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「すっげーぞ日向! ブロードキレッキレじゃねーか!」
「うっかりお前を目で追っちゃうとこだったよ!」
「ドゥフ!」

 タイムアウト中、田中と東峰の激励を受けた日向だったがスポーツドリンクを飲みかけていた為に少々咽た。それに澤村がゆっくり飲ませてやれと声をかけると二人はあっという顔をし、今度は日向の背中を擦る。

 ブロードが有効な今の内に出来るだけ点を稼いでおきたいのは当然だが、それを使えば使うだけ日向の体力は早く消費する。しかしそれは青葉城西側のブロックも同じ、体力の差を考えれば日向の方が断然上だがこのまま日向を放置しておくはずはないと鶫が冷や汗をかいた時、ふとひとつの考えが浮上した。

「――もし、私なら」

 あのブロードを、捨てる。



「アウトアウト!」
「ナイスジャッジ!」

 影山のサーブは僅かにコートラインから外れたが、次のラリーで田中がスパイクを決めて再び同点。しかし次にローテーションが回れば日向は後衛になるので、ブロードは使えなくなる。

「オイ、元気ですか!」
「!? げ、元気です!」

 影山の声掛けに一瞬驚いた日向だったが反射的にそう答えると、それに影山は満足そうに頷いてガッツリ稼いでから後衛下がれよ言葉を続ける。当たり前だ、十点獲ると返した日向に十点だけか、なら二十点だと二人は変な言い合いをしていたが、それじゃ試合終わってんだろと田中がツッコんだ。

 そして次のラリー、西谷がレシーブしたボールは綺麗に影山へと返りまたブロードで日向がコートを駆け出したが青葉城西側のブロックは動かない。ノーマークの日向に澤村が首を傾げ田中はフリーで行けと声を上げていたが、鶫ははっと目を見開いた。

「っ嘘」
「舞雛」

 私の思っていたことが、現実になるなんて。

 こんな短期間に日向への対応を変えてくるとは思っていなかった鶫だったが、実際にそれが起こっている。フリーでスパイクを打った日向だったが青葉城西のリベロにそれを拾われ、其処から及川のツーアタック。それを見た武田がどういうことだと目を丸くしていると、鶫は少々渋い表情を浮かべた。

「日向くんのブロードは凄いスピードを持って打っているので、現時点でトスを打ち分けることが出来ません」

 つまり、変人速攻の応用。

「!」
「その勢いで体は流れて、空中でコースの打ち分けは今の日向君では無理です。だから止められないブロックで邪魔をするよりはディグ、つまりレシーブで対応しようという作戦です」
「なるほど……」

 どんな時でも最前手を探して足掻く。考えることを止めない青葉城西のチーム力と個々の技術力の高さならその手を選ぶはず。

 それに鶫が冷や汗を僅かに浮かべた時、及川にサーブが回ってきた。その及川のサーブは今まで同様にジャンプサーブ、しかしギリギリの所でネット触れた。

「ありゃっ!?」
「!?」

 しかしボールは傾いて烏野側に転がるように床に落ちた。今のは仕方がないとはいえ、運さえも青葉城西に寄りつつあるこの流れは良くない。焦るなと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、その抑えていた焦りが滲み出るような感覚に陥りそうになる。

 東峰と影山のお見合いになりかけたレシーブから長いラリーが続き、これを烏野が獲れば及川のサーブ権がなくなり一点差、青葉城西が獲れば点差は広がりサーブも続く。このラリーからの一点は今まで以上に重い。

 点も流れも渡してたまるかと東峰は日向のワンタッチでブレたボールを上げたが、スパイクを打てる体勢ではない。その間に助走を十分取った日向が床を蹴った。

「センタアアアアア!」
「翔陽頼む!」

「ブチ抜けえええええ!」
「止めろオオオオオ!」

 西谷が上げたボールは日向の声を受けてセンターの方へ飛ぶ。それに烏野側と青葉城西側の声が重なり合い、日向はチームメイトに応えるように高く跳んだが――目の前の三枚ブロックにスパイクは阻まれた。

「っしゃアアアアア!」
「っ!」

 そして烏野が二度目のタイムアウト。出来ることを全てやっている状態で物理的な流れを切らなければこのまま青葉城西に流れを持って行かれる。烏養の判断は正しいと目を細めると鶫は僅かに息を詰めた。

「――何か」

 流れを切り替えられる、何か。ほんの少しでも空気を変えられる、何か――。

 その時、鶫の広い視界に飛び込んできたのはチームメイトにタオルを配っていた山口。彼の姿を捕えた鶫ははっと目を見開くとタイムアウト終了のホイッスルと同時に烏養に駆け寄った。

「烏養さん!」
「舞雛?」
「サーブ、次のサーブをピンチサーバーにしては如何でしょうか」
「……は?」

 まだ安定しない、無回転。

 それを聞いた烏養は目を見開き、それだというように山口を呼び寄せた。山口は烏養から指示を聞くと一気に冷や汗をかきやや手足が震え出したが、それでもやると鶫から番号札を受け取る。

「っじゃ、じゃあ行ってくる……」
「大丈夫。頑張って、山口くん」
「お、おう……!」

 その間に青葉城西側のタッチネットで得点が動き、日向が後衛に下がった。此処でサーブミスをすれば青葉城西側が二十点台に乗るという大事な場面、それは日向も分かっていてやや緊張気味だが、そんな中で――。

 選手交代のホイッスルが鳴り響いた。

「!?」

 上がった番号は10番。そしてそれを持っているのは山口――つまり、ピンチサーバーを意味していた。

 

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