■ 五条小夜の日常 ■
「ご、じょう、せんせい?」
見知らぬツンツンヘアーの少年に、すれ違いざまに手首を掴まれた。ぐっと引かれた腕がピキッっと嫌な音を立てる。「うっ」と思わずうめき声を上げながら私は少年の方に目を向けた。目をこれでもかというほどカッと開き、口はわなわなと震えている。はて、知り合いにこんな少年は居ただろうか。思い当たる節は…無い。きっと誰かと間違えているのだろう。まったく、こんなわかりやすい容姿をしているのに他人と間違えないで欲しい。
じっと私を見つめる少年が口を開く。人違いでしたすいません、とか謝罪の言葉が出ると思っていたのだ。私は。なのに、
「あんた、見つからないと思ったら女になってたんですか」
おーい、ちょっと待て。なんだそのまるで私が男だったみたいな言い方。こっちとら生まれた時から女だ!…赤ん坊時に性転換とかされてないよね?いや無いでしょ、ナイナイ。「実は貴女、生まれた時は男の子だったんだけど、私達娘が欲しかったから」なんて両親に暴露されたら私は白目剥いてぶっ倒れる自信がある。でも真逆…いや無いだろ、私の親はサイコパスじゃない。
グッと腕に力を入れて見知らぬ少年の手を振り払う。
「キミ、誰?」
「……は、」
「誰かと間違えてるんじゃないかな、私は君のこと知らないし」
「ちょっと、待って下さい。五条さんアンタ…覚えてないんですか…?」
…知り合い…か?私のこと五条さんって呼んでるしなぁ。でも学生くらいの年の男の子に知り合いなんて居ないし、友達か…会社の人の息子さん?思い当たる節が…うーん、でもすっごい見覚えある顔なんだよな。いや、うん。流石に違うだろ、多分。子供居るとか聞いたこと無いし。
「キミ、名前は?」
「…伏黒恵」
「ふしぐろ、ね。やっぱり人違いだよ。私にそんな名字の知り合いは居ないからね」
「な、」
さて、もう付き合う必要もないだろう。というか私会社に戻る途中なんだよね。は〜休日出勤はクソ!労働はクソ!私は少年に背を向けて歩き出す。「待って、五条先生…」と弱々しい声が聞こえた気がした。ちょっとだけ罪悪感、しかし「女になってたんですか」と意味不明な言葉を投げつけられたことを思い出し無視をした。
私は最初から女だ!!
というか先生って何…いつから私教員になってたの。大学卒業してからずっと会社勤めなのだが。やっぱりただの人違いね。
スタスタと足を進める。追ってくる気配は無かった。
―――めぐみ、
頭で、囁くように言葉が響いた気がした。
気の所為、気の所為だ。そう私は私に言い聞かせる。
◇ ◇ ◇
昼を大幅に過ぎ午後3時、私は会社に戻った。勿論お昼ごはんなど取っていない。くぅ、と鳴るお腹にぐりぐりと拳を押し付けながら事務所のドアを開ける。がらんとした事務所。休日出勤なんてしてるのは私と、
「ハァ…。あ、五条さんおかえりなさい」
「ただいま。七海も疲れてるねぇ」
後輩の七海建人くらいである。
眼鏡を外した七海が目を押さえる姿に私は苦笑する。帰りにパンでも買ってくれば良かったか。七海もお昼を食べていないだろう。社畜はツライよ。
「七海珈琲飲む?給湯室行って入れてくるけど」
「それなら私が」
「いいよ、私が飲みたいんだから。七海のはついで。頭使ったんなら糖分取ったほうが良いけど、砂糖は?」
「いえ、大丈夫です。眠気飛ばしたいのでブラックでお願いします」
「りょーかい。ちょっと待ってて」
一度事務所を出てすぐの給湯室に入る。なんとか課長を説得して入れてもらったエスプレッソマシン。これがあるおかげでなんとかやれているのだ。福利厚生福利厚生。遠慮無く使わせてもらっている。棚にある各々のマグカップ、そこから「五条」とテプラで貼ってあるマグカップと「七海」のマグカップを取り出す。コーヒーを入れ、2つのマグカップを持ち事務所へと戻る。ドアノブはひじで押して上手く開けて、足で少し蹴る。部屋に入って、そのまま足でドアを閉める。
「蹴って閉めない。はしたないですよ」
「このぐらい見逃してよ。私達しか居ないんだから」
「はいはい。珈琲ありがとうございます」
「いーえ。眠気覚ましって言ってたけど、それ飲んだらもう帰って良いよ。大体終わったし、週明けには間に合うでしょ」
「週明けって明日ですけどね」
「なんとかなるなる」
「まぁ貴女ならなんとかなるでしょうね。かと言って女性一人に仕事を任せるほど、男は廃れてません」
「それ課長に言ってやってよ」
「退職するときにでも言ってやりますよ」
まぁ、そんな予定今のところありませんが、と七海は珈琲を啜った。
退職なぁ…考えたことは無くはないんだけど。拘束時間も長く、所謂ブラックってヤツなんだけど、残業代も休日手当もちゃんと出るし、そこそこ基本給も良いんだよなぁ。お金使う時間が会社に奪われてるから貯まってく一方だけど。本当に何のために働いてるんだか。内心ため息を吐いてマグカップに口を付けた。
「はー、珈琲美味しい」
「ブラックですか?」
「ブラックしか飲まないから。甘いものそんなに得意じゃないし」
「なるほど、つくづく正反対だ」
「誰と?」
「…どこぞのクソです」
