今わたしの頭はパニック状態に陥っている。
目の前にはこれでもかという程眉間に皺を寄せ、険しい表情をした眼蛇夢の顔。
そのバックにはコテージの天井が見えた。
冷たい床に仰向けにされたわたしの顔の横には彼の手が突かれている。
「…もう一度だけ問おう。」
尚も混乱するわたしを余所に眼蛇夢は口を開く。
酷く腰にくる低音が響いた。
「貴様の契約者は誰だ。」
事の発端を説明するには少し遡らなければならない。
今日もそれぞれ割り当てられた作業をこなしている時だった。
わたしと左右田とソニアちゃん。そして眼蛇夢の四人が同じ場所の担当に割り振られた。
わたし自身、なんとも嫌な組み合わせだな。と蟠りを感じていたのだ。
実際わたしと眼蛇夢は既に恋仲にあったのだけど、どうもその事をみなに公言していないからか気付いていない者も多い。
気付いていなかったとして、ソニアちゃんは絶対そんな意味合いで眼蛇夢と仲が良い訳じゃないってのは承知の上だったのだが、良い気はしない。
眼蛇夢とソニアちゃんは仲がいい。
更にそんなソニアちゃんに猛烈片思い前進中の左右田が加わった四人だ。
楽しい気分で作業は出来かねないだろう。
何と無く重たい空気を感じながら作業をしていた時、わたしは見てしまった。
眼蛇夢がソニアちゃんを抱き留めているところを…
真実は足を縺れさせたソニアちゃんを眼蛇夢が支えていた。という日常風景には良く見る光景。
それを抱き合っていたと見間違えてヒステリックになったりはしないけれど、その相手が眼蛇夢だったというのが問題だった。
彼の中二設定上、彼に触れる事が許される人間はごく僅か。
彼が"特異点"と認める者にのみ許される行為だった。
ハプニングとはいえ、わたしはしっかり見てしまったのだ。
ソニアちゃんに触れる眼蛇夢の腕を。
まあ、つまりは醜い嫉妬に違いない。
その光景を見てからというも、なんとなく眼蛇夢と顔を合わせるのが気まずくなってしまった。
彼と殆ど会話を交わさないまま、今日の作業はそろそろ終わりにしよう。という事になったのだ。
「なあ、みょうじ。
お前今日、なんか変じゃねぇ?」
眼蛇夢とは気まずいままだった為、作業を終えて彼を避けるように自身のコテージに帰る途中、左右田が後を追い掛けてきた。
「いや…別に。」
「お前がアイツを避けたら意味ねーじゃん」
左右田に言われて心臓が口から出るんじゃないかという程驚いた。
いや、左右田ってなんか無神経で周りの事とか見る余裕ないって風に思ってたから、なんか…図星をつかれるなんて毛程も思ってなかった。
意外とソニアちゃん以外の事も見てるんだな、と感心を示したところだったのだが彼の一言で百八十度一変する。
「お前が田中と仲良くしてくんねーとオレがソニアさんと仲良くできねーだろ!」
絶句もんだよ。
結局自分の事しか考えてないんじゃないかこの男は。と考えると同時に、お前に言われなくてもそうしたいのは山々なんだ。それが出来ないからこんな事になってるんじゃないか!という何とも形容し難い感情がふつふつと溢れ出してきて止まらなくなってしまった。
「分かってるっつーの…」
「は?オイ…」
「結局自分の醜い感情が原因だって、分かってるっつーの…っ!」
「え…、お前、何泣いてんだよ」
あたふたと慌てる左右田だったが、一度口にしてしまうと堪えてたものがぽろぽろと零れ出して止まらなくなっていた。
こんなみっともない姿を見せたくなくて、慌てて俯く。
「なぁ、オイ…」
「貴様ら、何をやっている。」
左右田の後ろから聞こえた彼とは明らかに違う声にわたしは肩をビクつかせてしまった。
いや、別にオレが泣かしたんじゃねーからな!と左右田は眼蛇夢に抗弁したけど、それに対して眼蛇夢は何も言わずにわたしの手を引いて、コテージに続く道を歩いていった。
「なんだよー…」
そう呟く左右田を余所に、眼蛇夢はわたしの手を引いままずんずん歩いていった。
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