きみにだけの言葉

 ふわふわしたままベッドに入って迎えた朝。
 結局、菅原への誕生日プレゼントは決まらなかった。けれど私には秘策があった。
――プレゼントは気持ちだからね!
 自分に言い聞かせるようにそんなことを唱えたが、なかなか名案だという気持ちもある。
――学校へ行ったら、まずは「おめでとう」を言おう。
 私は弾む気持ちのままリビングへの階段を駆け下りた。

 学校について菅原に「おめでとう」と言うまでは順調だった。しかし、そこからは順調とはいかなかった。人当たりが良く人望の厚い菅原の元には、次々と同級生が集まって来ては祝福の言葉を贈る。その人だかりでプレゼントを渡すどころでは無かったのだ。
 そしてタイミング悪く今日の日直だった私は休み時間ごとにやる事があって、なかなか菅原と話す時間がなかった。さらに先生からは資料を持って行ってくれだとかノートを集めておいてくれだとか、なんで今日に限ってと思ってしまうくらいに雑用を申し付けられた。
 極めつけは放課後、つまり今現在だが、ホームルームが終わってからプレゼントを渡そうと思ったら今日は委員会の集まりがあるとかで体育祭実行委員の菅原は早々に教室を出て行ってしまったのだ。
 もうみんな出て行ってしまった教室でひとり、溜息を漏らす。溜息と一緒に段々とプレゼントを渡そうという気持ちが萎えていってしまうような気がした。だって本当に大したことない物なのだ。こんな風に放課後の教室で何十分も待ってまで渡す物だろうかという不安がじわじわとせり上がって来る。
――やっぱり帰ろう!
 決心して席から立ちあがる。残ってまで渡した物がコレじゃ、微妙な空気になるかもしれない。そう自分に言い聞かせて教室の扉へ向かおうとした時、その扉が開いた。
「あれ、ミョウジ。まだ残ってたのか」
「あ……えっと、そろそろ帰ろうかなって思ってたところ」
 これはタイミングが良いと言えばいいのか悪いと言えばいいのか。目の前に現れたのは菅原だった。
「そっか。てゆかこんな時間まで何してたんだ? 誰かと待ち合わせ?」
 なんと答えればいいのだろう。本当のことを言うべきか。渡さないと決めたばかりなのに、考えがまとまらない。
「ミョウジ?」
 黙ってしまった私に、菅原の不思議そうな視線が刺さる。
「えっと、あのね」
「ん?」
――もう、ここまで来たら言ってしまえ!
「スガを待ってたというか、えっと、朝、プレゼント渡しそびれちゃったなって思って」
「プレゼント?」
「違うの! いや、違くないんだけど! 昨日プレゼント買いに行ったんだけど全然ピンと来なくて、というか男の子がどんな物なら喜ぶのかわからなくて! それで結局あまりにも大したことない物になっちゃったからわざわざ渡すの気が引けるなぁって思ってきてもうどうしようみたいな!」
 居た堪れなくて口がずらずらと言い訳を並べ立てる。
――あぁもう、かっこわるい……。
 並べ立てた言い訳は、さらに私を居た堪れなくするばかりだった。さらには「ごめん」なんて訳の分からない謝罪まで口にしてしまう始末。しかし返ってきたのは柔らかい声と笑顔だった。
「なんで謝るんだよ」
「なんか、ほんと大した物じゃないから……」
「俺の為に用意してくれたんだべ?」
「そうだけど……」
「じゃあ、嬉しい。だからちょーだい!」
 それは私の心をキラキラにする笑顔。その笑顔に心が浮上する。
「ほんとに大したものじゃないからね?」
「はいはい」
「小学生並みだからね?」
「なんだそれ!」
 菅原は私の念押しにおかしそうに噴き出したが、本当なんだから仕方がない。私は充分に念押ししてから、意を決して用意した「プレゼント」を差し出す。
「え、これ……」
 菅原は差し出された名刺大の紙切れをまじまじと見つめた。
――やっぱり! そんな反応だよね!
 その紙にはこう書いてあった。“なんでも一つお願いを叶えます。※私のできる範囲で。物も可”と。
 作った時には名案だと思ったのだ。相手が好きな物を自由に選べるし、物でも物じゃなくても使えるのだから便利だろうと。しかし実際渡す段になるとこれでいいのかという思いが沸々と湧いて来た。だって小学生の“お手伝い券”や“肩たたき券”みたいじゃないか。
 怖くて菅原の顔が見れない。
「えっと、何か形のない頼み事にも使えるし、常識の範囲内なら欲しいものを買ってもらうってのもありだし、色々使えるかなーって!」
 良さをアピールしてみるが、菅原から反応が返ってこない。
――やば、本気ではずした……!?
「……ミョウジ」
「は、はい!?」
「これ、今後やったらダメだから」
――う、わ……!
「だよね! ごめん! ほんと大したものじゃなくて!」
 恥ずかしさでじわりと目の前が歪む。
「違くて! ……そうじゃなくて」
「え……?」
 顔を上げると菅原は困ったような顔をしていて、言葉を選ぶように話始めた。
「なんでも、とか」
「うん」
「ダメだから」
「……うん?」
「これで最後にして」
「え、と? と、言いますと?」
 要領を得ない私に菅原は「だから!」と語気を強める。
「他のやつに“なんでもお願い聞く”とかダメだから! 今後このプレゼント誰かにあげるのは無し!」
「え、は、はい」
「……ほんとにわかってる?」
「わかってる、よ? 今後それと同じプレゼントはあげなければいいんだよね?」
「……わかってない」
「え、だって今……」
 そう言ったじゃない、と言おうとして、言えなかった。菅原のそんな顔、見たことがなくて。
 熱い。その視線が、その表情が、その空気が。
 菅原が手に持った「プレゼント」を差し出す。
「ねぇ、これ。もし“俺と付き合って”って言ったらどうする?」
 私に用意された答えはひとつ。
――分かってないのはスガの方だよ。
 きみにあと一歩踏み出して、「“なんでも”なんて、誰にでも言ったりしないんだよ」って囁いてあげる。





―――――
あとがき

菅原さんお誕生日おめでとうございます。
ほんとスガさん尊い……。

しかし最初に書いていたお話とは随分変わってしまいました。

2017.06.13
みつ

2/2

前頁 | 次頁

[眠る sleep]
[TOP]

ALICE+