「はい、おにぎり出来ましたよ」
「ちょっと休憩にしませんか?」
「おお櫻子ちゃん!ミツバ殿!よしみんな、休憩にしよう!」
結果的に櫻子は近藤の道場で世話になることにした。
始めは門下生にという話だったが、櫻子は恩返しにと主に掃除やこうした昼餉等の用意をすることにした。あの砂埃をかけて来た少年・沖田総悟の姉であるミツバから生活用品や着物を借りて生活している。
今ではこうして差し入れを共に作るほどの仲になっていた。
「それにしても櫻子ちゃんは本当に起用ね、私が見ていない間に玉子焼きまで作っていたわ」
「いえ…えっと、ガスコンロ?のおかげですね」
「櫻子ちゃんたら、なんでも物珍しく見ているからホントに飽きないわぁ〜」
櫻子は自分が記憶喪失だと申告して良かったと感じたことが多々あった。
ここは田舎のわりに生活様式がかなり発展していた。櫻子の住んでいる場所はそう田舎でも無かったが、道場にも沖田家にも櫻子の見知らぬものが沢山あったのだ。扱いも分からないが記憶喪失ともあれば、なんであっても懇切丁寧に教えてくれた。
「おい、姉上に迷惑かけるなよ」
「はい、気を付けます」
ここに来てから、何かと彼に突っ掛かられている櫻子だったが、素直にそれを受け入れていた。
沖田総悟という少年は、姉のミツバをとにかく大切にし、近藤勲を慕い、そして何よりも剣術を極めようという意思が強かった。元来、年下や後輩の面倒見がいい櫻子にとって、少々性格が曲がっているとは言え、総悟もその例から盛れてはいなかった。
「ちょっと櫻子ちゃん、そーちゃんは年下なんだから敬語なんていいのよ」
「姉上、僕は一応先輩ですよ、この道場の」
「って言っても櫻子ちゃんは門下生じゃないでしょう?」
「まあ名目は門下生ってことで、ここに居るがな」
「稽古もしてないのに…」
「…そう、ですね」
櫻子はここ数日、毎日の鍛錬をおこなっていたなかった。
何よりも生活に慣れることで手一杯であったため、それどころでは無かったという方が正しいかもしれないが。
「じゃあこの後、手合わせしてみるか?」
「! お願いしても良いでしょうか」
「ああ、もちろんだ」
「コイツが近藤さんの相手になるわけがねェ」
「なに、本気ではやらないから安心してくれ」
安心させるためにガハハと笑ってみせた近藤だったが、櫻子の中で何かが音を立てた。
「…着替えて来ます」
「櫻子ちゃん…?」
「本気にさせますよ、勲さん」
稽古とは言え、本気でないのは武を極める櫻子にとって腹立たしいものであった。
もちろん自分が女で、実力も分からないから優しさから近藤がああ言ったのは仕方がないことも理解していたが、それでも自分を軽んじる様な言葉は許せなかった。杏寿郎との手合わせはいつもどちらも本気だった。だからこそ、高め合えたのだ。手を抜かれては困る。
動きやすい格好に着替えるため、貸してもらっている部屋に戻った櫻子の背中を見て、近藤とミツバ、総悟は目を丸くしていた。
「…あの女は相当やるぜ」
「トシ、」
「気ィ付けた方がいい…油断してると隙突かれちまう」
縁側にいた1つ結びの男・土方十四郎が声を掛けた。