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「つまり、あたしはモルモットっすか」
あたしの言葉に反応して学園長の隣に立っていた怖い顔の先生が何かを言いかけるが、学園長に窘められその口を閉じた。顔に青筋をたて今にも怒りだしそうなその教師とは対照的に学園長ーーー大川平次渦正は至って穏やかだった。通された応接室のソファにあたしと向かい合わせにゆったりと座り口を開く。
「まぁまぁ木下先生、そうカッカなさるな。……して、モルモットか。悪い言い方をすればそうなるのかのぉ」
「ほらやっぱり」
「敬語を使わんか敬語を!」
うるせーなこのオッサン。そう思いながら怒号を飛ばす木下と呼ばれた先生をぼんやり眺めた。今説明されたことをまとめるとこうだ。
ここ私立大川学園は小学校〜大学まで揃うエスカレーター式の学校である。小・中・高には内部進学生のクラスと外部生のクラスが存在し、両者の隔たりは激しいらしい。その原因は内部進学故の共に過ごしてきた時間の長さの他にもあり、内部進学生にクセの強い問題児が多いため隔離する他ないのだとか。学園としては内部生と外部生の隔たりを少なくしていきたい、と。
そこで登場するのがあたし、変な時期の転入生。現在4月の第4週目の水曜日。内部進学クラスに外部から来たあたしを編入させることで適応できるかどうか試みて、上手くいけばこれからの学校運営や入試形態に生かしたいのだとか。確かに内部生の方が外部から入試で入ってきた生徒より学力が劣ったり素行に問題があるというのはよく聞くエスカレーターあるあるのように思う、が。
「いや別にどこのクラスでもいいんすけど、実験するなら今年の4月のタイミングからやれよ。もっと大規模な人数で」
「おぬしの編入が決まったときに思いついたんじゃ!」
つまりただのジジイの思い付きじゃねーか。それでいいのか学校運営。木下先生を見ると黙っているのでそれでいいいらしい。話には聞いていたが変わった学園だなぁ。
「おぬしのクラスは1年3組なんじゃがな、これが困った良い子たちでのぉ」
「困った子なのか良い子なのかどっち?」
聞けばその3組は極端に人数が少ないうえに男子生徒しかいないらしい。大川高校が数年前に男子校から共学になったばかりとは言え他の内部クラスに女子生徒は存在するのに、女子が生活できないレベルの男子校的問題児クラスなのだろうか。ヤンキーとか喧嘩とか漫画でよくある不良クラスが頭をよぎった。
「あたし女子なんだけど大丈夫なんすか?あたしの学校生活的な意味で」
「心配せんでもおぬしの想像するような子達ではない。言っておるじゃろ、良い子の3組じゃと。……みょうじさんはあの者の推薦でこの学校に来たしの、骨があるように思うてな」
叔父さんのことが話題に挙がり何かと謎の多いあたしの親戚の顔が頭に浮かんだ。急に日本に戻ることになったあたしに住居を提供してくれたり、叔父さんと縁があるらしいこの高校に編入手続きをしてくれたのは叔父さんだ。……不安しかないけど叔父さんには感謝しないといけないし、叔父さんもまさかこんな事態になっているとは思わなかったのだろう。仕方がないか。
「と、いうか3組に編入させることがおぬしを受け入れる条件じゃった。あの者も快諾してくれての」
前言撤回、なんつー条件交わしてんだあのオッサン。今度会ったらとっちめてやる。
密かに叔父さんへの復讐に燃えていると、学園長が笑顔から一転させ真面目な顔であたしに問うてくる。
「みょうじさん、何とか受け入れてはくれんかのぅ。儂らは変わらねばならん」
「変わる……?」
「……儂らは、昔に捉われすぎた。君ならあの子達の力になってくれると儂は思うとる」
昔。何のことだろうか。あたしなら、という根拠はどこにあるのだろう。さっぱり分からないことだらけだが、学園長の顔からは真剣さが伝わってくる。
「あたし別に人を更生させるような褒められた生徒じゃないんすけど」
「見れば分かる」
「……あたしでいいんすか」
「期待しておるよ」
「契約成立じゃな」そう言うと学園長は優しく微笑んだ。その言葉にあたしは黙って頷く。あぁ、この人は本当にこの3組の生徒のことを考えてるんだな。学園長はそう思える優しい目をしていた。途中からずっと黙っていた木下先生も安心したのかほっと胸をなでおろしていた。……というか転校初日にこの話を聞かされてる時点で拒否なんてできないだろう。本当何で事前に言ってくれなかったんだ叔父さんめ。
「まぁ高校生活を楽しんでくれ!儂からは以上じゃ」
「今日は初日だから大目に見てやるが何だそのピアスは!次の頭髪指導ま「もうすぐ担任の土井先生が来るから待っておれ」ッ学園長!!」
まだ何かを言っている木下先生の声をBGMにあたしは大人しくここで待つことにした。
にしても男子だらけのクラス、しかも内部進学であたしは蚊帳の外からのスタート。……うーん先行きが不安だ。一体どんな生活がこれから待ち受けているのだろうか。
高鳴る胸は不安と緊張からなのか、それとも。
実験台のモルモット