奥の手というものは、人には見せないものだ。なんたって奥の手なのだから。術式を相手に曝せばその威力は増すというメリットは確かに存在するが、"これ"を不特定多数に曝すなんてリスキーな事この上無い。そもそも俺が持つ術式は「十種影法術」だ。十の式神を召喚する術式…だったはずなんだが。
「この前玉犬1匹破壊されただろ?式神の枠が空いたからだ」とか馬鹿げた事を言う。アンタ式神じゃねーだろ。つーか白が破壊されるずっと前から俺に憑き纏ってるだろ。
むしゃくしゃしていた俺は「じゃあアンタ、俺の犬か」と言えば、逮捕待ったなしの極悪笑みを浮かべて「いいぜ御主人様、精々喉元食い殺されないように気をつけろよ?」と胸倉を掴まれ、ガチで噛み付かれそうになったので慌てて影に押し込んだ。暫く出さないでおこう。きっと今の俺は死んだ目をしている。

「そう言えばよォ、酒無くなった」
「秒で出てくんじゃねぇよ」
「ああそうだ、恵に良いこと教えてやるよ」
「あ?」
「両面宿儺の器だっけか?あのガキ生きてんぞ」
「……は?」
「つーわけで酒よろしくな」
「は?」

どぷん、と俺の影に沈んだ男を呆然と見送った。おいどういうことだ。宿儺に殺された虎杖が生きてる?冗談だろ。然し、あの男がつまらない嘘を吐く男では無いということをここ数年で嫌というほど理解させられている。クソくだらない冗談はしょっちゅうだが。
しかし、そうか。
虎杖悠仁が、生きている。

「未成年だから、酒買えねぇっつーの」

なんて、今更である。
安い酒大量に買えば満足だろ。「親父が飲む酒買いに来た」といえば未成年だろうが酒を売ってくれる昔なじみの店へ向かう。実際問題何も間違ったことは言っていない。未成年に酒売るななんて俺は言わない。「恵ちゃんいい子だし、お酒なんて飲まないものね〜」なんて商店のばぁちゃん、人が良すぎるのだ。勿論俺は飲まないが。

「それにしても今回は沢山買うわねぇ〜。お父様に飲みすぎは良くないって言ってあげなさい?」
「俺としては急性アルコール中毒にでもなって死ねばいいと思ってます」
「恵ちゃん?大丈夫?お父様と上手く行ってない?おばあちゃん相談に乗るわよ?」

世間一般として子供に酒を買いに行かせる親はクソなのでは?とは思うが存外、クソ親父との仲は…良好…良好?と思ってしまうあたり俺は多分大丈夫じゃない。つーか酒買う金、俺のだし。やっぱりクソだ。
つーか酒大量に買ってやる意味はあるのか?

「ほんとクソだ」
「恵ちゃん、悩み話すだけでも気が楽になるって言うし、おばあちゃんに話してごらんなさい」

実の親父が俺に取り憑いてるなんて、死んでも言えない。



◆◆◆

「…アンタ、仲間が死ぬの初めて?」

釘崎が虎杖の死を口にし、ひゅっと息を飲んでしまった。
親父、ネタバレもうちょっと後にしといてくれ。演技は不得意なんだ。嫌な汗が出てきた。

「同級生は初めてだ」
「ふーん。その割には平気そうね」

生きてるらしいからな、虎杖。

「……オマエもな」
「当然でしょ、会って2週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚く程、チョロい女じゃないのよ」

ぐっと下唇を噛む釘崎に良心が痛む。
虎杖の生存を自分自身確認した訳ではないが、十中八九五条先生の考えだろう。この前の任務だって、どうせ上層部の連中が虎杖を体よく殺す為に当てたのだろう。その思惑通りに虎杖は死んだ訳だが…どういう訳か生き返ったわけだ。
死亡通知は上層部に既に渡っているだろう。なら生き返ったらしい虎杖の存在を隠すのは至極当然…いや、当然か?両面宿儺の器だぞ。いくら虎杖がとんでもない善人だったとしても、両面宿儺の器という事実は覆い隠せないわけで。
五条先生ヤバい橋渡りすぎだろ。平気な顔してやらかすあの人やっぱ異常だよ。「アイツが異常なのって今更だろ。高専時代にハイテンションで俺をぶち殺したヤツだぞ」しれっと脳内に話しかけんな。つーかそれアンタ先に五条先生殺したんだろ、この呪力無しのフィジカルゴリラが。俺はこの武勇伝(?)を軽く二桁回数聞いた。毎回ドン引きした。
殺しても死なない奴って一定数居るんだな(親父はしっかり死んでいるが)

