番外編


「最近、眠れてないんじゃない?」
「あ、立花ー…。んー、最近先輩に差し入れする和菓子の開発に没頭してあまり寝てないかもー…」
「へー…、不眠にはシナモンが効くよ。あれは体を温める効果もあるから快眠効果も期待できるし。」
「シナモン…か。シナモンを使った和菓子なんかお洒落じゃないかな。不眠に効くなら尚更先輩に食べてもらいたいし…、ありがと立花!!試してみる!!」
「試すって、君が試すんじゃないんだ…。」

ふむふむ。
シナモンは快眠効果があるのかなるほどなるほど。
雲居先輩毎日遅くまで料理の勉強してるっぽいし、新しい和菓子の試作品にして持っていこう!

「おい、柏娘。」
「あっ!先輩!今日も仕事ですか?」
「今日はええ。それより夜己の部屋に来い。」
「今日はええって…、仕事はあるんですよね?」
「今日の案件は簡単な仕事や。助手を連れて行くまでもない内容や。せやから来んでええ。」
「…分かりました。」
「夜、忘れなや」

やばいやばいやばいやばいやばい!
守屋モリヤヤモリもりやあああああ!!

「やもりいいぃいいい!!」
「も、もしかしてそれ、僕の事呼んでるの!?」
「そんな事よりやばい!雲居先輩に仕事に来なくていいって言われてしまった!」
「えっ、僕もだけど…」
「で、夜部屋に来いって!!!」
「なっ!ちょっと、大きな声で言うことじゃない!!」
「わたし、今日で解雇かな…」
「…は?」
「どうしよう守屋ぁ…っ!わたし、捨てられちゃう!?」

どうしようどうしよう
今まで頑張ってお仕事手伝ってきたつもりだったのに、役に立ててなかったのか!?
いや、毎日差し入れ持って行ったのがまずかった…?ウザかったのか!?
ひぃ!どうしよう!

「ちょ、とりあえず落ち着いて近重さん。」
「これが落ち着いてられますかね!?」
「いや、解雇は無いって(現に僕も仕事呼ばれてないし…)」
「何故言い切れる!?」
「いや…、何故って…。とりあえず夜に行ってみれば分かるって」
「………はい。」

守屋もなかなか鬼だ。
己で確かめろなんて拷問でしかない。
もし、本当にお役御免ならこの先生きていける自信がない。
…それ程まで惚れてしまっている。
また、時の流れも残酷で、先輩の言う夜はあっという間に来てしまった。

「…3度目だけど、回を増す毎にキンチョーする…」

前にも言ったが、男子寮は女人禁制。
正面玄関から堂々と一人で入る訳にもいかないので外から回って窓を3回ノックする。
中からシャッとカーテンが開かれ先輩が顔を出した。

「入れ」
「…おじゃましまー…す。」

夜だというに部屋の中には、守屋の姿が見当たらない。
キョロキョロするわたしに気付いた先輩は事情を話した。
事情と言っても昼間わたしが守谷に泣き付いたため、ここに来る事を知った彼が気を利かせて席を外しているだとか…
まって…。これから怖い報告受けるかもしれないのに一人は勘弁していただきたいのだが…

「あの、それで…御用は…」
「ああ、お前最近疲れとるやろ」
「ぜ、全然疲れてなんかないです!全然働けます!だから!」
「そこ座れ」
「…はい。」

促され座布団へ正座する。
ああ、これで解雇か…
ぼんやり考えていたらわたしの肩を掴む先輩…
ちょっ、ちょっと!?何をなさるのです!?
近付く先輩。
しかし先輩の視線はわたしの首元。
そのままわたしの首筋にガブリと噛み付いた。

「っ…!?」
「…やっぱりな。お前、最近疲れとるだけやのうて睡眠もとってへんな」
「…はい」
「ちょっと待っとれ」

そう言って先輩は部屋を出て行った。
今まで散々彼が血で体調を診る所は見てきたけど、いざ自分にされるとなるとまた別というか…
…まじ、吸血鬼。
噛まれた首筋が熱い。
しばらくしてお椀と箸を乗せたお盆を持って先輩は戻ってきた。

「食え」
「はい?」
「血を診るまでもなく目に見えて疲労が溜まっとる。ええから食え。」

出されたものは味噌汁と豆ご飯
わたしの大好きな和食だった。

「疲労に一番ええのは味噌汁とご飯の組み合わせや。この二つを同時に摂る事で疲労に効くアミノ酸がバランス良く摂れる。さらに、緑の豆には疲労を回復させるビタミンとタンパクが豊富に含まれとる。」

目を白黒させて先輩を見る。
目の前の二つの椀からはほかほかと湯気が立っていた。

「その味噌汁にはレタスが入っとる。レタスは快眠に作用する成分が入っとる。しかもその成分は加熱しても壊れん。お前和食好きやろ。」

手を合わせて箸を取る。
初めて先輩から出された料理。
お椀の中身をかき混ぜ、味噌汁を一口飲む。

「おいし…。」
「当たり前や、誰が作ったと思とんのや」
「ご飯も、豆の味がしっかりする。」

シンプルだけど、しっかりした味付け。
ご飯は鰹の出汁で炊いてあるのかな…?
五臓六腑に染み渡るってこういうことを言うんだろうな、なんて感心してしまった。
と、同時にそこまで疲労を溜めていたのだと改めて再確認した。

「ごちそうさまでしたっ!」
「お前、随分ウマそうに食うな。」
「食べる事はわたしにとって幸せな瞬間ですから!」
「…食わせ甲斐があるわ。」
「そ、それで…、最後の晩餐も終えたわけですが…」
「は?」

あ、先輩のその気の抜けた顔激レア。
何を言うてんのやと言わんばかり…

「いやいやいや、だってわざわざ呼び付けたくらいやし、まさか飯食わす為だけに呼んだんじゃないんでしょう?」
「いや、その為だけに呼んだ」
「え!?」
「…お前にはこれからも働いてもらう。せやから、こんなとこで倒れられたら困るからな。」

じぃ〜ん。
何この人まじ神様!
てっきりわたしは解雇だと…
なんの為にあんなに神経擦り減らしたのだろうかまったく。
でも、良かったあ…

「食ったんなら早よ帰れ」

あと、最近分かった事がある。
先輩はあまり顔に感情を出すタイプじゃないけど、わりと恥ずかしがり屋さんだ。
この暴言も照れ隠しとみた!そうじゃなくてもそう言うことにする!

「先輩!明日の差し入れ楽しみにしとって下さいね!今日のお礼にとびっきりのもん作ってきます!」
「お前己の話聞いとったんか?帰ったらすぐ寝ろ」
「先輩のご飯食べたら疲れなんか吹っ飛びました!」

そんなわたしに先輩は、阿呆やななんて少し笑った。



prevnext