七海の口からクソなんて出て目を丸くする。と同時に何故私はそのクソと比べられたんだろうかと考えた。その人と似てる?でも正反対って言ったし。七海ってば私を見るとたまに複雑そうな顔するんだよな。なんなんだろう。
ズキッと頭に痛みが走った。
そして微かに声が聞こえた。チッ、またか。知らない男の声が頭に響く。それを聞かないように、振り払うように耳を塞ぐ。『――相変 ず 海は――…だなぁ』意識を、しないように。きこえないように、蓋をして。
「――五条さん?」
「…」
「五条さん!」
「ぉあ、びっくりした。どうしたの大声だして」
「こちらの台詞です。耳を塞いだと思ったら難しい顔をして…具合が悪いのなら帰って休んでください。残りの仕事は私がやりますから」
「体調は悪くないから大丈夫。ちょっと耳鳴りがしただけ」
「無理は」
「無理してない」
「…はぁ、何も言っても無駄でしょうね。さっさと仕事を終わらせましょう」
「七海は帰っていいってば」
「帰れるか馬鹿が」
「先輩に馬鹿言うな」
「馬鹿だから良いんですよ」
たまに七海は敬語が崩れたり、ちょっとした暴言が出たりする。それがちょっと面白かったりする。初めてそれを聞いたとき私は目を丸くしたし、七海は顔を青くしたものだ。真面目も良いが、気安いのも良い。以降、私に対してなんだか心を許したような七海はたまにこんな口調になる。
「仕事終わりに軽く飲みに行こうかと誘おうとしたのですが」
「えッ!行く!」
「行かせるわけないだろう。さっさと帰って寝てください」
「えー…本当に大丈夫なのにぃ」
「信用できません」
「なーなーみぃー」
「あと、家で飲むのも駄目ですからね」
「鬼…」
「鬼で結構」
さ、仕事再開しますよ、と七海はデスクのPCに体を向けた。…飲みに、行きたかった。でもまぁ七海の言う通り、今日はさっさと寝よう。じゃあ仕事、さっさと終わらせないとね!私もPCに体を向けキーボードを叩き始めた。
そして18時、不備も見当たらない書類が出来上がる。ぐぐぐ、固まった筋肉を伸びで解す。はぁー疲れた。七海も首を回しポキポキと骨を鳴らしていた。
「終わったー!定時前に終わるとか奇跡だね」
「定時前っていうか、私達休日出勤なんですけどね」
「言うな…」
「体調、酷くなってないですか?」
「なってないし、元より体調悪くないってば」
「そうですか」
信用してない顔〜。まったく、大丈夫って言ってるんだから信用してほしいものだ。
「五条さんの事、信用しているし信頼していますが、それとこれとは話が別です」
『で、尊敬はどうなのさ七海』
「――尊敬は?」
あ、と口を押さえた時にはもう遅かった。
七海が「、は?」と声を漏らした。その、表情何。愕然としたようなそんな。いや、七海のその反応は当たり前のことで。
ダンッ、と机に勢いよく手を当てて立ち上がる。荷物を全部バッグの中に詰め込む。
「あ、はは、は。疲れてるのかな。七海の言った通り体調良くないのかも?帰るね」
「ちょっと待って下さい五条さん。不安なので送りま」
「いらない。一人で帰る。戸締まりよろしく」
「五条さん!」
私を呼ぶ声を背に逃げるように事務所を出た。七海は真面目だ。戸締まりをせず私を追いかけてくるなんてことはしないだろう。駅はすぐ近くで、運良く電車も来ていた。飛び乗って、七海が追いかけてきていないことを確認して、一安心。重い息を吐いて、開いている場所に座る。
「もう、ほんと、なんなの」
独り言のように、か細い声が漏れた。ぐしゃぐしゃと頭をかき乱す。聞きたくもない声が、ずっと頭に響いている。
また、昔みたいに病院行かないといけないかなぁ。そんなことを思った。
[newpage]
■ 七海建人の追憶 ■
七海建人には前世の記憶がある。なんて、自分でも頭の可笑しいことを言っていると自覚している。呪いが蔓延る世界で、呪術師という呪いを祓う仕事をしていた、だなんて中二病も良いところだ。しかし、それを自分の妄想だとは思わなかった。
呪いを祓うという感覚も、仲間が死ぬという絶望も、自分が死ぬという痛みも、随分と年の離れた少年に呪いを残してしまったことも、全部全部覚えている。中々に酷い人生だったな、と再び生を受けた今笑った。笑い飛ばせるくらいに、あれは過去のものだったのだと割り切れていたのは良かったと思う。
幼少期から覚えていた前世の記憶は、今世の人格形成に多大なる影響を及ぼした。つまるところ、子供らしくない可愛げの無い子供だったということだ。それを気味悪がらずに個性だと笑顔で育ててくれた両親には感謝である。30近くまで生きた記憶があるのだ、今更子供のように振る舞えない。
そんな幼少期を過ごし、歳を重ね、高校で思わぬ出会いをしたのだ。
「わー!七海だ!久しぶり!」
「……灰原?」
「うん!」
前世で、私の前で呪霊に殺されてしまった灰原がそこにいた。笑って、泣きながら「七海、置いて逝っちゃってごめんね。また、仲良くしてよ!」と私に抱きついてきた。夢のような、現実だった。
そこからぽつぽつと、前世の知り合いに会うようになる。家入さんや庵さん、夜蛾さんにも出会い、顔馴染みの補助監督数名とも出会った。総じて皆、前世の記憶を持っていた。
そして、また歳を重ね大卒後入社した会社で、