呪術師はイかれてる。

「ほんとクソだ…」
「なにアンタ、平気そうな顔して結構堪えてるんじゃない」

色んな意味でな。
「お通夜かよ」なんて言いながら登場した禪院先輩のおかげでこの話題は終わった。一応表向きお通夜状態ではある。


「何、あの人達」
「二年の先輩」


なんでか流れで今年の交流会に参加することになった。「やるだろ?仲間が死んだんだもんな」そんな禪院先輩の言葉に釘崎は当然の如く「やる」と頷いた。俺も、まだまだ弱い。生き返ったとは言え虎杖が一度死んだことは事実だ。特級に手も足も出なかった。
もう二度と、失わせない。

「でも、しごきも交流会も意味ないと思ったら即やめるから」
「同じく」

我ながら可愛げのない後輩だ。
交流会まで1月半、みっちりしごかれてやろう。


◆◆◆

「しっかしオマエ、真希が言うように接近戦クソ雑魚だな」
「うるせぇ。禪院先輩のこと真希とか呼ぶんじゃねぇよクソ親父」
「逆に禪院って呼んでやるなよ…クソだぞ禪院」
「禪院先輩、当主目指してんだよ」
「ぶは!マジか!!アイツ俺と同じだろ?はははは!いいな、良いオンナじゃねぇか!」
「やめろ、マジやめろクソ親父」
「純粋に褒めてやってんだが?」

クソヒモやってた人間の言葉なんて信用出来るか。

「しかしあのクソ当主が認めるわけがねぇよ」
「なるんだよ」

俺は禪院先輩が当主になれると信じている。相伝だなんだの知ったこっちゃない。ああいう人間が上に立つべきなのだ。クソみたいな蛆虫共を一掃するような、志が強い人間が。

「だからあの人は禪院先輩でいいんだ」

ぽん、と親父の手が頭に乗っかる。真顔のままわしゃわしゃ犬のように撫でられる。なんだこの状況。鳥肌が立つんだが。

「息子が可愛いと思う日が来るとは」
「気持ちが悪い」
「俺の息子じゃないだろ。俺の息子がこんな性格なわけがな。オマエ誰の子だ?」
「アンタと母さんの子だろ」

…。なんだこれ、恥ずかしいぞ。「見た目は完全に俺の血受け継いでるのに、誰に似たんだかなァ。アイツに育てられたわけでもねぇのに」と親父は笑っていた。

「母さんに似てんのか、俺」
「さァてな」





【幕間】

「どんな女がタイプだ」

訳のわからな男が、突然訳のわからないことを言い出した。「因みに俺は身長と尻がデカイ女がタイプです」とクソどうでもいい情報を提示してきた。アンタの好きな女のタイプなんて更々興味ねぇよ。

「なんで初対面のアンタと女の趣味を話さないといけないんですか」
「そうよ。ムッツリにはハードル高いわよ」
「オマエは黙ってろ」

ややこしくなる。「因みに俺の好みのオンナは嫁さんな」と俺の影の中から言った親父に「ぶほぉッ!」と吹き出してしまった。平然と何言ってやがる!「なぁオマエ今何考えた?ムッツリか?やっぱオマエムッツリか??」と釘崎が金槌を取り出す。俺じゃねぇよ。影からの声は俺にしか聞こえないのだから勘弁してくれ。「オマエは津美紀だろ?姉とは言え血が繋がってるわけじゃねぇしよォ。ヤれるヤれる」マジで黙れクソ親父。

「津美紀は姉だ…ッ」
「は?何シスコン?近親相姦?キッショ!」
「違う誤解だ。俺じゃない。マジで死んでくれクソ」
「道踏み外す前に私が殺してやるよ」
「俺じゃない」
「…知り合いにやべぇ奴がいんの?伏黒ソイツの事教えろ。私とアンタで闇討ちだ」
「ああ…もう死んでた」
「死んでんのかよ」

絶妙に話が噛み合わない。

「東堂、アンタ何地獄作り上げてんのよ」
「これ俺のせいか?」

敷いて言えばクソ親父のせいだ。

「で、伏黒。どんな女がタイプだ」
「……その人に揺るがない人間性があれば、それ以上は何も求めません」
「なんでそんな顔を歪ませて言う?どんなクソ性癖の奴がアンタの近くに居たんだよ。殺す?死んでるんだっけか。アンタもうちょっと欲持っていいわ。私が許可する。巨乳好きって言っても許す」
「お前は俺の何なんだ」
「え?私を彼女にしたい?」
「言ってない」
「伏黒…は私のタイプじゃないわ。悪い」
「告ってもいねぇのに振られた感じやめろ」

