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 31-32、青葉城西マッチポイント。

 先程の影山の様子を見ていた鶫は持っていたバインダーを膝の上に置き、コート内に居る彼を真っ直ぐに見つめていた。澤村に背中を叩かれながら声掛けをされている影山、今までの彼にはそんなこと一度もなかったとそっと目を細める。

「……大丈夫」

 もう、大丈夫。

「飛雄くんは、孤独な王様なんかじゃない」


「……ああ、嫌だなあ」

 菅原の声援、澤村の鼓舞。そして日向の底から引き上げる言葉の力。

 そして何より、ベンチから静かに見つめる少女。
 全部ひっくるめてこの一試合で飛雄はかなり、変化した。

「ホント厄介」

 ……飛雄、急速に進化するお前に

「俺は負けるのかもしれないね」

 ――でも
 
 鳴り響いたホイッスル。及川はコートラインの外からボールを宙に放ると床を駆け始める。後衛の澤村と西谷が今まで以上に神経を尖らせたその瞬間、振り下ろされた右腕は落下してきたボールを軽く打ち込んだ。

 緩い打球、ネット前に落ちてきたサーブをギリギリの所で澤村が拾い上げ、ボールは宙へと上がる。どうしても身構えてしまうこの場面で僅かな穴を狙ったフェイントを入れてくる及川、その勝ちをもぎ取る為の恐ろしい程の冷静さに烏養は思わず息を飲んだ。

「レフトオオオ!」
「センタアアアアア!」

 影山はその声と同時に目を向けて上げたトスはレフト側、東峰が跳ぶ位置。菅原の声援を受けて三枚ブロックに正面から打ち込んだ東峰はブロックを吹き飛ばしたが、リベロの渡がそのスパイクを拾い上げる。

「繋げ繋げエ!」
「岩ちゃん!」

 青葉城西側からもエースである岩泉がスパイクに跳び、三枚ブロックを吹き飛ばすものの田中が強烈なそれを正面で拾い上げた。しかし勢いを殺し切れなかったボールはそのまま青葉城西側へと返り、ちょうどボールの落下地点にいた金田一へ岩泉が声を飛ばす。

「やれ金田一!」

 金田一の目の前にはブロックに跳ぼうとしている日向の姿。

「!」

 ――スピードも反射も俺はお前に負けっぱなしだ

 でも――高さの真っ向勝負なら、負けねえんだよ!

 金田一のスパイクに触れることが叶わなかった日向だが後方のライト側から飛び出した西谷がそのスパイクを拾い上げ、青葉城西側へ圧力をかけていく。僅かに乱れたそのレシーブは綺麗にセッターまでには届かない。また単調なセンターからの攻撃かと思われた時、日向が助走距離を取り一気にネット前へと駆け出した。

 その様子に鶫ははっと息を飲んだが直ぐに及川たちを注視して、その冷静な目が確実に日向を捕えていることに気付いたが既に遅かった。

 ――今

 この位置、このタイミング、この角度で

「――!」

 ドンピシャ!

 影山が日向に上げたトスは、何時も通り的確だった。

 しかし日向の前には高い三枚ブロック、ボールはその壁に叩き落とされ日向の背中を通り過ぎる。それはほんの二秒間の出来事だが、その間がとても長く感じられた。

「……」

 急速に進化するお前に、俺は負けるのかもしれないね
 ――でも

 それは今日じゃない。

 日向の後方、ボールを拾うために飛び出した影山と西谷だが、手がボールに届くことはなかった。

「――う」
「おっしゃあああああ!」

 ――試合終了。
 セットカウント2-1。勝者、青葉城西高校。

 

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