「どちら様ですか?」
昼間に部屋を訪ねてきた、にこやかな笑みを浮かべたおかっぱ神官。
その人物に向かい、にこり、と凪いだ水面の様な心で尋ねれば、神官はダラダラと汗を掻きながら固まった。
「え、えーと、あの……」
「水竜王秘伝のレシピ探し」から戻り早数か月。
特に事件が起きる事もなく、時間は過ぎ去っていって。
そんな中、おかっぱ神官───もとい、ゼロスは初めこそ私の元にちょこちょこ顔を出していた。
やれ、どこそこのケーキが美味しいので買ってきましただの、綺麗な花が咲いていたので摘んできましただの、直ぐそこの公園に猫が日向ぼっこしてて可愛かったので一緒に見に行きましょうだの。
お前は本当に魔族なのかと突っ込みたい位に頻繁に、それはそれは和やかな時間を運んできていたのに。
なのに、先月辺りからぱたりと顔を見せなくなったのだ。
───いや、正確には来てはいた。
来てはいたのだが、来るのは決まって真夜中。
夜は寝るものである。
そんな思いから早々に追い返していたのだが……。
「あの、ユウさん?」
「………………」
「ぅ……うわーんっ!」
黙って笑みを湛えたまま彼を見続けていると、ゼロスは瞳に涙を溜め、かと思うと泣きながら部屋をあとにした。
おそらくはディルかユーリに泣きつきに行ったのだろう。
私がこちらに帰ってきた当初は何だかんだと言っていた癖に、いつの間にか仲良くなったらしい。
それは良い事なのだろう。
机の上に置かれた小さな化粧箱を見つめながら、ぼんやりとそんな事を思う。
けれど、何となくそれが面白くない事の様に思えて、少しばかり自己嫌悪に陥る。
「………………」
少し頭を冷やそう。
うん、それが良い。
そう思い立った私は、
探さないで下さい。
そう書置きを残し、その部屋と時間をあとにした。
あとがき
再訪。
三度あの場所へ。
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