「五条小夜です。わからないことがあれば直ぐに聞いてくださいね」
ひくり、自己紹介すべく開いた口は声を出せず喉の奥が引き攣った。他の同期は彼女の容姿にほぉ…と感嘆をこぼしていた。すらりとした体型、目を引く絹のように滑らかで白い髪。そして澄んだ青い瞳。まるで芸術作品のような人間。いっそ近づくのが怖いくらいだ。
前世の自分の頭をかなり悩ませた傍若無人男、五条悟。それをそのまま女にした人間が目の前に居た。
…小夜?悟ではなく?というか女?とぐるぐると情報が頭の中を巡る。何故五条さんは女性に…いや待て、普通に考えて五条悟の生まれ変わりがこの人であると考えるのが可笑しいのだ。きっと五条さんの姉とかなのだろう。そうに違いない。そう言い聞かせ気持ちを落ち着かせた。
その日の夜は新入社員歓迎会ということで居酒屋に向かっていた。面倒だな、と思う傍ら前方を歩く五条小夜に目を向けていた。
よくある質問タイムとやらだ。ノリが合コンのそれではあるが、そんなことはどうでも良かった。むしろ都合がいい。質問攻めを受けるのは当然のことながら、専ら五条小夜だった。
「五条さんはいくつですか!」
「23歳です」
「兄妹とかいるんですか?」
「一人っ子ですね」
兄も弟も居ない、と。一体どういうことだ。見た目がそっくりなだけの赤の他人か、それとも生まれ変わって女になってしまったのか。しかしそれにしては反応が無さ過ぎた。面と向かって自己紹介をした時、五条小夜は私に何の反応も見せなかった。
…赤の他人にしちゃあ、いくらなんでもそっくりすぎるだろう。あんな顔2つも世界に必要ない。うぐぐ、と唸り声が出てしまった。それを酔って具合が悪くなったと勘違いした同期が「大丈夫か?トイレ行くか?」不必要な気遣いを頂いてしまった。まだ一口も飲んでいないのだが。
「しかしすごいなぁ五条さん。大人気で」同期が視線を向ける。視線の先、五条小夜にわらわらと人が群がる。何だあれ。芸能人か?ああいうのは他の女性社員から白い目で見られないのだろうか、と思ったが何故か女性社員も一緒に群がっていた。
私の考えを見抜いたように、近くに座っていた先輩社員が口を開く。
「他のヤツに嫉妬されないかって心配?五条は男女問わず人気だからなぁ。仕事はできるし優しいし、気遣い出来て周りはよく見えてるし。五条入社して丁度一年か。え、マジ五条一年?もう十年くらい居るだろって感じだな。スキル的になんでそんなに仕事が出来るんだ!って嫉妬する奴はいるかもしれんが、大体友好的だよ」
「完璧人間ですか?」
「マジ完璧人間だよ。容姿だけじゃなくて中身も含めて女神って呼ばれてるし」
女神は流石に小っ恥ずかしいな、とは口には出さなかった。
しかし聞けば聞くほど五条悟とは真逆の人間である。あれは仕事は出来たが…いや、出来てたか?呪霊を祓うことだけならやっていたが報告書はいつも適当、酷いときには下ネタ落書きで提出。おちゃらけていたが優しさは無し。伊地知君の扱いを思い出してみろ。人使いが荒いどころの話ではない。気遣い?あの人の辞書にそんな言葉は無い。
ていうかあの人、会話しながら結構酒飲んでるな?周りの人間は気づいているのだろうか、五条小夜の周りに大量に並んでいる空ジョッキを。いつ頼んだそんな大量に。
「ああ、五条見かけによらず豪酒だから、先に沢山頼んどくんだよ。水のように酒飲むぞ。しかも全く酔わない」
つくづく真逆人間だった。あの人はアルコールの一滴も飲めなかったからな。
すいすいと飲む彼女につられ周りも酒を呷る。暫くすれば騒がしかった彼女の周りは死屍累々だった。そして彼女はそんな状況を気にせず酒を飲み続けていた。…女、神?酒を飲みまくる女神とは。
ただし、飲み会解散時の彼女の対応は素晴らしく、一人ひとり優しく介抱していた。住んでいる場所を聞いてはタクシーに乗せる。「最後の一人が帰るまで、いつもあんな感じだぜ」と先輩社員が言った。なるほど女神である。
そんなこんなで翌日。うんうんと二日酔いで唸る社員が多い中、
「君の教育係になった五条小夜です。よろしくお願いします、七海君」
「……よろしく、お願いします」
まさか自分の教育係になるとは思うまい。
こう、五条小夜には悪いのだが、あまりその顔を見ていたくないというか…先入観で五条悟に見えて仕方ない。そう、できれば関わり合いたくないのだ。そも、五条悟の生まれ変わりであるという可能性も捨てきれていないのだ。
しかし、なってしまったのは仕方ない。早く仕事を覚え、五条小夜が自分からお役御免されれば良いのだ。
と、思っていた時期が私にもありました。
人生二回目だから仕事もすぐ覚えるだろう、そう思った。実際のところすぐに覚えられたのだ。五条小夜のお陰で。いや本当に人に教えるの上手いな、と思った。教える、実践させる、助言する、実践させる。ちょっとした小技を挟む。ただただ説明させられたり、いきなりハイこれやれ、と放置したりしない。普通しないか、前世の会社がブラックだっただけで。
ちなみに私に仕事を教えている間も自分の仕事をそつなくこなしていた。更には別の人間のフォローにまで入っていた。貴女本当にこの会社に入社して1年ですか?
