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得点は19-20。烏野はこのセットが獲れなければ試合終了となる。
その大詰めの場面で日向はサーブを打ったが、ギリギリネットからこぼれるように相手コートへボールを入れた。
「ネットイン! 前前!」
「ふんっ」
「松つんナイスカバー!」
偶然にも相手レシーブを乱した烏野が得点をすると青葉城西側が一回目のタイムアウトを使ってきた。流石にこの場面では使わざるを得ないと鶫は腰を上げて選手たちにドリンクとタオルを配っていると、ちらりと影山と月島へ目を向ける。
「……」
日向くんが下がって月島くんが上がってると、飛雄くんはセンターを使わなくなる。無意識、というかそうせざるを得ないというかそんな感じなのだろうけれど……流石に心配かも。
「スパイカー各々の表情とか今日の調子とかそういうの見てるんだと思うよ」
「……」
「……何」
――表情読むとか言われても「ムカつく表情」ってこと以外分かんねえし!
「鶫と違ってホントに表情変わらねえ奴だな……」
思わず影山がそう溢したのを聞いて鶫が苦笑いした時、タイムアウト終了のホイッスルが鳴ってコートへ戻っていく面々の中に混じる影山に声をかけたのは菅原だった。
「特に月島には真っ向コミュニケーションだぞ」
「? ハイッ」
「……」
――これで青城も二十点。
このセット落とせば烏野は終わり――……余計なことは考えるな!
平常心だ!
「オーライ!」
「大地さんナイスレシーブ!」
澤村が上げたレシーブは綺麗にセッター位置に返り影山は月島にトスを上げる。そのトスに月島は僅かに眉を寄せたもののスパイクを打ち、その様子を見ていた烏養が首を傾げた。
「なんか、いずそうな打ち方だな、月島」
「いず……あ、しっくりこないということですね」
「ん? ああ、そうだ」
……多分それは、飛雄くんのトスのせい。
慣れない方言を変換した鶫が烏養の言葉の答えを言わないままコートに意識を集中させた時、得点は21-21と青葉城西が追い付いてきた。それに烏養がベンチから腰を上げて武田に声をかければ一回目のタイムアウトを取った。
「……」
「月島には真っ向コミュニケーションだぞ」
菅原のアドバイスを思い返した影山は月島に歩み寄り、それに気付いた鶫がそちらに顔を向けた時、影山は月島の前で足を止めた。
「……今のトスはどうでしたかコラ」
「!?」
影山の言葉に鶫も驚いたがそれ以上に月島が驚いていて、それを隠すように何で田中さん口調なのとツッコんだものの影山はそれに噛み付くことなく黙って月島の答えを待っていた。それに月島は口元を一瞬引き攣らせたものの、次には嫌そうな表情でその答えを口にした。
「……"黙ってこのトスを打て庶民"って言われてるみたいで腹立つ」
「あ!?」
月島の言い方には流石に影山も苛立ったらしく思わずそう返事をし、それを同じく見ていた菅原が仲裁に入ろうとしたがそれより早く影山が口を開く。
「どういう意味だ?」
「!」
「……こっちにもやり方があるから、トスは一定にしててほしい」
「……?」
「武田先生、月島くんはこう言いたいんです」
「何ですか?」
「飛雄くんは月島くんにAクイックを上げる時、打つコースをトスで指示を出しています」
トスの位置がボールひとつ分セッター側ならクロス、遠ければターンというように。当然影山は決まりやすいと思った方に打たせようとしてトスを上げているが、それが月島には打ち辛く自分のやり方に沿わないということ。
「スパイカーの力量や性格にもよりますので、どちらが正しいとは言えないのですが」
「なるほど……」
「……考えてるのは君だけじゃない」
「!」
「相手の守備の形、自分が今日良く決まってる攻撃、皆何かしら考えてる。日向ですら一応何か考えてるから、普通の速攻も使えるようになったんデショ。辛うじてだけど」
月島の言葉に日向が喚いていたがそれは菅原が苦笑いをしながら止めていて、日向はその二人の会話に物理的に突っ込んで行くことはなかった。月島の話をひと通り聞いた影山は少し黙っていたが直ぐに分かったと返事をし、それに月島はまた驚いて目を丸くする。
「随分素直だね。今日大丈夫!?」
「どっちが良いか、やってみないと分かんねーし」
そしてタイムアウト終了のホイッスルが鳴り、澤村の掛け声と共にコートへ戻っていく選手達。その背中を見送った鶫は影山と月島を注視していたが、不思議と不安は感じなかった。
「トスは一定にしててほしい」
「うちの連中はちゃんと皆強いからな」
「……」
その言葉通り、影山が月島に上げたのはスタンダードなインダイレクトデリバリーのトス。それに月島は驚きながらも直前まで強打だと思わせるフェイントでブロック裏の場所にボールを落とした。
「うおっしゃああ! ブロックま後ろガラ空きゾーン!」
「やりおった!」
直前まで強打かと思ったと溢す縁下に菅原も頷くと、月島は相手を出し抜いた時イキイキするよなと笑った。それに日向が首を傾げると、隣に居た山口が解り辛いけどあれはけっこうノッてる顔と嬉しそうに教えた。
それから次のラリーでも月島のワンタッチでボールを拾った烏野、影山は先程と同じようにスタンダードなトスを月島に上げ、月島も同じようにフェイントでラストを打つ。それに反応した青葉城西のリベロ、渡が前に出てギリギリのところでボールを拾った。
「……なるほど」
月島くんがやろうとしていること分かった気がする。ただ飛雄くんがそれが出るまで焦らないでいてくれるかどうか……あまり心配はしていないけれど、少しだけ心配かな。
そんな鶫が見つめているコートでは月島のフェイントに反応した渡がボールを拾い上げ、そんな月島のプレーに青葉城西の応援席の面々は苦笑いをしていた。同じように影山も月島のプレーに疑問を抱いていたが、目の前に出てきた金田一のスパイクのブロックに跳び直ぐにトスを上げる為に体勢を立て直す。
「……」
「皆、何かしら考えてんだよ」
「!」
三度目、また同じスタンダードなトス。それが月島に上げられたのを見た渡が前に足を踏み出し、それに監督が前に出過ぎるなと声をかけたが遅かった。その時には既に月島が腕を勢い良く振り下ろしていて、それに対応出来なかった渡の腕を弾き飛ばした。
フェイント連発からの強打。フェイントを警戒し過ぎて自然と守備が前のめりになる人の心理を上手くついた作戦に鶫も目尻を下げると、コート内にいた田中と西谷が月島のプレーに声を上げて喜んだ。
そんな中、影山は月島に顔を向けると口をモゴモゴさせて噛みながらもナイスと声をかけていた。それに月島も驚いていたが東峰も目を丸くしていて、その様子を見ていた澤村はほっと胸を撫で下ろしていた。
「……これでセットポイント」
しかし青葉城西もそのまま追い抜かされてばかりではなく、岩泉のスパイクにより得点は23-24となった。何時も通りの一点が獲れればこのセットが獲れると武田が拳を握ったが、視線を向けた先にはコートライン外でボールに触れている及川が居た。
「ここで及川くんのサーブ……!」
「及川、思いっきりで良いぞ」
「わかってるよ」