跳んだ日向のブロックは金田一のスパイクを完全に弾き返し、ボールは孤を描いて誰も居ない後方へ飛ぶ。
「下がれーっ!」
「っ!」
――惜しくも、落下したボールはラインの外。
第1セットは15-25で青葉城西が獲った。
「惜しいぞ日向! 次は止めるぜ!」
「アイッス!」
「……」
……あの2番くんが入ってから、本能で動くばかりと思ってたチビちゃんまで考えて動くようになってきたな。
コートチェンジをしている間に鶫は武田と共にドリンクとタオルの配布をして備品の確認をする。烏養は2セット目もこのままのメンバーで行くことを告げると先程のホワイトボードを取り出した。
「守備を少数精鋭に切り替える!」
「――なんつーか烏野の攻撃」
影山と日向の速攻ありきで考えていた為に普通のちゃんとした攻撃をされると調子狂うなと岩泉が話を出せば、それに松川も頷いてつい10番を見過ぎると言ってドリンクを口にする。その輪に及川が足りない頭を使うと頭痛くなっちゃうよと余計なことを言った為に岩泉に頭突きを食らっていたが、その脇では監督が目を細めていた。
――確かに練習試合も今回も影山と舞雛ばかり注視してきた。
もう一人、あんな篤実なセッターが居たとは。
烏養と鶫の説明を終え鶫が澤村と西谷に最終的な指示をしていると、影山が菅原に声をかけて、青葉城西側の情報交換をしている様子が鶫の視界に入ってきた。それに少しだけ目を見張って思わず指示の手を止めると、澤村が首を傾げる。
「舞雛?」
「あ……すみません。続きですね」
「いや、大丈夫か? あまり無理は――」
「いいえ、大丈夫です。今のはちょっと気が引かれる物があっただけなので」
……まさかこんなことが起こるなんて、思っていなかった。
菅原先輩を飛雄くんと交代させる大きな理由は、他の選手が一度平常心に戻ることを狙った精神的なサポート。それから相手が警戒している日向くんと飛雄くんの速攻を一度下げて、相手にとってほとんど未知な菅原先輩という司令塔を入れて混乱させること――それだけだった。
でも、飛雄くんの中で何かが変わってきている。
「――以上です」
「分かった! ありがとうな、鶫ちゃん!」
「何時も悪いな、舞雛」
「いいえ。私はこれくらいしか出来ませんから」
――飛雄くんの中で何か変わった時、私の声はちゃんと届くようになるの?
「なあ、影山」
「?」
「俺たち、なんつーか同じポジション獲り合う敵みたいな図式になってたし、実際ポジション争いしてる訳だし」
「?」
菅原が何を言いたいのか分からない影山だったが、俺だっていっぱい試合出たいと胸を張った菅原を見て更に訳が分からなくなったが俺もですけどと戸惑いながら返事をした。それに菅原はふっと表情を緩めると、相手はデカイしスパイクは早速俺のトコ狙われるしで正直ビビると今コートに入っていた感想を素直に口にした。
「――前なら委縮してた。でも」
今は後ろにお前が控えてる。すごく頼もしい。
「!」
「俺が入ってる時の得点、お前が入ってる時の得点。合わせて烏野の得点だ」
俺は俺なりのベストな戦いを、お前はお前のベストを。
「それで青城に勝つぞ」
「オス!」
その話の切りを見計らって日向がひょっこり顔を出すと、影山くんは凹んでますかと無謀にも声をかけた。それに影山は凹んでねえよと声を上げて反論すると、日向はむっとして影山へ駆け寄っていく。
「何だよ引っ込められて可哀想だなーって思ってやったのに!」
「てめーの心配しろ! さっきのしょぼいダイレクトなんだ!」
「う、うるせえっ! 初めてだったんだ!」
「――俺が入ったらまたガンガン打たすから覚悟しとけ!」
――ピーッ!
「行くぞ!」
「オオッ!」
――第2セット、開始