『この大木にある爪痕はリングマのエサ場だから木の実は取っちゃだめだからな』
「リングマってイッテツさんが倒したやつだよね」
『あれは例外だから。おまえみたいに木の枝みたいなやつはぽっきりいくからな』
「木の枝……」

 イッテツさんのもとで過ごすようになってから2週間近く経とうとしていた。気持ちの整理はついてはいないものの、初めと比べれば大分落ち着いた。最初はそれはもう酷いもので、イッテツさんたちの前ではこれ以上の迷惑はかけるわけにはいかないの思い1つで気丈に振る舞っていたものの、1人になると寂しさ虚しさ等の負の感情に埋め尽くされるし。考えることを止めようと眠りにつけば、嫌な夢ばかりを見て真夜中に起きることになった。そうするとなかなか寝付けず、何時間も暗い部屋でひたすら時間を過ごすしかなかった。おかげで寝不足が続く。

『ポケモンに影響をだす木の実もあるから覚えとけよ』
「影響?」
『たとえば、モモンの実ならどくけしの効果があるとか』

 落ち着いてからはただ居座るだけというのも申し訳ないので、少しずつ家事などをやらせてもらうようになった。とはいえど、科学技術の恩恵を受けて生活してきた私は電気もガスも通らぬような場所で生活など当然したこともなく。初めてしかない生活にいっぱいいっぱいだった。料理をするのに火を起こすところから始めたり、お風呂掃除ならぬドラム缶掃除だったり、衣服を手洗いだったり。辛い。早く家に帰りたい。
 そして覚えていくことが多い生活の中で1番苦労しているのは食料集め。1人で歩かせるのは危ないからとリオルがついてきてくれて、そのついでにいろいろなことを教えてもらっているのだけど……量が膨大で何から覚えればいいかから悩んでいる。

『食べてみて』
「え、生で?」
『うん』
「皮とか剥かずに?」
『いいからはやく』

 手に置かれたのはピンク色のした桃のような木の実。ようなじゃなくて桃なんじゃないかと思うのだけど、リオルはこれがモモンの実なのだと言い張るからモモンの実なんだろう。焼く焼かない以前に洗ってもいないものを食べるなんて大丈夫なのかな。虫とかついてないよね? いろいろ不安になる。でもリオルが『はやく!』と急かすので、覚悟をしてかぶりつく。

「あ、まい」
『しんせんな実の味を覚えておけよ!』
「新鮮なやつ採ってくれたんだ」
『た、たまたま!』
「ありがとう」
『ふんっ』

 鼻を鳴らして木に登っていった。怒ったのだろうか。でもしばらくしてから『おまえはそこでキノコでもとってろ!』と言ってくれたので怒ったわけではないらしい。じゃあ照れたのか、可愛いなあ。

「落ちないでねー」
『おまえじゃないんだから落ちるわけない! ばかにしてるのか!』

 最初は大人しい印象だったリオルは、会話が徐々に増えていくにつれて私に対して怒鳴る面が多く見られるようになった。短気。でも本気で怒っているのではなく、照れ隠しだったりするのはすぐに分かった。リオルはとても分かりやすい子だった。そんなリオルと話すのは楽しくて、ちょっぴりだけど気が紛れる。

「キノコでも採っとけ。と言われてもなあ」

 店に売っているキノコだって自分で買ったことないのに、生えているものを収穫するなんて難易度が高すぎる。毒キノコなのかどうかも分からない。炒めれば皆同じかな。そうだ、完成品をイッテツさんに食べてもらおう。あの人ならゾウも倒れる毒すら効かない気がする。さすがに過剰評価かな。

「あ。このキノコ、可愛い」

 目についたのはちんまりとした白いキノコ。大きさはないからお腹を満たすことはないだろうけれど、飾りつけにはもってこいかな。飾りつけに注目する人が食べるわけじゃないから無駄な努力になるけど。収穫するだけしようかな。

「それは猛毒を含むからやめたほうがいいよ」

 白いキノコに伸ばした手が後ろからそっと握られる。吃驚しすぎて声も出なかった。心臓が飛び出そうな勢い。ささくれ1つない羨ましいくらい綺麗な手の持ち主の顔を見るために恐る恐ると振り返ってみた。

「あっちのキノコの方が味が濃くて美味しいよ」

 私の手を握るのは、きらきらとした爽やかな笑顔を浮かべる美青年でした。目の保養。


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