影の中で爆笑すんのもやめろクソ親父。アンタのせいだからなこの状況。つか笑い声うるせぇ。

「やっぱりだ。退屈だよ伏黒」
「退屈って言われても」
「一目見たときから分かってた、あぁコイツは退屈だと。でも人を見た目だけで判断しちゃあいけないよな。だからわざわざ質問したのに…オマエは俺の優しさを踏みにじったんだ。まったく、どんな育ちをしたらそんなつまらん人間になるんだ」
「(元)クズヒモが父親だからじゃないか?」

最早ヤケクソだ。吐き捨てるように言ったら場が凍った。多少なりとも俺のことを知ってるであろう禪院さんは顔を背けた。「元をちゃんとつけろ、嫁さん出来てから一筋だぞ」うるせぇ知らん。それに母さん死んでからまたヒモに戻ったの知ってるからな。「…荒れてたし、ヤリ捨てだし」もっと最低だ死ね。死んでるんだった。クソ野郎め。

「は、母親は」
「俺を産んですぐ死んだ」
「」
「その後親父が再婚したけどどっちも蒸発した」
「」
「暫くして俺(と津美紀)は五条先生に引き取られた」

全員喋らなくなった。もう帰っていいか?なんて思っていたら東堂に肩をガッと掴まれた。まだ何かあるのか。と目線を合わせると東堂は滝のような涙を流していた。

「俺の、俺の優しさが足りなかった…」
「は?」
「すまない伏黒…そんなオマエに気づいてやれず俺は…俺はッ!」
「は?」
「生まれてから愛を知らずに育ったんだな、可哀想に。愛することは良いぞ、強くなれる。心も体もだ。伏黒は体も薄っぺらいからな、人を愛せば強くなれるぞ。高田ちゃんみたいな女が良い!いや!高田ちゃんは俺のものだからやらんがな!」
「はぁ、結構です」
「伏黒くん、私と付き合ってみない?私伏黒くんのこと結構気に入ってるし」
「引っ込んでろブス。私の目の黒いうちはそこらへんの女にウチの伏黒はやらん」
「はァ?アンタなんなの」
「はァー?伏黒の保護者ですがぁ?」
「いや違うだろ」
「黙ってろ伏黒。ややこしくなる」

もう十分ややこしい。




「何やってんだアイツら」
「…さぁ」
「明太子」



【書きたい所だけ・渋谷事変】

「あ、ラッキー。肉体手に入れた」
「は?」

何言って、と最後まで言い切る前に俺の魂は恵の影から引っ張り出された。恵が居る遥か頭上、呪詛師が引き寄せ封じた器。いいねぇ、やっぱり肉体があると違うわ。「オマエは下に降りて術師を殺せ」なんて呑気な事をいうババァにクク、と笑いが漏れる。

「…?孫?」
「ババァ、誰に命令してんだよ」

素手でババァの頭を打ち抜く。脆すぎんだろ。ぐしゃりと頭の無くなった肉塊が地面に落ちた。
まぁまぁ体の調子は良いな。よく動く。ついでに恵との呪霊としての使役も途切れちゃいない。アイツの呪力次第でバフが盛れるってわけだ。生きてた時より調子が良いんじゃねぇの?

「オマエの孫の体、余す所無く使い潰してやるよ」

安心しな、と肉塊を踏み潰しビルから飛び降りた。


伏黒恵
父親に取り憑かれてる苦労人。割と仲良くやってる。
甚爾のせいで「クソ」が口癖になりつつある。最近独り言が多いのが悩み、自覚はある。
最近なんか周りが過保護、何故だ。
呪霊として伏黒甚爾を使役している。戦闘で使用する場合、呪力消費が激しい為最後の切り札。甚爾を使用中は他の式神は使えないし、その場から動くことも困難。


伏黒甚爾
死んだ後息子に取り憑いたヒモ。割と息子を可愛がっている。
嫁さん一筋。女のヤリ捨ては浮気に入らないらしい。クズ。息子に酒を買わせている。クズヒモニート。
普段は恵の影の中でぐうたらしている。たまに影から出て散歩していることを恵は知らない。
生前の天与呪縛のせいか、恵からの呪力供給が無いと雑魚。恵の呪力全供給で生前レベルの戦闘力。1か100かしかない。もっと小回り利いてくれ。
渋谷事変で肉体を手に入れた場合、生前の戦闘力+恵からの呪力供給で最強バーサーカーになる。魔虚羅もワンパン。やべぇ奴である。

余談だが、恵が父親は死んでいると明確に発言していないため五条悟と虎杖悠仁以外の人間から「クズヒモは今も何処かで遊び歩いている」と勘違いされている。虎杖が「伏黒の父ちゃんめっちゃ強いんだな!」なんて言ってみんなの度肝を抜く。
気まぐれに吉野順平救済してる。


釘崎野薔薇
「私が保護者」

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