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 ――もう1セットも落とせない。

 ブロックの切り替えとかもっと後出しにした方が良かったかな。完全に奇襲だし、しばらくは使えないもんな。自分で思ってるよりテンパってたのかな俺、いやでも――。

「スガーッ!」
「!?」

 菅原の思考は澤村の声により現実に引き戻され、顔を向ければお前まで考え過ぎモードに入るなよと指摘されると少しだけ苦笑いをした。

「2セット目、絶対取り返す。その為にはまず――」
「おう」

 及川のサーブを攻略。



 烏野は少しだけローテーションを回してからのスタート。それに嶋田と滝ノ上は首を傾げていたが、とにかく及川のサーブレシーブを上げないことにはどうしようもないと話し、ベンチに座る烏養へ視線を向ける。その烏養が視線を向けているコートでは菅原のトスを月島が打って得点を決めると、菅原にナイスと声を掛けられていた。

 その様子を見ていた日向はそれを指し示すと、菅原さんって決めるとすげー褒めてくれるんだと笑顔を浮かべ、それを聞いた影山はそうかよと適当に流す。それを聞いていた縁下は少し笑うと、二人に顔を向けた。

「別に"仲良しこよし"しようってしてるんじゃなくてさ」
「?」
「ああやって声かけながらスパイカー其々の表情とか今日の調子とか、そういうのさり気なく見てるんだと思うよ」
「!」

 特に月島は二・三年と違い菅原にとっては未知な部分が多い。加えて単純な性格ではないから気を遣っているのではないかと縁下は続けると、月島と聞いて直ぐに渋い表情をした影山に苦笑いをした。

「……」
「なんで俺が他人、主に月島のご機嫌伺いしなきゃいけねんだボゲ――って顔だな」

 縁下にそれを指摘されると影山は慌ててそれを否定したものの、縁下はそれを見抜いているのかそれ以上は何も言わずにふっと目尻を下げ、日向が打ち辛そうだったらトス修正するだろと問いかけた。それに影山は不思議そうにしながらも日向は直ぐ空振るんでと返答をし、縁下は日向に視線を向けると言いにくそうに頭を掻く。

「日向はまだ技術的に、その、えっと……」
「へたくそですっ」
「ご、ごめん。うん、だから――」
「いいんです!」

 言いたかったことを本人に言われてしまえばと縁下は微妙な表情をしたが、影山と息が合わないと失敗するだろと切り出して話を続けた。

「でも他の皆はそこそこ技術があるから、多少打ち辛いなって思ってもそれなりに打てちゃうんだと思うんだよね」

 そう言った縁下は思い出したように、練習の時の影山と東峰のトスの調整をしていたやり取りを引き合いに出した。それに影山は渋い表情をしてブロックがいるとそっちのが気になっちゃってと答えると、縁下は俺が言うのも何だけどと頭を掻くとふっと笑顔を浮かべる。

「烏野のスパイカーってけっこうレベル高いと思うんだよ」
「俺もそう思います、ケド……」
「じゃあさ」

 そいつらがちゃんと百パーセントの力で打てたら、多少ブロックが立ちはだかったってちゃんと戦えると思わないか?

「……」

 その言葉に影山がゆっくり目を見開いた時、岩泉のスパイクが決まり得点は02-02。此処で及川にサーブが回ってきて、烏野はサーブレシーブのフォーメーションを第1セットと変え――サーブレシーブは澤村と西谷の二人体勢になっていた。



「一番厄介なのは及川のサーブな訳だが――守備を少数精鋭に切り替える」

「今までは――」

 烏養の視線を受けて鶫がホワイトボードを手にすると今までのフォーメーションを模した磁石を動かして、サーブレシーブに対応するメンバーを二人に絞った。

「1セット目終盤でもお見合いがありました。あのレシーブを相手にした時、一瞬の躊躇いや迷いが命取りです。その為、レシーブに秀でている澤村先輩と西谷先輩の二人で対応しようと思います」
「練習では一度もやってないフォーメーションだ。でもお前らなら」
「やれます」

 鶫に続いて烏養がやや心配そうにそう言えば澤村と西谷は直ぐにそう返答をし、鶫はふっと表情を一瞬だけ緩めると直ぐに気を引き締め直した。間にきたサーブの取り方を予め決めることと声を忘れないように言うと、他のメンバーには緩いフェイントに対応するように指示を出した。


「……」

 後衛に澤村先輩と西谷先輩。そして攻撃力のある田中先輩はレフト位置、後衛には東峰先輩のバックアタック。これで澤村先輩以外のスパイカーは攻撃に専念出来る。澤村先輩と西谷先輩の守備力なら、このサーブレシーブ、十分に守り切れる。

 1セットの二割を獲られてしまった以上、あのサーブを放ってはおけない。

「来い!」

 澤村と西谷の声に怯むことなく及川はサーブトスを上げると助走から床を蹴り上げ、強烈なサーブを打ち込んだ。それに菅原は起動を見ると澤村へ声をかけ、同時に澤村はそのサーブの勢いを殺してセッター位置へボールを上げた。

「っし!」
「上がった……!」

「大地、ナイスレシーブ!」

 ――及川のサーブを一本目で切るってことには重大な意味がある。
 間違いなく今大地が上げたこの貴重なレシーブ、決められれば重い一点。

 重要で同時にプレッシャーのかかる一本。ここは――。

「田中!」

 1セット目、自分で及川のサーブの流れを断ち切ってから田中は調子を上げてる。
 ここは、お前に託す!

 菅原が上げたトスの先にはブロックが二枚。田中はそれに臆することなく腕を振り切るとスパイクを決め、青葉城西のコートにボールを沈ませた。

「うおっしゃあああああ!」

「……さすが主将くん」

 それに、あのフォーメーションを提案した鶫ちゃんも。

 コートの様子を見ていた武田がまずは第一関門突破ですかねと声を上げると、烏養はこの後何回も通らないといけない関門だけどなと言いつつもほっとしていて、でもこれでまともに戦えるスタートラインだと嬉しそうに笑った。

 そんな二人を見ていた鶫はふと影山の様子に気付いてそちらに顔を向ける。そしてその両手が強く握られたのを見て嬉しそうに目尻を下げた。

「……大丈夫、飛雄くんはちゃんと戦える」

「……こっちの士気も問題なしだな」

 経験や基礎技術では青城の方が上。点数を離されたら苦しいのは確実。
 でもしがみついていれば、必ず流れはやってくる。

 それまで絶対――。

「食らいついて放すな!」

  

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