キラースマイル

 俺が最後の問題を解き終える頃、時計は部活終了間近を示していた。もう外は暗い。
「ほんと、悪いな。結局こんな時間まで付き合わせちまって……」
「いーのいーの。私、部活やってないからこんな時間まで学校残ることないし、貴重な体験だよー」
 雑談を交えながら三時間ほど勉強を教わったが、ミョウジはなんだか掴みどころのないやつだった。それは、以前からのイメージとさして変わらない。
 ミョウジは活発な性格ではないが、暗い性格でもなかった。
 騒がしくはなくて、でも大人しい訳ではない。どちらかと言えばしっかりしてて、はっきりと喋るタイプだ。
 いつもにこにこしているわけではないが、普通に笑う。
 勉強もできて真面目だが、冗談も言う。
 本を読んでいる事が多いが、仲の良い友達が何人もいる。
 友達も、男子、女子、運動部、文化部、大人しいやつ、騒がしいやつ、と幅広い。
 そしてなんというか、品が良い。
 とにかく、掴みどころがなくて、そして俺とは全然タイプの違う人間だ。なのに、俺はミョウジと一緒にいるこの時間を心地よく感じていた。
「課題、間に合って良かったね」
「おう。ミョウジのおかげだ。ありがとな」
「どういたいまして。じゃあ、提出して帰ろうか」
 二人とも荷物をまとめ、立ち上がる。
 なんだか俺は、この時間が終わってしまうのが惜しい気がして、何か、何か話さなくてはと、そんな考えがぐるぐると頭を巡った。
「あ、あのさ」
「なにー?」
 何を話すかも決まらないまま発した俺の言葉に、ミョウジは扉へ向かう足を止めないまま返事をする。
「あの、本当に助かった。よく知りもしない俺の課題に付き合ってくれて、ありがとう」
 何かしゃべらなくてはと苦し紛れにもう一度お礼を口にした俺に、教室の扉を開けたミョウジは振り返ってきょとんとした後、小さく笑った。
「田中くんは私をよく知らなかったかもしれないけど、私は知ってるよ」
「え?」
「よく、友達と試合見に行ってるからね。バレー部の」
 驚く俺に、ミョウジは続ける。
「IHの青城との試合、サーブレシーブで追い詰められた時も、春高予選の和久南との試合でキャプテンが抜けた時も、不屈の精神がすごいなって思った」
 つらつらと話すミョウジの声。また俺の心臓はドッドッと鳴り出して、心がざわめく。言葉が出てこない。
「次の青城との試合、最後のポイントでギリギリのところでボールを繋げてみせた時も、白鳥沢との決勝第5セット、15対15、もう体力も限界に近いのに圧巻のスパイクを決めてブレイクした時も。全部、かっこよかったよ」
 ミョウジは一息つくと、視線を落として小さな声で言った。
「……だから、今日は、田中くんと話せてラッキー」
 あの掴みどころのないミョウジが頬を染めて、恥ずかしそうに微笑んで放ったその言葉は、俺にとどめを刺した。
 惚ける俺に「じゃあね」と言ってミョウジは駆けて行ってしまったが、俺の目には頬を染めて伏し目がちに微笑むミョウジの顔が焼き付いて離れなかった。
 あぁ、明日から教室でどんな顔をすればいいんだ。





―――――
あとがき

田中の魅力に気づく人が少ないとは思いませんか。
私は思います。
田中はカッコイイ。
広い懐、強い精神力、屈託のない笑顔。
もっと評価されるべきだと思うのです。

2017.03.06
みつ

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