「煉獄さん!…と、櫻子さん?」
「あ!櫻子ちゃんだ!」
「おうー!櫻子!」
暫くして、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助が列車に現れた。
柱合会議ではもちろんだが、櫻子は今回の任務に出るまで蝶屋敷で過ごしていたため、3人とはすでに知り合った仲であった。
他に同行者がいるという話を聞いていなかった櫻子と杏寿郎は目を合わせた。不思議そうな顔をした2人に炭治郎が慌てて用件を話すと、櫻子は快く座席を譲った。
「炭治郎くん、禰豆子ちゃんはまだ寝ているの?」
「そうなんです…櫻子さんが話したがっていると知ったら、喜びそうなんですが」
「ふふ、楽しみにしてるね。私に気にせずゆっくりお話して」
櫻子は初めて列車に乗ったらしく興奮している伊之助と、それをなだめる善逸の真向かいの席に移動する。
蝶屋敷では機能回復訓練の途中までしか見届けられなかったが、全集中の呼吸・常中がしっかり出来るようになっている2人に先輩として嬉しい気持ちになった。
「櫻子ちゃんも煉獄さんと同じ任務ってこと?」
「そうだよ」
「柱2人が任されるってことは…ひぃいっ」
「善逸くんだって十分強いのに」
「櫻子ちゃんは優しいからそんな風に言ってくれるけど!俺は!」
「そうだぞ櫻子、コイツいつもギャーギャー泣き喚いてるからな!」
「オイお前の口から言うなよ櫻子ちゃんの前だぞ」
いつもの口喧嘩を大声で始めた2人に、他の乗客が怪訝そうな顔をしているのに気付いた櫻子は困った笑いを浮かべて、1度咳払いをした。
「私は!…2人が順調に成長しているようでとっても安心したよ、よく頑張りました」
「「!」」
ぽん、と2人の頭に手を置いて頭を撫でると、2人の言い合いが収まった。
櫻子はしばしば蝶屋敷でもこの様に2人を諌めていた。何故だか2人とも櫻子のこの行動には弱いらしく決まって嬉しそうにもじもじし始めるのだった。
胡蝶しのぶも人を鼓舞するのが上手いが、櫻子もまたその才があるようだ。
「櫻子は、3人と仲が良いのだな!」
「蝶屋敷で少しの間一緒だったの」
「櫻子さんには大変お世話になりました!2人もこの通りで…」
「可愛い弟が出来たみたいでとても楽しかったよ…千寿郎くんの数倍は手がかかるけどね」
丁度ガタン、と音を立てて列車が動き出した。
揺れに合わせて、改めて座席に着くと再び興奮した伊之助が列車の窓から飛び出さんばかりに身を乗り出した。
「うおおおお!!すげぇすげぇ速ぇええ!!」
「危ない馬鹿この」
「伊之助くんたら…」
「いや、櫻子ちゃん笑ってる場合じゃあ」
「俺外に出て走るから!!どっちが速いか競争する!!」
「馬鹿にも程があるだろ!」
善逸だけでは抑えきれず、本当に飛び出してしまいそうだったので、櫻子も加勢しようとした時だった。
「危険だぞ!いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」
杏寿郎のその一言で2人がしん、と静まり返った。
櫻子は3人が知らずに乗車したことに驚きを隠せなかった。
「嘘でしょ鬼出るんですかこの汽車!!」
「出る!」
「出んのかい嫌ァーーーッ!!鬼のところに移動してるんじゃなくここに出るの嫌ァーーーッ俺降りる」
「善逸くん落ち着いて…」
「だってだって櫻子ちゃんさっき!ほら!柱2人が任されるってことは…って」
「短期間のうちにこの汽車で四十人以上の人が行方不明となっている!数名の剣士を送り込んだが全員消息を絶った!」
「だから、私たち柱が呼ばれたの」
「はァーーーッなるほどね!降ります!!」
善逸は自身の無さ故か、己を過小評価しがちである。それは櫻子も炭治郎も気付いていたが、本人がこれだからもうどうしようもない。
