「……………………」
───それは随分、昔の記憶。
幼い頃、私は絵本を読んで貰うのが好きで、よく彼らにせがんで聞かせて貰っていた。
その中にあったコウモリの話。
それがまさか身を持って知ることになるとは……。
ゆっくりと瞼を開き、私は暗闇の中、一人溜め息をついた。
あの場から去り、得たものは何だったんだろう……?
そう思うと溜め息しか出てこない。
───別に私は嫌われたかった訳じゃない。
卑怯者になりたかった訳でもない。
そう、ただ。
───……ただ。
私は皆を和解させるコウモリになりたかっただけ。
人間と魔族。
同じこの世界に住む者達の仲を取り持ちたかっただけ。
例え相反する者同士だったとしても。
生と滅びを望む両極端な関係でも。
それが分かっていても、私はそこに繋がりを見出だしたかった。
人間と魔族の。
───……私と彼の。
希望を見出だしたかった。
「……なんて、ね……」
手を広げ、空間を漂いながら、私は独り言ちる。
何度も思ったはずなのに。
何度も引き返そうとしたのに。
それでもなお、惹かれてしまう想い。
……あの人間磁石め。
「あーあ……何やってるんだろ、私」
きっと彼は人の気も知らず、今ものほほんと笑っていることだろう。
───……それとも。
少しは心配してくれているだろうか?
……………………。
「……何にしても、今は早く帰らなくちゃね」
彼らのもとに……。
皆のもとに……。
異空間へと飛び込んだショックで気を失ってしまい、どれ位の時間が経ったのかは定かではないが、おそらく十数分程度だろう。
私はもう一度溜め息を吐き、真っ暗な闇の先を見詰めた。
ものは試しと、明かりを唱えてみるが、その光は簡単に打ち消されてしまう。
光届かぬ漆黒。
真っ暗闇。
見渡す限りの黒。
深い深い闇。
皆がいる次元とは画する場所。
───異空間。
けれど。
それすら───。
空間すら凌駕する術を私は知っている。
『金色の魔王』の力を借りて行う、時空移動。
それを使えば皆の元に帰る事が出来る───彼らの元に。
何てことはない。
……何てことは。
ただ、一つの問題を除けば……だけど。
「さぁて、どうするかな……」
と言ってもやる事は決まっている。
本来ならば、魔法陣を描いて行うこの術。
ココが土の上なら簡単に魔法陣が描けただろう。
床の上なら魔法の粉で描けただろう。
───しかし。
この状態で。
上下左右も分からぬ空間をふわふわと浮遊しているこの状態で、魔法陣が描けるはずがない。
その現実を前に、私は本日何度目とも知れぬ吐息をついた。
「……仕方ない……か」
呟き、私は目を閉じる。
───あまり気は進まないけど……。
私は精神を集中させると、静かに呪文を唱え始めた。
永久と現在を流れ行く
金色なりし闇の王
本来ならば魔法陣を描いて行う術───。
けれど、魔法陣が無くても術は使える。
そもそも、魔法陣とは異界への扉であり、その大部分が意味しているのは魔力を補うということ。
魔力を増幅させる為のもの。
つまり、単純に魔力があれば魔法陣は不必要なのだ。
そう、ありさえすれば。
術を唱え終え、私は目を開けた。
どこかに持って行かれる、目眩にも似た感覚が身体を襲う。
───……そして。
ALICE+