そして定時、
「いやぁ、覚えるのが早くて助かるよ。もう時間だし、七海君は上がっていいよ。お疲れ様」
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
「明日もよろしくね」
「こちらこそ、明日もよろしくお願いします」
そうして会社を後にし、寄り道もせず真っ直ぐ家へと帰る。
家に帰って一言、
「あの人絶対五条悟じゃないだろ」
あの五条悟が女として五条小夜に生まれ変わった可能性を排除した。普通に考えて天地がひっくり返ってもあの五条悟があんなまともな性格になるわけがない。馬鹿は死んでも治らないというが、あの人もそういう類の人間だ。
五条小夜は五条悟ではない。そう思ってしまえばもう随分と楽だった。見た目は少々心臓に悪いがなんとかなるだろう。
「おはようございます、五条さん」
「おおぅ、おはよう七海君。随分にこやかだけど…なにか良いことでもあった?」
「良いこと、というか心配事が無くなりまして。仕事に打ち込めそうです」
「それは良かったね。でも仕事に打ち込み過ぎて無理したら駄目だからね。あと、心配事が無くなってもまた別の心配事が起こるかもしれないから、もし何かあったら相談してね?」
「女神か」
「え?」
「いえ、口が滑りました。大丈夫です。今日も御鞭撻のほどよろしくお願いします」
と、無駄に湧き上がるやる気と前世で染み付いてしまったらしい社畜精神のせいで五条小夜と共に出世街道否、社畜街道を行くことになってしまうのだが、馬鹿みたいに浮かれていたこの時の自分はそんな未来、知る由もなかった。
前世で労働はクソ、と学んだだろうに。
数年後、定時はとっくに過ぎた会社にて。
「七海、倒れる前に帰りなよ。私一人で大丈夫だから」
「大丈夫なわけないでしょう馬鹿なんですか貴女」
「入社したての可愛い七海は一体どこへ…。仕事手伝ってくれるのはありがたいけど、倒れないでね。倒れて数日穴あけられる方が怖いから」
それ、そのままそっくり貴女に返したい言葉です。大体自分だって仕事沢山抱えているだろうに、私の仕事に手を出して…ああもう、大変ありがたいですがね!ありがた迷惑とは言いませんがね!!そんな言葉を飲み込む。わざわざ仕事を手伝ってもらうほど、私の仕事スキルは低く…低くは…、
「何なんですかこの仕事量…捌いても捌いても減りやしない…」
「あっはっは!課長がどんどん仕事貰ってくるからねぇ」
「その課長は」
「出来る範囲の仕事だけして帰る」
「クソが」
「腐ったミカンとまでは言わないけどね」
「……え?」
「うん?」
「いえ、なんでも」
たまに、五条悟の片鱗を見せるのは何なのだろうか。
まさか、そんなはずはないだろう。
今更、五条小夜が五条悟の生まれ変わりである可能性なんて。
[newpage]
■ 伏黒恵と仲間たちの憂鬱 ■
「コイツ、なんで沈んでんの?」
「わかんね。来たら既にこうだった。ふーしーぐーろぉー、どうしたんだよマジで」
ユサユサと俺の体を揺らす虎杖。しかし俺は体に力が入らず、されるがままになっていた。「まぁ干からびたウニはこの際放っておいて、お腹も空いたし何か注文しようかしらね」と今来たばかりの釘崎は俺たちの対面に座り、ファミレスのメニューを開いた。つーか誰が干からびたウニだ。机に突っ伏していた俺は顔だけ上げ、釘崎を睨む。
「うっわ、怖い怖い。割ってみたら中身が空っぽだったウニみたい」
「どんな罵倒の仕方だ、それ」
「伏黒起きた?じゃあ俺も注文しよ」
「寝てたわけじゃねぇよ」
のっそりと体を起こす。「伏黒なに頼む?」「ドリンクバー」「いや食えよ。ダイエットか?当てつけかオラ」「何の話だよ…」大体食欲なんて湧いてこない。それほどまでにあの出来事は自分にとってショックだったのだろう。
はぁ、とため息を吐く。いい加減鬱陶しくなったのだろう釘崎が「いい加減話しなさいよ!」とテーブルを叩いた。
「五条さんに会った」
「え!?五条先生!?」
「はぁ!?それ最初に言いなさいよ!何?ウザ絡みされてため息吐いてたの、アンタ」
「違う」
ウザ絡みだったら、良かったんだけどな。昔みたいに、気安く話しかけてくるあの人だったなら。
「話しかけたら、誰って言われた」
「…それ、って…五条先生憶えてないってこと…?」
「なによ、それ。一番憶えてそうなくせに」
「それだけじゃねぇ」
俺はもう一度重たい息を吐いた。二人の視線がじっと俺を射抜く。
信じらんねぇだろうけど、嘘じゃねえからな。と前置きをする。
「五条さん、女になってた」
「……それ、五条先生じゃなくね?」
「あんな造形の人間が世界に二人も居てたまるか!」
まんま五条さんを女にした人間が居たんだぞ、と言うと虎杖は押し黙った。釘崎も頭を抱えている。沈黙が俺たちを包む。
「マジ他人の空似とか無い?」
「二度も言わせるな」
「でも姉か妹っていう可能性は無い?」
「……双子だったら、あり得る…が」
「アイツに兄弟が居たって話、聞いたことないわね。そもそも家の話自体あんまり聞いたことないし、そのあたりどうなのよ伏黒」
「自分には兄弟は居ないって言ってたぞ」
俺と津美紀の相手をしていた昔の五条さんは、確かに「自分には兄も姉も、弟も妹も居なかったし、兄弟ってどんな感じなの?」と俺達に聞いてきた事があった。別に特別なことなんて何もない、とあの時の俺は言ったが。
「でもさ、呪術師の家系って結構ブラックなんだろ?禪院からの真希先輩達の扱いとかさ」
「…居たけど、五条は一度も会ったことが無いとか?」
「ありえない…話じゃない。禪院先輩達の時もそうだが、呪術界では双子は凶兆だ。例えば片方が六眼無下限持ちの男で、もう片方が術式も持たない女だったら…最悪の場合、」
あの世界はそういう場所だった。人の命を軽く扱うのが当たり前で、非術師なんて人間としてもカウントされない。たとえ術式を持っていたとしても、性別一つで扱いが大きく異る。
五条さんが知らない、五条さんの兄弟が居たって可笑しくはないのだ。
「その人は、」
「、なんだ?」
「その人は死んだときのこと、憶えてるのかな」
「…いつ死んだかはわからないけど、五条が知らないって言ってたなら赤ん坊のときにはもう…。だから、憶えてないんじゃない?なんでそんなこと気にすんのよ」
「だってさ」
言い方悪いけど、それって五条先生が居たからその人は死んだってことだろ。なら、その人はきっと五条先生とは関わり合いたくないんじゃないかな。もし、憶えてたらの話だけど。
虎杖の言葉に、俺たちは俯いた。
五条さんは悪くない。そういう風習が悪いのだ。そんなことを言われた所で殺された人間は納得しないだろう。――恨みは、どこへ向かうんだろうか。腐った呪術界全体に?それとも、[[rb:片割れ > 五条悟]]に?
