05



早く帰って寝たい。眠い。

明日は連休前の休みで、何も予定を入れていない。連休からは練習合宿が始まるから、出来る事ならずっと寝たい。でも、そんな願いも叶わず携帯に新着メッセージが届いた。

【明日休みなの?連休逢えないなら、明日出かけよう】

はぁ〜、寝たいと思ったそばから、これだ。

中二の終わり、一つ上の先輩が引退した。
その時に告白をされて付き合った。好きだったのかと聞かれたら分からない。
その先輩の事、可愛いと思っていたから付き合っていけると思っていた。

けど、先輩が卒業して高校生になって一か月、浮気をされた。中三と高校生だから、まぁ仕方ないと一度別れた。俺が、推薦で青葉城西に入学が決まって、部活の体験に行った時に再会した。


中学の頃、マネージャーをしていた先輩は、高校ではマネージャーをやっていなかった。それでも、マネージャーの経験があるから部活で時間が作れない事理解してくれていた。だから、どこで仕入れたか分からないバレー部の予定を配慮してこの誘い。


【いいよ】
【少し遠いけど、新しくできたショッピングモール行こう】
【わかった】

スマホの画面から視線を逸らして、深いため息をついた。人混みは好きじゃない。
付き合っていくには多少どちらかが折れないといけない。春休みの間、出かけたくなくてずっと家で過ごしていた。先輩はどこかに出掛けたかったみたいだけど、俺は寝ていたかった。家に呼んで、行為が終われば寝ていられる。
行為がしたかったよりも、寝たかった。そうやって春休み過ごしていたら怒られた。

その時に、みょうじは、俺がどれだけ、授業中寝ていても怒る事はなかったってフッと思ってしまった。

友人として、無くしてしまったからそう思ったんだろう。いい友人であったからこそ、また元の関係に戻りたい。

先輩は、俺のことを考えて折れていてくれた日々があったのだから、次は俺の番…でも、人混みか…と気の乗らないまま、出掛ける日がやってきた。



電車に揺られて、三十分。

連休前でも人が多い。「英、手をつなごう?」とポケットの中に入り込んでいた手を引っ張り出して、手を繋いだ。

「明日から合宿なんだよね〜?」
「うん、ずっとバレー部と一緒」

四日間ずっと体育館と合宿所の行き来だけで、バレー漬けの日々。どこでサボるかメニューを見て今から考えてるぐらいだ。

「いやじゃないの?」
「普通に…嫌だけど?」

合宿なんて、嫌でしょ。でも、嫌いではない。スパイクが決まるのは気持ちいいし辞めたいとは思わない。金田一や及川さんがいるからかもしれない。

「なら、休んじゃえば?」
「…は?」
「え、だって、ほら、嫌なら休んでもいいんじゃないかなぁ〜って、それに休んだら会えるでしょ?」
「それは、無理だから」
「あ…ぅん、ごめん」
「どこいくの?」
「え、あ、あっち、いこう」


今、すごく冷たい返しだった。
でも、後悔はしてない。元マネージャーからそんな言葉聞きたくなかった。少しは、理解してもらえていると思っていたのは俺だけだったのか、と失望した。

その後、先輩は、俺の態度を伺うようになって、俺だってこの気分のままデートをしたくない。少し早いけど食事をして、映画を見て、ギクシャクした雰囲気が消えたのは、夕方だった。

まぁ終わり良ければ、全て良し、という言葉があるぐらいだから、このまま無事にデートが終わればいい。帰り際に、先輩がお手洗いに行きたい、と言ったので俺ら近場で待つことにした。


俺の目の前には、出店がズラッと並んでいた。
ショッピングモール主催で、物産展が開催されていた。先輩は、まだまだ戻ってこないから、一人でその物産ブースを回ってみると、「どっちが美味しいんですか?」と店員さんに、話しかけるその声に、思わず振り返った。

みょうじだ。

声を聞かなければ気づかなかった。中学の時、ほぼ毎日一緒にいたけど、それは、学校内での話。学校外で逢うことなんて無かった。
初めてみるみょうじの私服姿に目を奪われた。いや、私服姿だけじゃなくて、髪型も、金田一に聞いていたけど、みょうじだけど、みょうじじゃないみたいだ。

そして、俺の頭の中で、今が絶好のタイミングだと思った。「みょうじ」と呼ぶ声を遮るように二つの着信音が、同時その場に響いた。

俺とみょうじのだった。

みょうじは、スマホを取り出して誰かと通話を始めたのを見て、俺も開始ボタンを押した。

「英っ!どこ?」
「ごめん、戻るから、待ってて」

みょうじとは話せず、帰り道、先輩と居るのに心ここに在らずの状態で送り届けた。「英、合宿頑張ってね」と最後にお別れのキスをしょうと近寄る先輩の口元を俺の手で覆った。「あ、きら?」不思議に俺を見る先輩に、たった一言だけ付けた。

先輩は一瞬目を見開いた。でも、その後すぐにやっぱりね、と言った。


「…ごめん」
「なんで、謝るの?私だって一度浮気しているから仕方ないよ」
「うん」
「じゃあねぇ、国見くん」
「はい、先輩」


翌朝、俺から金田一へ「別れた」と伝えたらこっちも、やっぱりねと言う顔をされた。別にこうゆう話を逐一報告しているわけではないのに、これは言いたかった。

「なんで、別れたんだ?」

そう聞いて欲しかったから。金田一なら絶対に聞いてくれるとわかっていた。

「昨日、みょうじを見た」
「うん…は?」

それと別れたは関係あるのか?って疑っている目を見えないフリをして、勝手に話を進めた。

「一瞬、誰かわかんなかった」
「…そうだよな」



同時に着信音が鳴った時、みょうじのスマホから声が漏れて聞こえたのが「ごめん、自主練しすぎた!今どこ?」と男の声だった。
それに、みょうじは「おつかれさまぁ、右から左を選んでくれたら許します」なんて、少し上から目線の言葉を使っては、選ぶだけの簡単な事で許してくれる、俺がよく知っているみょうじだった。

「ツトムが選んだ事にするから問題ない」、「人混み疲れるよ?私、買い物のついでだったから気にしないで」、「また、後でね」

背を向けた後に、聞こえているみょうじの言葉がどれも、前、俺に向けられていた言葉のようで、またみょうじからその言葉がほしいと思った。
そう思ってしまった後にキスを受け入れいける事は出来なかった。


「……つまり、国見は、みょうじが好きなの?」
「違う」
「は?どこが違うんだよ」
「友達に戻りたい」
「なら、別れる必要ねぇだろう?お前、器用じゃん」

部活、彼女、友人、をうまくやり抜く事は多分、出来る。
ただ、その友達が女子となると彼女にとっては心地よくない。なら、一度友人関係を立て直してから、また恋愛をすればいい。友人の存在を許してもらえる彼女と出会えばいい。


「今は、みょうじとの仲を修復をさせたい気持ちが強い」
「…ふーん、お前、部活への気持ちが何かに勝つ事ってある?」
「……寒っ」
「おい!無視すんな!」

物産展で買いそびれた塩キャラメルを近場のコンビニで補充して、これから始まる連休合宿へゆっくりと向かった。



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