昨日の出来事。生活必需品の1つも持たされず離島に放り出され、困っていたところであった森の熊さんの家で一晩泊まることになった。ちなみにその条件として作った夕飯だが、食材が見たこともない木の実ばかりで四苦八苦して、結局イッテツさんが全て作りました。男の料理って感じで味が粗かった。そんなこんなで固いベッドで一日を終えた。明日はきっと身体がばきばきに痛いんだろうなと思って寝ました。

「……ん」

 だけど、まさかこんなにも身体が重く感じるとは予想外だった。特に腹部あたりが物凄く重い。得体の知れない木の実を食べたのがまずかったのかな。でも一応火には通したし……。

「…………」

 目を擦って起き上がると目に入った私のお腹に乗っている謎の物体。垂れた黒い耳に青い身体。あ、足も黒い。形は犬っぽいけれど、明らかに犬ではない。これが身体が重く感じた原因か。なんだろう、これ。ぬいぐるみかな。昨日事情を聞いて哀れんだイッテツさんが寝ている間に置いてくれたとか? それにしてもこの重さは嫌がらせの域に入るのではないか。

『朝ごはんができた』
「……?」

 頭の中に響くような声が聞こえた。誰の声だろう。辺りを見渡しても声の主らしき人物は見つからない。気のせいだったのかな。それよりも、そうだ。朝ご飯。昨日は散々な結果になってしまったし、せめて朝ご飯は作らせてもらおう。

「ひえっ!?」

 お腹の中に乗っているぬいぐるみをどかそうと手を伸ばした瞬間に起きた出来事。身体に触れた瞬間、ぬいぐるみに腕をがしっと掴まれた。軽いホラーである。

『無視?』
「えええええええええ」
『うるさい』

 おでこを殴られる。訂正。殴るというほど物騒なものではない。効果音をつけるとしたら ふにん って感じ。可愛らしい。対して痛くもなかった。むしろ毛がふかふかしていて気持ちが良い。

「この声、このぬいぐるみから?」
『ぬいぐるみ!?』
「この家に似合わないよくできたぬいぐるみだね。電源どこ?」

 動く姿は可愛らしいものだけれど、今は遊んでいる場合ではない。電源切って朝食を作りに行かないと。ぬいぐるみを掴んでスイッチがありそうなところを触ってみるけれど見つからず。もしかしてお尻にあるのかなとひっくり返してみるけれどやはりなく。

『何する!』
「ふぎゃっ」

 蹴り飛ばされた、ぬいぐるみに。今度はかなり痛い。蹴り飛ばされた衝撃で手放してしまったぬいぐるみは華麗に布団の上に着地する。ぽすんと音をたてていて、やはり可愛らしい。でも蹴られたところはずきずきと痛みを訴えていて、威力が可愛くない。

『おれはぬいぐるみじゃない!』
「暴力的で喋るぬいぐるみなんて聞いたことない……」
『だからぬいぐるみじゃないと何度言えば!』
「ぬいぐるみじゃなければ何なの?」

 もしかして生き物だとでもいうのだろか。こんな自然にいたら違和感しかない色をした動物? 野生としては生き辛そう。そしてこんな生き物が発見されたなら絶対にニュースで報道されるはず。だって喋ってるし。

『ポケモン以外のなんでもない』
「ぽけもん」
『ホウエン地方にはおれの種族は生息してないけど、どう見てもポケモンだ!』
「ぽけもん」

 ぽけもんとは、ポケットモンスターの略称だろうか。夏になると映画のCMが流れるあの。弟が新作をプレイするために、今まで買ってなかった新しいゲーム機まで購入していたあの。黄色い、なんだっけ。ぴかちゅう? が有名な?

「ポケモン」

 目の前にいるこの青色のぬいぐるみもキャラクターの一種なのだろうか。弟はこのゲームが大好きみたいだけど、残念ながら私はゲームの類で遊ぶのを苦手としているので全く分からない。世界的に有名だとか、テレビで流れたりするものがたまに目につく程度の情報しか知らなくて。

「……ポケモン」
『何度繰り返す気?』
「だって、待って。そんなわけ」

 そう。私が知っているのは弟が好きなゲームのタイトルがポケットモンスター。その略称がポケモンであるということと。夏になるとCMでよく見かけるようになるということ。つまりそう、架空の存在。それが今、目の前にいる? 小さい子たちに人気なジャンルだからぬいぐるみだって販売しているのだろうけれど、ここまで動いたり喋ったりするものがぬいぐるみ?

「そんなの、ありえない」

 現実にあるわけない存在している。そんな、ありえるわけのない出来事を目の前に、頭が真っ白になった。


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