「…ただの憶測だ。五条さんが女になってて、なおかつ記憶がないだけって可能性もある」
「それはそれでどうなの、って思うけどね。しかし女版五条か…ヤバそうね。傾国の女かよ」
「五条先生も素顔晒せばすんげぇモテたもんなぁ」
「あの不審者スタイルじゃなきゃね。でも見た目が良くても中身がアレじゃあねぇ…」
「見た目も中身も完璧人間が居たら本当にやべぇだろ」
「伏黒も釘崎も五条先生に厳しくね?優しかったじゃん」
「…そうか?」
「あれはいい加減っていうのよ」
釘崎の言葉に頷く。あの人ほどいい加減な人間は居ないだろう。頼りになる時も、有ったといえば有ったが。
「五条先生探しは続行するとしてさ、もし伏黒の会った女版五条先生(仮)に出会ったらどうするべき?気軽に五条先生の話聞けないじゃん…?」
「お兄さんか弟さん居ませんか、とか?いや初対面でそんな質問できないわ…」
「後つけるとか」
「伏黒それストーカー」
「キショ」
「おい」
いや自分でも無いとは思ったが。
じゃあどうすんだよ、と言っても誰からも声は上がらない。
「頼れる大人とか居たらな〜。ナナミンとかさぁ…」
「俺ら大人とは会わねぇよな。先輩たちとは出会えたのに、夜蛾学長とか伊地知さんとか」
「ほんとにね。もしかして子供だった私達しか居ないとか?」
「ネバーランドかよ」
「伏黒の口からネバーランド」
「キショ」
「お前らさっきから突っ掛かんじゃねぇよ!」
「もう俺らだけじゃどうにも出来ないよ〜ナナミーン、ナナミンヘルプー!」と虎杖が声を上げる。確かに、七海さんはとても頼りになるし、できれば今すぐにでも俺らの前に現れて欲しいものだ。
一人の男性がドリンクバーのグラスを持って、じっと俺たちを見ていたのに気づいた。誰だ?見覚えのない人間だったが目が合うと首を傾げられ、二カッと笑い親指を立てられた。いや、誰だあの人。
「なーなーみーーーん!たーすーけーてー!」
「虎杖うるせぇ」
へくしょん!と会社でくしゃみをする男が居た。先輩に「風邪?ひどくならないうちに病院行きなよ」と言われた男は「貴女だってさっきくしゃみしていたでしょう。そのままそっくりお返しします」ツンと返される。「私は絶対風邪じゃないし」と女は笑った。あんだけ無理して仕事抱えて、いつか体壊すだろうにと男は思った。
「風邪じゃなくて誰かに噂されてたり」
「迷信信じるんですか貴女」
「だって絶対風邪じゃないし」
なんて会話をしていたらブーブーっと内ポケットに入れていたスマホが震えていることに男は気づいた。手に取り画面を見る。友人からの電話だった。少し電話するくらいなら良いだろう、と一言先輩社員に声をかけ廊下に出る。
「どうした灰ば」
『ナナミンってめっちゃ語呂良いね!』
「ハ?」
『いや〜近くのファミレスで早めの夕食食べてたら、高校生くらいの男の子がナナミンって連呼してたから!ナナミンといえば七海だなって!』
「は??」
何を言っているんだ灰原は、と七海は思った。思ったと同時にどうも懐かしい呼ばれ方だと思った。…はて、自分はそんな呼ばれ方をされたことがあっただろうか…。
あ、いや、あっただろう。過去に自分を馬鹿っぽい呼び方した人間が一人。
社畜は最近定時では上がれていない。脳が全部仕事に持っていかれる。記憶の混濁。仕事はしっかりこなす。社畜なので。
だから、昔のことをすぐには思い出せなかった。でも、今思い出した。
「…虎杖君…?」
『僕もナナミンって呼んで良い??』
「ひっぱたきますよ」
『えー!?』
「ところでその少年と今話しできますか?」
『あ、ごめん。僕もう家帰っちゃった!』
…まぁ仕方ないか、と思った。そして少し会話をして電話を切った。
虎杖君か、懐かしい。随分と酷い呪いを彼にかけてしまった。と過去の自分を後悔する。あの後、彼はどう生きて、どう死んだのだろうか。罪悪感が七海を襲う。
「…というか、迷信も中々馬鹿にできないな」
噂されていたのは本当らしい。ということは彼女も、いや、あるいは彼か。
自分たちを探しているようだし、生活圏もこのあたりなのだろう。こちらも何かアクションを――と思ったところで思い出す。今抱えてる仕事、終わらせたところで次も山積みであることを。休みを取れるのはいつだ?休みを取れたところでで果たしてその時、人を探す体力と気力は残っているだろうか。
「…ハァ、労働はクソ」
思わず言葉がこぼれた。
[newpage]
小話
■ 五条小夜の飲み友達 ■
月に2・3回ほど、私は仕事終わりに友人と飲む。20時、いつものお気に入りの居酒屋。ガラガラと引き戸が音を立て、私は店内に入る。「お、小夜ちゃんお疲れ様!」と店長が私を迎えてくれた。これを聞くたび、はぁ明日はやっと休み!という気分になる。
そしてカウンター席、頭だけをこちらに向けた友人がお猪口を持った手を振る。せめて声出して呼んでよ、と思いながらも私はカウンターへと足を進めた。
「今日は早ェじゃねぇか」
「珍しく押し付けられた仕事が無かったからね。ところで甚爾君、何時から飲んでるの?」
「17時くらい」
「早っ。まだ飲む?」
「全然イケる」
「流石。あ、おじさん生2つ!」
「ビールより日本酒だろ」
「私の一杯目には付き合ってよ」
「お前だって日本酒派だろ」
「仕事終わりの一杯は生でしょ」
直ぐに出されたビールを手に持つ。仕方ねぇなと言って甚爾さんもジョッキを持った。「仕事終わりにかんぱーい!」と甚爾さんとジョッキをぶつけ合う。ぐびっと一口、からのごくごく。
「ぷはー!おいしい!」
「焼き鳥食うか?」
