【 五条悟の過去 】

封印から解かれて外に出たら、僕の大切な人全員死んでた。日本はめちゃくちゃになってて、羂索の思い通りの世界になっていて。

だから滅ぼした。
ただそれだけの話。

僕の知っている術師はもう敵しか居なくて、クソみたいなミカンどもは神にでもなったかのように日本を牛耳っていて。こんな世界存在している意味ある?まず最初にミカンどもをぶっ殺した。全員一人残らずぶっ殺してやった。
次に術師を殺した。羂索のせいで術師は大量に増えていた。大量っていうか日本に居る全員が術師になっていた。呪力の最適化ってやつ。羂索のヤツ何がしたいんだよ。術式を手に入れた元非術師は自分の好き勝手に生きていた。日本が荒れようがお構いなしに。――僕の大切な人たちは全員死んだっていうのに。だから一人ずつ殺していった。
呪霊は随分と数を減らしていた。なんてことは無かった。術師からは呪霊は生まれないだなんてどっかの阿呆が言ってたらしいけどさ、術師は呪えるだろう?大体、術師が意図的に呪霊を生み出していた事例なんてごまんとあるのだ。知識も無い元非術師が力を得たところで呪霊が居なくなるか?否だ。ゴミみたいな呪霊がわんさか増えていた。ただまぁ、もう人間は一人も居ないし、祓ったらもう一生増えることはない。だから呪霊を片っ端から祓った。祓って祓って祓いまくって、最後に、呪霊になった天元様を祓った。「すまない、結局全てを君に押し付けてしまって」なんて謝られて。んなもん、もうどうでもいいわ。無抵抗に祓われた天元様。――虚しいな。
さて、日本に人間一人、呪霊一体も居なくなって自分も死のうかなぁ、なんて思ってたらそういや羂索殺してなくね?ということに気づいた。つーかなんで俺封印解かれたの?全員殺してしまったのでわからず仕舞い。まぁ元凶に聞きゃぁいっか。ということで羂索を探した。日本にいなきゃ海外で。くっそめんどくせ。とりあえず中国に飛んだ。居なかったから別の国に飛んだ。
そっからはいたちごっこ。あの野郎傑の肉体捨てやがった。途中で捨てられていた傑の体は燃やした。今度こそ、もう二度と利用されないように灰になるまでその体を見送った。んで、六眼使ってひたすら羂索を追いかけ回した。肉体移っても六眼のお陰で一発でわかる。追いかけて追いかけて、地の果てまで追い詰めて。それで殺した。傑の体じゃないから、躊躇することなく殺した。羂索の最後の言葉「ストーカーかよ」だった。誰がテメェなんて好き好んでストーカーなんかするかよ死ね。殺したけど。

全部終わったなぁ。
あとは僕が死んで終わり。

未練なんてない、誰もいない世界で僕が生きている意味もない。右手で銃の形を作り、頭に突きつける。うっかり呪霊にならないように、念入りに自殺しなきゃね。
そうやって、自分の頭に茈を撃ってそれで、僕の人生の終わり。
…だったはずなんだけどなぁ…。



次に目を開いたとき、目の前には赤ん坊が居た。白い髪に青い瞳。ふくふくとした体…が、僕の目の前にある。アルェ?こういうのって僕が生まれ変わって赤ん坊に〜って流れじゃないの?「な、なにこれ〜〜〜!」って喋ったつもりが「おぎゃぁあああ!」って変換されるアレじゃないの?
「元気な女の子ですよ〜」と赤ん坊を取り上げた助産師が女に向かって言った。その女は息も絶え絶えに、それでも嬉しそうに赤ん坊を見つめていた。そしてその場面をまるでドキュメンタリー映画のように見る僕。そんな僕を、誰も気に留めない。


僕、生まれ変わりに失敗したらしい。なんか幽霊になってた。ウケる。
ついでにこの赤ん坊のそばから離れられないらしい。めっちゃウケる。
どうしろってんだこのヤロウ。信じてすらいない神を呪った。




◇ ◇ ◇


子供の成長って早いよねぇ。赤ん坊は喋れるくらいに成長していた。髪の色と瞳の色から察して、きっと僕そっくりなんだろうなぁって思ってた。ドンピシャだった。
僕そっくりの女の子、名前は「小夜」。きれいな響きだ。
小夜は一般家庭に生まれた。その容姿は両親とは似ても似つかない。祖父母に外国人の血が混じってたから隔世遺伝だろうって話になった。ここで「俺の子供じゃない!誰との子供なんだ!?」とかドロドロの家庭崩壊とかされたら目も当てられない。
そんな僕の不安をよそにその家は幸せで溢れていた。いつだって小夜の父と母は仲が良かったし、小夜も愛情をうんっと与えられて育っていった。昔の、僕の五条家では見たこともない光景だ。それを見て少しいいなぁ、と思った。それ以上に、この光景を見るのが幸せだった。
クソガキに育った僕とは違って、小夜はすくすく真っ直ぐ育っていった。いやぁ、天使だね。容姿がこれで愛嬌あって、すんごく可愛くて。いやぁ、天使だね(二回目)。目に入れても痛くないほど可愛いって言葉、今まで理解できなかったけど小夜を見続けて納得。可愛い。


