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 得点は11-20。青葉城西側の優勢で進んでいる試合に飛び込んだ菅原はチームメイトに合流するとまず澤村に足を向けた。

「ハーイ」
「!?」

 そのまま勢いを乗せて掛け声と共に澤村の胸を一発小突くと、田中の頭を撫で東峰の脇腹にチョップを入れ、月島の頭にチョップし西谷とハイタッチ。

「大丈夫! 一本切ってくべー!」

 そして浮かべた満面の笑顔。それに釣られてコート内の面々もふっと表情を緩ませると気合いを入れ直し、遠目でそれを見ていた日向は感嘆の声を漏らしそのまま影山へ目を向ける。何が言いたいんだとその目を見返した影山に日向は一度ビビったものの、やっぱりと言うように肩を落とす。

「ほらもー、お前顔怖いんだよ」
「元々こういう顔だ!」
「ピリピリしてよー。あんま喋んなくなってくしよー」
「?」
「何か考え込んでんなってのは分かるけど、声出さないと何考えてるか分かんねえべよー」

 日向のそれを聞いた影山は驚いたように目を見開いて、そんなに声出してなかったかと聞く。少なくとも今までのどの試合よりもと日向が即答すれば、影山は日向に言われるほど余裕なくなってたのかとショックを受けた。

 ショックを受けた影山が鶫へ目を向けると、その視線に気付いた彼女は困ったように眉を下げたが直ぐに何時も通りの優しげな表情で微笑んだ。

「大丈夫。まだちゃんと繋いでいるから」
「……そう、か」

 コートへ目を向ければ菅原が主将が余裕なくて声出てなくてどうすんだと澤村を叱っていて、そのまま月島を呼び寄せる。月島に対して何かを指示しているようだが、不思議と鶫の耳に届いてこなかった。

「……?」

 コート全体を把握するように目と耳を向ければそれなりに穴は出てくるが、こうして一点に集中していて相手方の会話が聞こえないことは初めてだった。何か指示をするように口を動かしているので聞こえないところは読唇術で凡そ補填したが、根本的に聞こえないということが鶫の胸に引っかかった。

「……」

 練習見た感じはマジメとか丁寧って言葉が似合う感じかな。動きも普通だった。
 取り敢えず――飛雄に比べれば高さは無い。

 及川は岩泉に烏野の2番がブロックに居るストレートは低いから狙い目とアドバイスをし、ホイッスルと共に打ち込まれた花巻のサーブを目で追った。サーブは澤村が拾うと菅原が平行で田中へトスを上げ、ストレートのスパイクはリベロの渡が拾った。綺麗にセッター位置へ返ったボールは及川がレフト側に居た岩泉へと上げる。

「岩ちゃん!」
「レフトレフト!」

 狙い目はブロックの低い――ストレート

 及川のアドバイスを頭に入れたまま跳び上がった岩泉が狙いをつけてスパイクを打とうとした時、“それ”に気付いた及川が眉を寄せて慌てて声を上げた。

「! 岩ちゃ――」

 岩泉が狙いをつけた正面に居たのは菅原――ではなく月島だった。菅原よりも圧倒的に高いブロックを予想していなかったことと一瞬怯んだことによりそのスパイクは月島の手で叩き落とされ、そのプレーにドシャットだと客席が湧く。

「なるほど……」

 ストレートで来ると読んでから、相手のスパイク直前で月島くんとブロックの位置を切り替える。先を読んでいないとできない奇襲作戦。菅原先輩、コートでの読み合いが上手くなってる。

「ナイスブロック月島! ナイスナイス!」
「いや、菅原さんが……」

 月島が何か言いかけたが菅原は首を横に振り、申し訳なさそうに片手を顔の高さまで上げる。それに月島が首を傾げると、強いトコと試合すると大抵ブロック低い俺のトコ狙われるから今回も多分そうだと思ってさと菅原は言って月島の肩を叩いた。

「デカい奴隣に居るとやっぱ心強いな!」
「いや、あの、ハイ……」

「悪い!」
「ゴメン、岩ちゃん」

 得点は今の一点で12‐20。西谷と交代で日向がコートに入ると菅原は直ぐに日向を呼び寄せて耳打ちをし、及川は影山は下げても日向は入れたままなのかと意外そうにしていたがそれ以上気に留めることはなかった。