「たべる。甚爾さん頼んどいてくれたの?」
「俺これそんなに好きじゃねえ」
「押し付けか…」
なーんて。好き嫌いなんかほとんどしないし、そもそも好きじゃないものなんて頼まないだろうに。分かりづらい優しさに甘えて焼き鳥をいただく。
「昨日から何も食べてないから生き返る…」
「飯ぐらい食えよ」
「食べてる暇が無いんだって…昨日帰ったのが23時半過ぎでしょ、疲れ切ってたけど頑張ってお風呂だけ入ってそ、その後すぐ寝て起きて朝食べずに会社行ってお昼も休憩なしで仕事して」
「昨日ですらまともに食ってねえんじゃねぇの?」
「お昼に栄養剤」
「メシじゃねぇんだわ」
「焼き鳥うま」
「食え食え。お前の金だけどな」
知ってた。ついでに甚爾さんの飲食代全部私持ちだってのも知ってた。いつものことだし。
まぁね、気にはしない。一人ぼっちで飲み食いするより、話に付き合ってくれる人が居れば嬉しいし、お金だけなら沢山ある。たまに行く居酒屋以外で使い道が無いのだ。時間が無さ過ぎて。え、ショッピング行け?この時間もう店閉まり始めるでしょ。仕事終わりに開いている店を探すのが至難の業。ネットショッピングですらやる気が起きない。うーん、私ってば枯れてるのだろうか。
「まぁ枯れてるっちゃ枯れてるよな」
「心の声読まないでよ」
「全部声に出てんぞ」
うっそだぁ。と思ったが確かに全部声に出てた。「ちなみに明日は?」「久しぶりの休み」グッと親指を立てる。じゃあ明日出掛けりゃいいだろうと言われたので「昼間まで寝る!」と言ったら「だから枯れるんだよ」と正論言われた。
「出かける気力が欲しい」
「飲み行く気力はあるのにな」
「飲むのに気力いらなくない?」
「確かに」
ぐいぐい、っと酒を飲む。ビール飲み終わった。今度はあれとこれを頼んで〜っと。
「いいヤツ居ねえのか。お前見てくれ良いだろ」
「中身だって良いでしょ〜?」
「社畜根性なきゃな」
「他人に私の質押し付けてな…いや、なんか最近私に似た後輩いるな。社畜道まっしぐらの」
「ご愁傷さま」
「ご愁傷さま言うな」
確かにね、見た目は良いのは自分でも自覚してる。見た目でチヤホヤされてることも自覚ある。だがしかし、私の仕事の量と捌き具合を見てドン引きされる。なんでだよ。頑張って仕事してるだけじゃないか。
集まりのときだけ私の周りには人が集まるが、普段会社にいる時は仕事の事以外で話しかけられないのだ。忙しそうにしてるから?実際忙しいしね。
「そう考えると、私に付き合ってくれるの七海くらいしか居ないな…」
「男か?」
「一個下の後輩くんだよ。さっき言った社畜道まっしぐらの」
「なんだ、ただの同類か」
「同類言うな。七海はねー仕事すぐ覚えてくれたし、なんでも出来るし、ウチの大戦力なんだよ〜」
「同類じゃねぇか」
「…いや、まぁ同類だけどさ…うん。仕事終わりにも飲みに付き合ってくれるし」
「お似合いなんじゃねぇの?」
「はっはっは!そんな雰囲気まるで無いけどね!そんな気私も無いし」
「あっちは気があるかもしれねぇじゃん?」
「ないない!あの七海が!あはははは!」
面白い冗談である。飲みに行ったらひたすら仕事に対する愚痴大会なのだ。甘い雰囲気?絶対ない。
「はぁー、笑う。逆にさ、甚爾さんには良い人居ないの?」
「嫁」
「へーお嫁さん……お嫁さん??」
「おう」
「嫁!?甚爾さん結婚してたの!?」
「息子も居るぞ」
「え、は、は!?居酒屋で人に飲食代たかる甚爾さんに奥さん!?息子!?嘘でしょ!?」
衝撃の事実。ヒモが似合いそうな甚爾さん、まさかの結婚済み。しかも息子まで居る。え、それなのに夕方から居酒屋で呑んだくれてるの?クズ過ぎない?仕事は?よくこんな人と結婚しようと思ってくれた人が居るな。友人までならまだしも旦那がコレとか。
「おい、お前失礼な事考えてるだろ」
「考えるに決まってるでしょ。…え、ちょっと。二人でこうして飲んでるの、不倫とかにならないよね?泥沼やだよ。というか私そんな気無いよ」
「ぶはっ!泥沼…っく」
「笑うな。デリケートな離しだぞ」
「嫁、お前のこと知ってるし」
「なんで!?」
「俺が話してる。ただの飲み友達だってな」
それで許してくれるのか奥さん。女と二人きりで飲んでるんだぞ。まぁこの旦那だもんな、大らかでないとやっていけないだろう。
「今までで一番ビックリした…」
「嫁と出会ってなきゃ、俺がお前貰ってやっても良かったけどな」
「ふざけんな、私にも選ぶ権利があるわ」
「おいどういう意味だ」
「そのまんまの意味だよ。ちなみに私に飲食代全部払わせてるの、奥さん知ってる?」
「知ってるわけ無ぇだろ」
「このクズ野郎!」
ちなみにこの日もしっかり私が全額お支払いした。
[newpage]
■ 五条小夜の暴露 ■
「――悟?」
と突然手を掴まれた。なんかデジャヴュ。バランスを崩しそうになったところを、隣に居た七海が支えてくれた。私は腕を掴んだ人間を見た。なんか特徴的な前髪の男がそこに居た。うーん、知らない人。しかし隣に居た七海が「…まさか、夏油さん?」と声を漏らした。うん?七海の知り合い?七海を見ると、私とげとうさん?を交互に見て、困った顔をした。
「七海か、久しぶり」
「えぇ、夏油さん。お久しぶりです。ところで、彼女の手を離してもらってもいいですか?」
「何故?」
何故…?こっちが何故?だよ。見知らぬ人間に腕掴まれてる恐怖。それを感じ取ってくれたのか七海が私の体を引き寄せようとする…が、げとうさん?は私の腕を離そうとしない。なんで?げとうさんなんて知らないのだが?本当にどちら様?
