月島蛍がからかわれる






青城との練習試合後、みすずは自分に出来ることは何かをずっと考えていた。

マネージャー業務はもちろんのことだが、それ以外の場面でも役に立てることはないか。烏野バレー部を次のステップに進める為には、やっぱりコーチと、それからいわゆる「好敵手」が必要だと思いはしても、その辺りは顧問の武田先生に頼る他ない。

もっと、現実的に、自分に出来ること。



「ねえ蛍くん」

「なに?」

「私がレシーブ練やりたいって言ったらどう思う?」

「……急になに」



隣でうんうん唸ってるとは思ってたけど、何を言い出すかと思えばレシーブ練…?今さら自分もバレーボールやりたくなったってこと?まあ、僕にとってはその方が嬉しいけど。

大体、神崎みすずが選手だった時代のプレーを知ってる奴なんて滅多に居ないだろうし、止める理由はない。



「私もともとウイングスパイカーやってて、今もたまに地元のチームに混ぜてもらったりしてるんだけど」

「え、そうなの?」

「うん。まあ最近は部活あるから行けてないけど…」

「…へえ」

「だからセンパイたちがかわりばんこでレシーブ練とかするなら、コーチが決まるまで私が打ったら効率いいかなって思って」



なんだそっちか。

にしてもまだ、バレーボール続けてたんだ。
僕が見たあの綺麗なプレーを、見ようと思えばまた見られるんだ。



「なんで笑ってるの?」

「笑ってない…ねえ、なんで選手辞めたの」

「中1のとき徹センパイの試合見て、自分がプレーしてるより、見てる方が楽しいって思ったから」

「……それだけ?」

「え」



知ってる、試合を観ている時の表情が、プレーしてる時よりもずっと楽しそうなことくらい。

でも、それでも、あの年齢にしては完成されたプレーを簡単に手放せてしまうものなのだろうか。ただの僕のまた観たいっていうワガママなのかも知れないけど。



「時間制限が、あったからかな」

「時間制限?」

「そう。徹センパイのファンなのは本当だけど、それを理由に選手から、逃げ出した部分もある」



その瞳に何を映しているのか。
僕の向こうの窓から空を眺めている表情は、いつか見たサーブを打つ前にボールを見つめている表情に至極似ていた。


それ以上の理由を知ったところで僕には関係ない…というか、僕にどうにかできることじゃないだろう。それでも、目の前の女のことを少しでも知りたいと思うなんて、どうかしてるんだろうか。



「もっと、知りたい?」

「っ…!」

「そんな顔してる」



そろり、とさっきまで窓の外を見ていたその瞳が僕を捉えた。

頬杖をつきながら、形の良い唇が挑戦的に弧を描く。
何が天使か。そんな可愛らしくて、純粋な存在じゃあない。だってこれはわざとやっている、僕が動揺するとわかってやっている。一番質が悪い。でも、それにまんまと煽られる僕は本当に一体どうしたって言うんだ。



「ふふ、蛍くんいじわるだから、いつものお返し」

「…今度やるとき、誘ってよ」

「え?」

「バレー。練習に付き合えるレベルなのか確かめなきゃね」

「! そうだね。認めてもらわなきゃね」



精一杯ついた悪態もなんだか格好悪くて、つい眉間に皺を寄せた。




月島蛍がからかわれる


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