右手には美青年。左手にはリオル。きっと人によっては羨ましい状況なんだろうなあ。特に右手側。私もこれが日常の場面で起きたことなら、顔を赤らめて幸せを噛みしめていた。見ず知らずの人とはいえ、こんな美青年が隣にいるのだから。でも今の状況なら是非とも誰かに変わっていただきたい。

「でも嬉しいなあ。キミみたいに可愛い子が家に来てくれて……あ、でもこれを喜んじゃうのは不謹慎かな?」
「い、いえ」
「うちは8人で暮らしているんだけど男所帯でね。数少ない女の子たちも個性豊かで可愛さという可愛さからは無縁で」
「8人暮らし……たくさんいますね」
「うん。イッテツと俺と、そこのリオルと他5人」
「そ、そうなんですか」

 リオルはイッテツさんしか住んでいないというのに、彼は8人で暮らしているという。しかも一緒に話を聞いているリオルはそれを訂正する素振りを見せない。それがまた私の頭を悩まさることになる。

「あ。そこ土がぬかるんで滑りやすいから気を付けてね」
「は、い」

 気を付けてね、なんて言いながら手を引いてくれる彼はなんだろう。白馬の王子様とかそういう絵本から飛び出てきた存在なのかな。ああ、絵本の中から飛び出してきたというよりむしろ私の方が……浮かんできた考えを払うように頭を振る。

「じゃあ、そんな中でお世話になる私ってすごく邪魔ですよね」
「そうでもないよ。イッテツとリオル以外は結構本土に出てるし。もう1年近く帰らずホウエンの旅を満喫してる奴もいるから」
『おれとイッテツしかいないときの方が多いぞ』

 ああ、それでイッテツさんしか住んでいないと言ったのかな。納得できた。胸の中にあったもやもやがなくなってすっきり。ところで、さっき手を引いてもらってから手が繋がりっぱなしなのだけれど、どうしたらいいのだろう。疑問が晴れてしまったから意識がそっちばかりに傾く。手汗とか気持ち悪くないかな。なんか顔が熱くなってきたぞ。

『今回は長かったな。どこ行ってたんだ?』
「カイナシティの方かな。バザー行ったりしたんだ」
『カイナシティって、えっと、船がある?』
「そうそう」

 全然知らない町の名前があげられていく。市町村ではなくシティときた。なんてアメリカンな地名なんだろう。シティがつくアメリカの町名なんて1つも知らないのだけれど。

「卯月が海の家でバトル楽しんで」
『さすが』
「巻き込まれた氷里が怒って海を凍結させかけて」
『大変だったな』

 とんでもない発言が時折出てくる会話を片耳にイッテツさんの家を目指す。道中現れるリングマから全然熟していない苺みたいな木の実を貰った。これ、美味しいのかな。木の実を分けてくれたリングマにお礼を言うと嬉しそうに鳴いて去っていった。優しい。

「君は随分とポケモンに好かれやすいんだね」
「え、そうですか?」
「さっきのリングマに木の実を分けてもらったこともだけど。リオルがイッテツ以外の人間と一緒にいるってすごい珍しい光景だからね」
「え?」
『まった』
「この子、結構警戒心強くてね。人が苦手なのかな。あと」
『喜緑!』

 リオルの怒声が言葉を遮る。尻尾を立てて怒る様は犬みたい。それを笑って流す喜緑さん(リオルが何度か喜緑と呼んでいるのであっているはず)の表情からはどこか嬉しそうだった。人見知りの我が子が勇気を出して友達を作ったことに感動する親の図、みたいな?

「俺たちポケモン相手ならすぐ心開くのに、人には噛みつく勢いだから困った困った。イッテツ相手のときだってね」
「ちょっと待ってください」
「え?」

 今、さらっととんでもないことを言われた気がする。さも当然ですと言わんばかりに出た言葉だからうっかり聞き流しそうになったけど、聞き間違いじゃなければ今喜緑さん……?

「俺たちポケモン相手なら、って」
「え? ……あー。だからさっきから微妙に会話が噛みあわなかったのか」

 喜緑さんは1人で納得する。混乱した私は意味を成さない声だけを漏らす。そうこうしている間に見えてきたイッテツさんの家から「ふざけんな!」という怒声と共に窓ガラスを割って木製と椅子が飛び出した。あっちでもこっちでも私を驚かせるのやめてほしい。そういうドッキリ? そうか、離島に来ているところから今現在までドッキリが続いているのか。それならどれだけ嬉しいことか。

「じゃあお互い自己紹介からしようか。俺は喜ぶ緑と書いてキミドリ。君は?」
「……ヒグレコヨミです」
「珍しいね」
「へ?」
「ううん。なんでもない。コヨミちゃんは人間だよね?」
「どこからどう見ても人間ですよね」
「人間っぽいだけど違うって結構あるから」
「えっと。もっと分かりやすくお願いします」
「例えば俺は人間じゃなくてエルレイドだとか」

 ますます意味が分からない。素直にそう伝えたら、喜緑さんは「ううん、これ以上にないくらい分かりやすい説明をしたつもりなんだけどなあ」と困ったように頭を掻いた。


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