「彼女は五条さんではないので」
「私五条さんじゃなかった…?」
「五条さんですが五条さんじゃないです」
「…なぞなぞ…?」
「ちょっと五条さん、じゃなくて小夜さん。黙っててもらっていいですか」
はい、黙ります。とりあえず七海に任せてみよう。
「夏油さん、こちらの方ですが五条小夜さんです」と紹介されたのでとりあえず頭を下げる。きょとんとした表情のげとうさんは私を見る。「こちら、夏油傑さんです。まぁ私の知り合いなのですが」げとうさんはげとうすぐるさん。うん、憶えた。そしてやっぱり記憶にないから知らない人だ。
「…記憶が、無いのか?」
「エッ」
「わかりません」
「エッ!?」
ちょっと待って、私記憶喪失なの?実は昔からの知り合い?七海とも?「ただ私は、瓜二つの別人だと思ってます」え、何、ドッペルゲンガー?ちょっと待ってよ何の話?
「でも、こんな悟と瓜二つな人間、居るわけないだろう」
「それも思いました。が、中身は全くの別人ですよ。記憶がないからといって、これほどまでに正反対の性格。あの人では絶対ありえません」
「じゃあ悟の姉か」
「ちなみにご兄弟は居ないそうです。そうですね?」
「生まれてこの方一人っ子ですね」
「じゃあ君が悟で間違いないだろう」
小夜さんですがなにか。さとるって…えー?
なんて3人で道のど真ん中に居たせいで、通る人に睨まれる睨まれる。「…話するなら、とりあえずどこうか」と声をかけると「そうですね」と七海は同意してくれた。夏油傑さんは…私の腕を掴んだままだ。七海助けて。
「はぁ…夏油さん。彼女は逃げも隠れもしませんので一度手を離してくれませんか」
「…私は、悟に謝りたくて」
「それを含めて、別の場所で話しましょう」
3人で場所を移動する。私達仕事終わりで飲みに行くところだったんだよね。「多少騒がしい場所ですが、静かすぎる場所より良いでしょう。小夜さんが緊張するといけませんし」気遣いが出来る男、七海である。しれっと名前呼びされてる。[[rb:件 > くだん]]の「さとる」と区別するためだろう。
ということで、馴染みの居酒屋に居るのは、不思議な面子である。
社畜仲間の七海、謎の人物夏油傑さん。そして――先に飲んでいた飲み友の甚爾さんである。
店に入って甚爾さんと目が合い、手をあげようとした所で後ろに居たはずの夏油傑さんがツカツカと甚爾さんに近づき、殴りかかろうとした。「エッ」と思わず声を上げてしまったが、甚爾さんは平然と夏油傑さんの拳を受け止め、そのまま足払いをし、バランスを崩した夏油傑さんの首を締め上げていた。これにも「エッ!?!?」と声を上げてしまう。なんとか甚爾さんを落ち着かせ…というか甚爾さんは落ち着いていたのだが、今にも甚爾さんに噛み付きそうな夏油傑さんを落ち着かせ、気を利かせてくれた店長が個室へと案内してくれた。引きずるように甚爾さんが夏油勝るさんを連れて行く。その後ろを私達が着いていく。なんなんだろうか、この状況。部屋に入るやいなやぺいっと夏油傑さんを投げる。そして続くように部屋に入る私達。
「なんでお前が居る…ッ!」
「そりゃあ、コイツとはオトモダチだからな」
「…お前、何を企んでいる?」
「飲食代集ろうとしてるだけじゃないかなぁ、甚爾さんだし」
「五条さんちょっと静かにしててください。今口をはさむとろくなことになりませんよ。とりあえず生で良いですか」
「いいよ」
「七海達は平然と酒を頼もうとするな!」
いや、居酒屋で酒を頼まないのはマナー違反じゃないだろうか。マナー違反だよ。私達飲むために来てるんだから。見ず知らずの人間に口を出されるいわれはない。「俺八海山」「え、ずる」「最初の一杯は生なんだろ」「そうだけどさ。どうせ一升でしょ、半分」「半分も持ってくのかよ」「お会計私でしょ??」「仕方ねぇなあ」「それ私の台詞だよね?」なんて会話を甚爾さんとしてたら夏油傑さんには信じられないものを見たような顔をしていた。
「お酒が入る前に確認しておきます」
「注文先にしちゃおうよ。食べ物何が良い?」
「何故話し合いの場を居酒屋にしてしまったのか…」
「コイツが酒好きだからだろ」
「…悟が酒…?」
「夏油さん、彼女は『あの五条さん』ではありません、多分ですが」
謎すぎる。あの五条さん、とかさとる、とか。「それらを確かめる場です」と七海が言った。
「まず、ここに居る人間の関係性の確認なのですが、私七海建人ですが五条小夜さんの会社の後輩になります」
「えーっと、七海の先輩になります。私と甚爾さんの関係?飲み友達だよね」
「飲み友兼財布」
「貴女ヒモぶら下げて何してるんですか。危機感どこに置いてきたんですか?」
「七海本気で怒ってない…?」
「まぁ説教は後回しで。ちなみに夏油さんと甚爾さんとの関係は」
「仇だ」
「何したの甚爾さん」
「憶えてねぇな」
「ッおまえ!!」
なんて、また甚爾さんに飛びかかろうとしたところで個室のドアが開く。
店員さんである。
「しつれいしまーす。生の方ぁ〜」
「はーい!私のと七海の分っと…えっと夏油傑さん?」
「…あ、あぁ。ありがとう」
「八海山一升は」
「一緒に受け取ります。ありがとうございまーす」
「ごりゅっくりど〜ぞ〜」
ぱたん、とドアが閉じた。私はジョッキを手に
「では、よくわからない集まりにかんぱ――」
「まだ飲むな!話が終わってからと言ってるでしょう!」
「かんぱーい」
「そこの猿も乗るな。グラスを置け」
