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「……」

「ホラもー。お前顔怖いんだよ」
「大丈夫! 一本切ってくべー!」


 影山の脳裏には日向と菅原が話していたことが過っていたが、それを知るはずもないコート内の面々は何かを考え込んでいて黙り込んでいる影山に首を傾げていた。影山がチームメイトと合流した時、考え込んでいた何時もの表情から目つきはそのままに口角を上げてニヤリと笑う。

 それに烏野だけでなく青葉城西の面々も驚きを隠せず、コート内は一瞬ざわつく。影山が菅原の真似をしようとしていることに直ぐに気付いた鶫は少し困ったように笑ったものの、何処か嬉しそうにしていた。

「お前っ、何企んでる!? そうはいかせないぞ!」
「日向逃げ過ぎ!」
「翔陽、これは企んでる顔じゃなくて笑顔だぞ! 多分!」
「多分とか言うんじゃないよ西谷!」

 ビビっている日向に西谷がさっくりと失礼なことを言い、それを東峰が慌ててフォローに入ったが影山は日向ブットバスと先程までの笑顔が嘘のように眉を吊り上げていた。そんな中でたった一人、澤村は笑顔を作る努力をしていると感動したように声を漏らしていた。

「――よし、追いつくぞ!」
「オオ!」

「例の合図な、作戦変更だ」

「合図のこと、菅原さんに聞いたか?」
「セット間に聞いた」

 そう言いながら左手の拳を見せた影山に日向はよっしゃと言って頷くと、影山はコート外のラインへ足を向けた。

「ガンガン行くぜ」
「おおよ!」

 そんな日向と影山の様子を見ていた菅原は大きく息を吐くと、それに気付いた山口がそんなに肩の力を抜くことがあったのかと首を傾げた。それに菅原がやや困ったように笑うと、結構緊張してたんだぞと言うと冷や汗をかいて眉を下げる。

「去年のインターハイまでは当然三年生が居たから、俺公式戦はまだそんなに出てないんだよ」

 悔しいけど影山の方が場数多く踏んでるんじゃないかなと頬を掻くと、その割にはテンパってましたけどねと月島がその会話の輪に入り、視線をコートへ向ける。其処にはボールを受け取った影山がいて、早速サーブを打つことになっている。

 得点は17-16、青葉城西の優勢。影山はそれに焦ることなくボールの感触を確かめると最後にはそれを両手で挟むように握って、嬉しそうに口元を緩ませた。コート内では日向と田中がその様子を見ていて心配そうにしていたが、菅原は心配そうな様子どころか何処かほっとしたような表情を浮かべていた。

「影山嬉しそうだな」
「ですね」
「なんか安心するわー」

 どんな選手でも試合に出る時の誇らしさみたいのは同じなんだろうなって思ってさ。

「天才だろうが凡人だろうがさ」
「……」
「影山くん、リラックスですよー!」

 彼らの会話をひと通り聞いていた鶫が自分の両手に視線を落とした時、武田がそう影山に声をかけたことで再び視線を上に向けた。すると影山は武田の声にひとつ頷いてコートへ顔を向け、それを見た武田は大丈夫ですねと言葉を溢す。

「ちゃんと聞こえてる」
「行け、殺人サーブ!」

 日向の声援と同時に影山は大きく息を吸い込むとボールを額に当ててゆっくりと息を吐いて行く。その様子を見た鶫はほっと肩の力を抜いた時、影山は真っ直ぐに青葉城西のコートを見据えた。

 その空気感に及川は僅かに怯んだものの、一本で切るよと声をかけて他の選手達が気合いを入れ直す。そして影山が宙に放ったボールはきっちり彼の手によって打ち込まれ、リベロの腕を弾き飛ばした。

「っ!」
「渡!」

「サービスエース! リベロから獲った!」
「ナイッサァーッ!」

 それには待機している烏野の面々の士気も上がり、影山自身も嬉しそうにガッツポーズをした。そんな影山に田中は駆け寄ると、両手を上げて笑顔を浮かべた。

「ウエーイ!」
「……」
「ウエーイ!」
「ハイタッチだバカ!」

 その行動の意味が分からなかった影山が黙って田中を見つめていると日向が慌ててそう声をかけ、それにはっとした影山は戸惑いながらも田中と同じ掛け声を言いながらハイタッチを交わした。その様子をネット越しに見ていた金田一と国見が口元を引き攣らせていたが、北川第一の彼では考えられないことだと鶫は少し嬉しそうに笑う。

 そして二本目のサービスエース、ギリギリの所で岩泉が拾ったがボールはブレ、渡から花巻が繋いでかろうじてボールを返す。チャンスボールと言いながら西谷はそれをセッター位置へと返し、ブロックについた金田一は日向の様子を見つめる。

「!」

 そして、日向が何も言わないことに気付いた時には変人速攻でボールを叩いていて、青葉城西のコートへボールを沈ませていた。

「ナァイスキー!」
「これで……」

 17-18で烏野の逆転。

「……」

「菅原さんって決めるとスッゲー褒めてくれんだぜ!」

「……おい日向」
「?」
「……」
「……?」
「よくやった」
「上司か」

 日向の言葉を思い出してまた菅原の真似をして褒めた影山だが、その口調と言い方は日向がツッコんだ通り。それに影山はイラついて日向の頭をわし掴むとギャーと日向は声を上げ、それを見た東峰が慌てて止めに入った。

 ようやく何時もの調子を取り戻してきた――というよりもそれ以上の成長をしている烏野の様子に青葉城西の選手達が焦りを滲ませると及川はそんな選手達の輪に割って入った。

「ハァイ、落ち着いて」
「!」
「焦ってこっちが崩れてやる必要はないよ。一本取り返せば問題ない」
「ハイ!」
「おいその顔とポーズ腹立つヤメロ」
「酷いな!」

「……」

 ……やっぱり、そう簡単には崩れてはくれないみたい。この烏野の空気に呑まれてくれればとも思ったんだけれど、及川先輩と岩泉先輩が居る時点でそれは難しいかな。

 青葉城西が体勢を立て直し三本目の影山のサービスエースから始まったラリーを見つめながら鶫がそう考えていると、相手のブロックを気にしていた影山の意識が僅かにチームメイトへ向けられていることにほっとした。

「……あら」

 そういえば次のローテーションが回れば――。

 鶫は待機している選手の一人に視線を向けると大丈夫かしらと言うように小首を傾げた。鶫が視線を向けている待機場所で声を飛ばしている菅原はコート内に居る日向と影山へ目を向けた。

「ナイスレシーブ!」

 ――影山は日向に「俺が居れば最強だ」って言ったけど
 お前だって、日向との攻撃なら最強なんだ

「うおお!? 10番ナナメに跳んだぞ!」
「烏野、先に二十点台に乗った!」

 客席の声もそこそこに変人速攻を決めて着地した日向はハイタッチを待つように両手を上げて影山を見据える。それにイラついたのか対抗心を燃やしたのか、影山は強打するように日向とハイタッチをした。それに苦笑いをしながら見ていた鶫は待機場所から西谷と代わりに出てきた月島へ目を向ける。

「問題は此処から、かしら……」

「……」
「……」
「なんで月島VS影山みたいになってんだ!」

  

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