「ナイッサ―」

「国見ちゃん」
「ハイ」
「ナイスレシーブ!」

 月島のサーブは綺麗に相手コートに入り国見がセッター位置へボールを返す。及川はトスモーションに入り松川へAクイックのトスを上げ日向がブロックに跳ぶ。にゅっという音と共に跳んだ日向のブロックは松川のスパイクを叩き落とし、連続のブロックポイントを烏野が奪った。

「うほーっ!」
「日向スゲースゲー!」
「菅原さんの言う通りでしたっ!」

 “――次、青城のレシーブがセッターに綺麗に返ったら多分センターの速攻が来る。でも慌てないで何時もよりほんの少しだけ溜めて跳びな”

「月島くんは何時も入れるサーブ。だからそれを読んだ上でのブロックということね」
「……なるほどな」

 鶫の言葉に影山が顔を向けると、鶫は少し目尻を下げて手振りを加えて言葉を続けた。

「ミスはないけれど威力もないサーブ。完璧なレシーブから速攻を仕掛けるのが有効な手段かな」
「……」

 鶫のその説明が何を意味しているか分かった影山はひとつ頷くと再びコートへと目を向ける。その横顔を見て鶫はまた表情を和らげると、日向の嬉しそうな声にだべーと笑ってネット際のポジションへと戻っていく菅原へ目を向けた。

「……」

 ――コートの外から見ていた時、確かに悔しさはあったけど、中にいる時よりずっと冷静にゲームが見えてた気がする。試合に出られなかった時間も、ちゃんと糧になってる。

 日向のブロックに山口が凄いと声を上げると控えている西谷が多分菅原の指示だと言い、流石三年生と山口は嬉しそうに笑う。その間も影山は静かに試合を見つめていて、その様子を烏養がチラリと窺っていることに気付いた鶫は少しだけ笑った。

「大丈夫です」
「!」

 静かに落ち着いた鶫の声に烏養はビクリと体を震わせると鶫の方へ顔を向け、穏やかに微笑んでいる鶫に首を傾げた。

「プライドの高い飛雄くんがベンチに下げられて機嫌を損ねてしまわないか、心配なんですよね?」
「う……」
「そのことなら大丈夫です。飛雄君の強さと高い技術の要因は、高いプライドです。でも――」

 一番はそれを上回る、上達への貪欲さ。

「!」
「ずっと見てきましたから、飛雄君のこと。だから分かります」

 こんなことでは彼は機嫌を損ねないと微笑んでいる鶫の言う通り、影山の横顔は真剣さはあるものの機嫌を損なっているようには見られない。流石幼なじみだと烏養が内心でほっと胸を撫で下ろした。

 得点は日向のブロックにより13-20。青葉城西が二十点台に乗ったが、烏野は比較的落ち着いてプレーしている。岩泉の重いスパイクを安定したレシーブでボールをセッター位置へと返した澤村は、セッター位置にいる菅原へと目を向けた。

「ナイスレシーブだァーッ!」
「……」

 “天才一年にレギュラー譲った可哀想な三年生”
 スガは傍目にはそう見えるのかもな……でも

影山が疲れた時、何かハプニングがあった時。穴埋めでも代役でも、三年生なのに可哀想って思われても――試合に出られるなら何でも良い

 菅原のトスを見ながら駆け出す日向の様子に、青葉城西側のブロックの面々は来いともくれとも言わないことを不思議がっていた。それに気付いた及川が飛雄じゃないんだから神業速攻はないよと声を上げると、それではっとした面々が気付いた時には既に日向はライト側へ跳んでいた。

「!!」

 ――スガは。ずっとコートに立った時のことだけシミュレートしてきた、烏野のもう一人のセッターだ。

「おおおーっ! Cクイック! 烏野三連続ポイント……!」
「……」

 俺は影山と比べたら技術も身体能力も劣るけど、チームのことは少しだけ長く見てきた。
 “俺VS青葉城西”だったら絶対敵わないけど、“俺の仲間”はちゃんと強いよ

「ここ一本切るぞ!」
「オオ!」

  

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