これの直後の話。

「ルールを決めようと思います」

時刻は午前10時を過ぎた頃。朝になると無事に目が覚めたペッシさんにも事情を説明したり、宥めたり、プロシュートさんがペッシさんに喝入れをしたりとバタバタしているうちにいつもの朝食の時間は大幅に過ぎていた。目の前には芳ばしく香るトーストとイチゴジャム入りのヨーグルト、オレンジジュースが置かれている。いただきますの一言の後ヨーグルトとジャムをかき混ぜ口に運ぶと甘酸っぱい風味が広がった。
私の言葉にトーストを頬張っていたペッシさんはキョトンとした顔で反芻する。

「ルール?」
「人数も増えてきたので」
「寧ろ今まで決めてなかったのか……」

男と女、ギャングと一般人が一緒の空間で生活してんのによォ……。引きつった顔でつぶやくプロシュートさんに返す言葉もなかった。
これまで特にルールを定めなかったのは初めにここに訪れたリゾットとは互いに過干渉もせず程よい距離感で生活していたからだし、次に来た2人も同じような感じだった。けれど3人が外に出たときの行動は知る由もないので、もしかしたら外で思いもよらない行動をしでかしてるかもしれない、が……。ここは3人を信じよう。

「ルールゥ?今更じゃねぇか」
「いやでも昨日もあったじゃん。私とホルマジオがお風呂場で鉢合わせちゃったやつ」
「ハァ!?」

突然イルーゾォが青い顔をして叫んだ。わなわなと唇を震わせ私とホルマジオを交互に見やる。プロシュートさんはそれ見たことかと盛大に溜息を吐き、ペッシさんは動揺したようにホルマジオに視線を向け、リゾットは静かに眉根を寄せた。

「つっても脱衣所でオレは服脱ぐ前だったし覗いてきたのはなまえじゃねーか!」
「あ、そういう……」

からの、脱力。

「そういうスケベハプニングじゃないから安心して」
「びっくりした……勘弁してくれよ……オレたちここから追い出されたら行くところないんだからな……」
「イルーゾォの言うように誰か追い出すなんてことになりたくないし、私だって人のお風呂覗いちゃうのは本意じゃないから……そういうことが起こらない為の、ルール」

決めると言っても既にバイトとかはしなくていいとか殺しは禁止とか言ってたやつもあるんだけどね。そう付け足せばプロシュートさんが訝しげに片眉を上げる。

「そういや金の工面はどうなってんだ?なまえは学生だろ」
「確か蓄えがあるんだろう?初めに会ったときそう言っていたと記憶しているが」
「あぁ、何かリゾットが来る前に私の口座に謎の大金が振り込まれて、て……」

リゾットの言葉にそう返すと、みんなの顔が何故かみるみるうちに険しいものになり思わず尻すぼみになる。

「つまりテメーは出所の分からねぇ金をオレたちの生活に充てていた、と?」
「いやまだ使ってないです!今までは貯金とか仕送りでやりくりしてて……そろそろ厳しくなってきたから使おうかなぁ〜とか思ってましたけど。はは」
「……あの時はオレも混乱していたから出所不明とまでは覚えていなかった」

プロシュートさんは呆れた表情を浮かべた。ホルマジオも「マジかよ」と頬を引きつらせている。2人の言いたいことは何となく分かる。恐らくは、

「大丈夫かよおまえ……危機管理能力ってものがなさすぎる」
「ですよね!知ってたよイルーゾォ!」
「待て。今思い出した。確かなまえはその振込人が分かれば誰が仕組んだことなのか分かる……そう言っていたな?」
「でも確証はないよ?何となくタイミングが良すぎたから、リゾットたちが来たのとこのお金は何か関係あるのかなって思っただけで」
「読みはいいんじゃねぇか?見ず知らずの場所に放り込んだターゲットを一旦安心させて気の緩んだところを殺るってのは、まァ回りくどいがアリだろう。スタンドが使えない状態にされてるのもソイツの能力って可能性も出てきたな」
「死者を別のところに送り込むスタンドか?それだと年数が経っている説明がつかねぇだろ。それに何で日本なんだ」
「ややこしくなってきたな〜。もう金があんならいい気がしてきたぜオレは」

プロシュートさんとイルーゾォの意見にお手上げだとばかりにホルマジオが肩をすくめる。思いもよらないところから物騒な話になってしまった。スタンドという概念が存在しないからという私の読みは外れなのだろうか。一度この話をしたリゾットの方に目線をやると目が合い、小さく首を横に振られた。彼もお手上げということだろうか。

「じゃあ使わない方がいいのかなぁ、お金」
「……いや。今ある金を動かせばまた相手も動くかもしれない。今は何も気付かないフリをして相手の動きを見る」
「いいじゃねぇか!じゃんじゃん使っちまおうぜ!取り敢えず美味い酒買い込むってのはどうだ?」
「PS4とswitchならどちらを買うべきだろうか」
「どっちでもいいだろ……。お前、鏡ン中入れなくなっていつの間にか別ベクトルの引きこもりになってねぇか?」
「なまえは何か異変があれば逐一報告しろ。探るのはオレたちがやる」
「つっても日本じゃギャングが幅利かせてる訳じゃねぇし、パイプがなァ……」

グゥウウウ〜。
はた、と。話が盛り上がるこの場にひとつ奇妙な音が響いた。おおきな腹の鳴る音だ。全員がピタリと話をやめその音の出所へと目を向ける。

「あ……。いや、その、ハハ」

照れたように目を逸らすペッシさんだった。

「起きたてで頭使うとつい腹が……。すいやせん」
「ペッシィ〜……」
「そういえばご飯の途中でしたね!あ、もう冷めちゃってる」

私も話に夢中で忘れていたが、確かにお腹がすいている。取り敢えずみんな食べよう?と促せば各々が飲み物やパンに手を掛ける。

「ご飯は大事だからね。ルールはまた後で決めよう」

ペッシさんは全員が食事を再開したのを見て、待ちかねたように食べかけのトーストにおおきくかぶりついた。

食事