怒られた。酒を目の前にして飲めないとか拷問じゃないかな。しゅんとしながらジョッキを机に置く。確かに話し合いをするために来たのだから仕方ないといえば仕方ない。
「ところでげとうすぐるさん?って誰ですか」
「私」
「いや、それはわかってるんですけど」
「君の親友だ」
「存じ上げないですね。…エッ、怖い」
「だって君は五条悟だろう!」
「違いますね」
五条悟という人間ではない。「五条小夜です」と改めて言うと夏油傑さんは「…五条、小夜…」と呟き、顔を歪ませた。どういう気持ちの顔なのそれ。
あ、そして甚爾さんがもう飲み始めてる。ずるい。私もスス、とジョッキを近づけ机に乗せたまま一口飲む。む、やっぱり泡だけになってしまう。ぐいっと持ち上げようとしたら七海に頭をべしんと叩かれた。ひどい。
「飲むな」
「せっかくのお酒が…」
「さとるが、さけ」
「それさっきも聞きましたね。さとるじゃないんですけど」
「…さとる」
「このひとこわい」
「ちょっと夏油さん、小夜さん怖がらせるのやめてもらえませんか」
「さとる…」
収拾つかないなこれ。我関せずでぐびぐび飲んでる甚爾さんが憎い。
ハァ、と七海が溜息を吐く。そして、真っ直ぐと私の瞳を見た。
「うだうだしてると一向に進まないので、単刀直入に聞きます。五条小夜さん、貴女――五条悟を知っていますね?」
う、と私は言葉に詰まる。知っているさ、知っているとも!だって彼は、彼は私の。
眉間にシワが寄っていたのか、七海が人差し指で私の眉間を突く。
「私は貴女を困らせたくはない。でも、もし話してもらえるなら話して欲しい。私達の為に」
「…引かない?いや、絶対引かれるのわかってるんだけどさ。出来れば、この話を聞いても今まで通りに接して欲しい」
「引きませんよ。引くとすれば貴女の抱えている仕事量くらいです。あと飲む酒の量」
七海私がお酒飲んでる時内心引いてたんだ?結構飲みに付き合ってくれてたけど引いてたんだ??なんて思いながらも、でもこの話は段違いっていうか…ぶっ飛んでるしなぁ。でも、真っ直ぐと私を射抜く目が4つ。七海と夏油傑さんの目である。甚爾さんは…もう好きに飲んでくれ。でも私の分もちゃんと残しておいて欲しい。
すぅ、と息を吸う。
緊張。私はこの話を、両親と病院のお医者さん以外にしたことがないのだ。
「なんで、あなた達がさとるの名前を知ってるのかは知らないけど、さとるは」
ちらり、甚爾さんの目がこちらを向いた気がした。いや、アンタもさとるの名前知ってるんかい。
「さとるは、私のイマジナリーフレンドです」
瞬間、七海と夏油傑さんは「は?」と間抜けな声を上げたし、甚爾さんは口からゴフッと酒を吹き出していた。
と同時に「やっば、3人の反応マジウケる!」とケラケラと笑う声が頭の中に響いた。
ええ、お察しの通り私のイマジナリーフレンド、さとるくんです。生まれた時からずっといっしょです。私の妄想なんだろうけど。
しかし、なんで本当にさとるの名前知っているんだろうかこの人達。私は首を傾げるばかりであった。
【たぶん続く】.
―――すれ違いと勘違いが混沌を生み出す
呪キャラが呪力も呪いも無い世界に転生し、五条悟転生夢主(勘違い)とわちゃわちゃする話。
前半戦(気力があれば後半も頑張って書きたい)
誰落ち、というのは特に無いけど七海贔屓かもしれない。ポジション的に。
夢主:五条小夜(固定)
果たして、五条小夜は五条悟の生まれ変わりなのか―――?
(ヒント:タイトル)
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どうもお久しぶりです。
久しぶりの二次創作でリハビリ手探り中です。エンジンかけていきたい所存。夏だしホラーとか書きたいです。予定は未定。
誤字とか脱字など教えてもらえると大変ありがたいです。ばらばらに書き進めたのでおかしな所があるかもしれません。そこら変は目をつぶってやってください。
五条小夜
さよ、と書いてこよると読む。さしすのさと思わせて違う人間。
見た目は五条悟女ver。中身も勿論五条悟ではない。
社畜。超真面目人間。甘いものは得意ではない。お酒が好き。何もかもが五条悟の逆を行く真人間。頼れる人間ナンバーワン。
イマジナリーフレンド「サトル」が脳内に存在する。何度か精神科にお世話になったが一向に治る気配はなかった。それ、イマジナリーフレンドじゃなくて幽霊や。あなた、憑かれてるのよ…。
よく通りすがりに「五条先生」「五条さん」「五条」と呼び止められるが全員知らない人である。ねぇ、こんな特徴的な容姿してるのになんでそんなに人間違いされるの…?
小夜さんは何も悪くない。
五条悟
前世にて、
獄門疆に封印される→自殺する→死んだので獄門疆が開く→その瞬間特級呪霊へと転じる→羂索を殺す→さぁみんなを探そうと思ったら東京は壊滅してるし夜蛾センは死んでるし、大事な人はボロボロになってるし、なんか総監部は好き勝手やってるしでブチギレ、暴走して世界を終わらす。
その影響か、呪キャラが転生している中一人生まれ変わることを許されず波長がぴったり合う小夜に取り憑く。
「僕自身がみんなと喋れないのは寂しいけど、小夜の中から見てるだけで楽しいしオッケー!」
七海建人
五条小夜の(会社の)後輩。
入社時五条悟の女ver姿を見てぎょっとした。
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