33
――最終セット、烏野はようやく噛み合ってきてる。
それでもまだ青城には一歩及ばない
そこを一歩踏み抜く未知の可能性があるとしたら
日向、影山――きっとお前らだ
烏野にあと一歩をくれ。
「月島ナイッサ!」
「ナイスレシーブ!」
「レフトレフト!」
「――っ」
――ギラギラした目しやがって。
及川が日向を見て思わず笑みを溢して花巻にトスを上げれば、花巻のスパイクは影山のワンタッチにより勢いが弱められる。チャンスボールだと声を上げる澤村に日向は目を細めると烏養の言葉を思い返した。
「コートの横幅」
「めいっぱい」
それを口にすると同時にレフト側からライト側へ一気に駆け抜けた。それに及川は一瞬息を止める。
――キタ
あの空間を裂くような
「!」
――ワイドブロード
一気に駆け抜けた日向は青葉城西側のブロックを置き去りにしてライト側に跳び、スパイクを青葉城西側のコートに沈みこませた。その一瞬の出来事に客席は静まり返ったがウォームアップゾーンに居た烏野の面々がナイスキーと声を上げたことで会場内はざわめきを取り戻し、得点をつけている審判も思わずブロック完全に置き去りだと舌を巻いた。
得点は13-14、烏野は青葉城西に追いつき始めている。
「――……」
――……いけない
調子を上げたこのコンビを長々とコートにいさせては、いけない
「渡ナイスレシーブ!」
「一枚一枚!」
「っ!」
「マッキー、ナイス!」
――回せ、回せ
早くローテーションを
「ナイスレシーブ!」
「影山!」
「オーライ!」
チビちゃんを
一秒でも早く後衛へ回せ
「相変わらず、日向君のあの端から端まで動く攻撃は凄いですね」
「今まで使っていませんでしたから、友好的に使えていると思います」
「なるほど……」
武田の感嘆の声に鶫はそう答えると、実際は日向と影山はそこまで頭を使ってセットアップしている訳ではないけれどと思ったが口に出すことはなかった。そのコート内では三連続のブロードの為に日向が駆けていて、それに分散されたブロックを見計らい影山はレフト側に居た田中へトスを上げた。
ブロックは一枚、何とかそれを花巻が拾ったもののカバーしきれず得点は烏野に。それからラリーは続き、武田がラリーが続きますねと言葉を溢すと鶫は僅かに目を細める。
バレーはジャンプを連発するスポーツ
つまり、重力との戦い
囮で跳びブロックで跳び、スパイクで跳ぶ
「西谷ナイスカバー!」
更にラリーが続けばスパイクからブロック、更にダッシュしてまたスパイクまたは囮という行動を短いスパンで何度でも繰り返す――息をつく隙はない。
「戻れ戻れ! もう一回!」
苦しくなるにつれて思考は鈍っていく。
正直に言えばブロックや囮は疎かにしたくなるし、スパイクも誰かほかの人が打ってくれれば良いのにと思う人もいるはず。
「レフトレフト!」
「もっかい止めるよ!」
長いラリーが続いた時、酸欠になった頭で思うのはきっと
「っ!」
ボールよ早く落ちろ、願わくは相手のコートに。
「持ってこオオオオオい!」
「!」
――ほんの一瞬でもスピードを緩めれば"獲り返せない"遅れになる。
おれの身長ではほんの少しジャンプ力を抜けば高い壁に一瞬で叩き落とされる。
走れ走れ、跳べ跳べ――ここに居たければ!
「!」
「っフリーで打たしてたまるかっ!」
「――」
――今!
コートの横幅めいっぱい
影山の手に触れたボールはそのまま後方の宙を舞う。
――の、後の中央突破だ!
「ブロック一枚!」
東峰に上がったトスはそのまま重い音を立てて及川のブロックを弾き飛ばし、パイプ攻撃は貫通。ナイスキーと声を上げる烏野側では菅原が日向が打つと思っちゃったよと言葉を溢し、青葉城西側は岩泉と松川が完全に釣られたと息を荒げていた。
「……」
今、日向に上げそうになった。
トスを持って行かれるところだった。
「っ……」
最強の、囮――
得点は15-15。
東峰の影にいた日向へ影山が目を向けた時、余裕がなくなった青葉城西側が一回目のタイムアウトを取った。