任務を命じられた訳では無いので降りるのは一向に構わないのだが、時既に遅し。列車は動きだしてしまったので、次の駅に行くまでは止まらない。それこそ先程の伊之助の様に飛び降りようとするなら、話は別だが。
「どうして先に言ってくれないの櫻子ちゃああん」
「知っていて、乗り込んだのかと思って…ごめんなさいね」
「降りるうう、俺は降りますうう…!」
「はいはい車掌さんが困ってるから切符を見せてね…伊之助くんは?切符持ってる?」
「ん」
泣きながら切符を差し出す善逸と、窓の外に夢中になっている伊之助に声をかけて車掌に切符に切込みを入れてもらう。
どこか虚ろな目をした車掌に違和感を覚えた櫻子だったが、特に変わった気配も無かったため座席に戻ろうとした。
「、杏寿郎」
「ああ。車掌さん!危険だから下がってくれ!火急のこと故、帯刀は不問にしていただきたい!」
目の前に、先ほどまで感じられなかった気配と共に巨体の鬼が現れた。
櫻子も羽織に隠していた日輪刀に手をかける。しかしこの程度の鬼、杏寿郎ならば加勢は不要だろう。念のためでしかないが、逞しい背中の後ろで身構えた。
久方ぶりに見える杏寿郎の炎の呼吸に、櫻子は昂りが抑えられそうになかった。
「その巨躯を!隠していたのは血鬼術か。気配も探りづらかった。しかし!罪なき人に牙を剥こうならば」
杏寿郎の綺麗な炎を、櫻子は心から好いていた。
「この煉獄の赫き炎刀がお前を骨まで焼き尽くす!」
炎の呼吸 壱の型 不知火。
炎を発するような勢いの突撃で、見事に一撃で鬼の頸を斬り落とした。
その華麗さに、思わずこくりと息を呑んだ櫻子は杏寿郎に見惚れてしまっていたが、刹那その小柄な体躯を生かした素早さで杏寿郎たちの隣を駆け抜けると、後方車両の扉まで走り、勢いよく開いた。
「ひぃいいっ!もう一体出たァーーーッ!!!」
善逸の叫びの通り、長い手足を持った鬼が逃げ遅れた乗客に襲いかかろうとしていた。
杏寿郎に負けていられないと、型と共に日輪刀を抜こうとしたところ、伊之助とそれを追い掛けた炭治郎が目の前に飛び出して来た。
「櫻子!成長した姿を見せる時が来たぜ!」
「待て伊之助!逃げ遅れた人がいるんだぞ!」
「んなもん先にやりゃあいいんだろ!!」
櫻子は勇猛果敢な伊之助の行動を買ったが、それでも結果どうなるかが見えた。
かけられた言葉を嬉しく思いながらも、動き始めた伊之助に合わせるように力強く地面を蹴った。
そして、逃げ遅れた乗客と鬼の間に滑り込み、片手で前転をした勢いで伊之助に攻撃を仕掛けようとしていた鬼を蹴り飛ばす。文字通り目にも止まらぬ速さで空中で日輪刀を抜くと、そのまま鬼の頸がぽとりと落ちた。
これが姫竹月櫻子の呼吸法。
刻の呼吸 壱の型 白白明け(しらじらあけ)
時計の針が周回して1日を終える様に、素早く身体を一回転させた勢いでかかる遠心力にて繰り出す一撃である。
何よりもこの呼吸法は速さが要であるため、余程の武人でなければ彼女が何をしているか見えない。そして、鬼の頸が落ちるまで一切の音がしない。
音柱・宇髄天元曰く「柱の中で1番地味」だそう。
面と向かって言われた櫻子本人は差程気にしていなかったが、天元はしのぶにきっちりと絞られたらしい。
「す、すげぇや兄貴!姉御!見事な剣術だぜ!おいらを弟子にしてくだせえ!」
「いいとも!立派な剣士にしてやろう!櫻子も近所に住んでいるから共に指導してくれるだろう!なあ!」
「もちろん、可愛い後輩のためだもの」
「おいらも!」
「おいどんも!」
「みんなまとめて面倒みてやる!」
「「「煉獄の兄貴ィ!!姫竹月の姉御ォ!」」」
なんだか変なことになってしまったが、それでも櫻子は楽しくて仕方がないような笑顔を浮かべていた。