『あ〜僕も抱きしめてナデナデしたいよ〜。見てるだけじゃなくて触れて癒やされたいよぉ』

なんて、硝子あたりにでも聞かれたらドン引きされるだろうな。「ロリコンか?キショ」って言われそう。どっちかって言うとシスコンじゃない?妹みたいなもんでしょ?え、違う?流石に父親ポジションは小夜パパが可哀想だし。僕はお兄ちゃんでいいよ。


『小夜〜』
「なぁにー?」
『見てるだけでも幸せだけど、お話してくれると悟くんすーんごい嬉しいんだけどなぁ』
「いいよー!おはなししよー。でもどこにいるのぉ?」
『ここだ…よぉ……、ん?あれ、僕小夜と会話してない?』
「どこぉ?」
『!?え、小夜僕の声聞こえてる!?』
「きこえるー」

神様ありがとう!!わぁい!と小夜を抱きしめようとしたら…すり抜けた。そういえば、僕はずっと小夜の目の前に居るのに小夜は「どこ?」と聞いたのだから、見えていないのだろう。見えないんだから、触れることも出来ない。悲しい。でも意思疎通出来るようになったのはありがたい。『小夜には見えてないけど、近くにいるよぉ』て言えば「そっかー」と満面の笑みを返された。ウッ、笑顔が眩しい。

「なんでみえないのー?」
『なんでだろーね〜、多分仲良し度が足りないんだよぉ。小夜が僕と仲良くなったら、きっと僕が見えるようになるよ』
「じゃあ小夜、あなたと仲良くなる〜!」

僕はガッツポーズをした。合法的に仲良くなる手段を手に入れた。全くもって合法的ではないし、そもそも幽霊なので法を気にする必要もないのだが。これ生身だったら職質待ったなしである。
そして小夜と沢山話をした。あ〜誰かと会話ってほんと久しぶり。相手が小夜だと癒やされる。子供が好きそうな雑学を披露すれば「さとるくんってばものしりね!」ときらきらした目を向けられた。見てる方向全然違ったけど。かわいい、僕の小夜めっちゃかわいい。そして悟くん呼びをゲットした。呼ばれた時心臓に矢が刺さった。
さて夕暮れ時。「さとるくんはおうち帰らなくていいの?」と小夜に聞かれた。僕はいつでも小夜の近くにいるんだよ、なんて言ったら「そっかー!」とまた満面の笑み。ウッ、浄化される。いっそこのまま成仏させてくれ。






「パパ!きょうあたらしいおともだちができたの!」
「おっ、そうか。どんな子だ?」
「さとるくんっていうのよ」
「…男の子、かい?」
「うん!」
「……そうか。でも小夜、お友達なのは構わないが将来を約束し合う仲にだけはなるなよ」
「う??」
「結婚の約束とかするなよ!!小夜にはまだ早い!!!」
「けっこ???」

この親馬鹿め。と思う反面マジそれな、と思う僕が居た。
安心してよ小夜パパ、僕はお兄ちゃんポジション狙いだから。
ちなみに幼稚園で小夜に言い寄ってきたクソガキは転ばせた。ぴーぴー泣いたけど関係ないね。わー僕ってば大人気ない。でも仕方ないよね〜!僕の目の黒いうちは小夜はお嫁になんて出さないんだから!








なーんて馬鹿話はさておき、それから暫くして良くない事態になってしまった。
ことの発端は家で小夜と僕が楽しくお話していたことだ。それをじっと見つめる小夜ママに、今更ながら「あ、マズイ」と思った。案の定、ことは起こる。


「ねぇあなた、小夜独り言が多い気がするの」
「子供なんだから、そういうこともあるだろう。ほら、ぬいぐるみに話しかけるとか」
「そういうんじゃないのよ。誰もいない空間で、あたかもそこに誰かが居るように喋ってて…あなただって見たことあるでしょう?」
「…うーん…」

雲行きが怪しくなってきちゃったなぁって。
小夜パパママの話を盗み聞く。僕との会話が精神衛生的に良くないものではないのかと、そういう類の話し合い。ちょっと前に「さとるくん、ってどの子ですか?」なんて僕に興味もった小夜ママが幼稚園の先生に聞いて「そんな名前の子は居ませんよ…?」なんて返されたときの小夜ママの顔といったら…。ハァ、マズったなぁ。
その数日後、小夜は病院に連れて行かれた。精神科である。あーあー!違うんだよ、小夜はそういうんじゃなくてさぁ!幽霊の僕と喋ってるんだよ!だなんて、それはそれで頭が可笑しい発言である。そしてそんな僕の言い訳は小夜パパママにはもちろん聞こえていない。




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