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昼休み。隣の席のみょうじさんは乱太郎と机で顔を付き合わせ話をしている。なんとなくその様子を観察していると、どうやら保健委員会の仕事の説明を受けているらしい。昨日マックにみんなで行った時にみょうじさんは保健委員会に入ることに決めたらしい。仕事が楽そうだー、なんてことを言うみょうじさんにみんな苦笑いするしかなかった。保健委員に代々受け継がれる不運については黙っておこう。その場のみんなは言わずとも心でそう思ったはずだ。
「へー、やっぱ楽そうじゃん」
「まぁ基本的に交代制でトイレと手洗い場の石鹸の点検が主だからね。それとトイレットペーパーの補充と、月に一回の委員会の会議があるくらいかな」
「乱ちゃん、あたしの担当ってどこか分かる?」
「えっと、待ってね確か……」
"乱ちゃん"。その響きに思わず目を見張る。昨日は猪名寺って呼んでたのに。そんな僕の驚きに誰も気付くはずもなく、ぱちりと視線がかち合ったみょうじさんに怪訝そうな顔をされた。しまった。見過ぎたかな。
「あ?何よ」
「いや……その……」
「分かった!なまえちゃんは伏木蔵と同じ担当だよ」
「……え?」
詰まる僕の言葉は乱太郎によって掻き消された。その乱太郎の言葉に反応したのはみょうじさんで、驚いたような顔をしている。気になってどうかしたの?と尋ねれば彼女は大したことじゃないんだけど、と口を開いた。
「幼馴染におんなじ名前のヤツがいたんだよね。珍しい名前だし、そんでびっくりしただけ……偶然ってあるもんだね」
「…………みょうじさん、それ」
「偶然じゃないかも……」
僕らが思わず顔を見合わせるとみょうじさんはまた訝しげな顔をする。けれど僕たちが偶然を否定するのだって仕方がないことだ。
だって僕らが今世に生を受けてから、僕らの周りに偶然だなんてものはありはしないのだから。
彼女の言う幼馴染の"伏木蔵"だって、きっと。
タイミングよく廊下から乱太郎の名前を呼ぶ少し間延びした声が聞こえてきた。ドアからひょっこり顔を覗かせたのはやはり隣のクラスの鶴町伏木蔵だった。乱太郎は返事をしてそちらに向かう。同じく声のした方に目をやったみょうじさんは伏木蔵の姿を確認すると、立ち上がり2人の元へと向かって行った。僕もそれに続く。
「保健委員会の伝言が、」
「伏木蔵」
「…………なまえ、ちゃん?」
「久しぶり。覚えてくれてたんだ」
「なまえちゃんだ〜……!久しぶりぃ……!」
いつも暗い表情の伏木蔵の顔が今まで見たことないくらいに明るくなったかと思うと、伏木蔵はみょうじさんに飛び付いた。みょうじさんも応えるように抱き締め返す。明るい表情の伏木蔵にも驚いたが、抱き締め合う2人にもびっくりしてしまった。焦りを感じて咄嗟に何かを言おうと思ったが言葉は出なかった。あれ、僕は何でこんなに焦っているんだろうか。
「あはは、やっぱり伏木蔵のことだった。今ちょうど伏木蔵の話をしてたんだよ。なまえちゃんが"伏木蔵"って名前の幼馴染がいるって」
「そうなの?なまえちゃん大きくなったねぇ……おっきくなったね〜……」
「はは、おっさん臭。あんたこそ大きくなってんじゃん」
「いつ帰って来たの?」
「4月にね。今叔父さんとこでお世話んなってるよ」
「叔父さん、それって…………すっごいスリルぅ〜……」
楽しそうに会話をする2人を見て僕は席に戻ることにした。「昔」から馴染みの伏木蔵と、幼馴染の彼女。言いようのない違和感と感情をぐっと1人飲み込んだ。
偶然なんてありえないさ