06





凛としていて慎ましく不要な言動は余りしないが、それでも面倒見のいい櫻子は近藤が嫉妬するほど、すぐに門下生たちの間で人気になった。

櫻子は剣術と言うよりも、基礎的な体力向上の鍛錬について希望する者に指導していた。もちろん生易しいものではなかったが、櫻子の叱咤激励の効果か、続ける者の方が圧倒的に多かった。


「…アンタ、今まで何処で何してたんだ」

「君は…えっと、十四郎くん?」

「本当は覚えてんだろ」


休憩の合間におにぎりを持って縁側に出ると、柱に寄り掛かっていた土方に声をかけられた。

名前を確認しても肯定も否定もせず、むしろ櫻子の真意を確認する様な目線を向けた。一度も面と向かって話したことが無かったため、気を張ってしまった櫻子だが、よくよく考えてもみたら恐らく彼も自分より歳下だろう。子供扱いをするわけではないがそう思うと、なんとなくその鋭い目線もなんだか可愛く見えて来るものである。


「いえ…それが本当に、覚えていないのですよ」

「フン、そうかよ…」


櫻子は一旦、持っていたおにぎりを配るために道場に入った。

休憩の声をかけるとお腹を空かせた門下生たちが次々と取っていくため、すぐにその盆の重みが無くなるが櫻子はなんとか2つだけ残して、縁側であぐらをかく土方のところに持って行くことにした。


「十四郎くんも良かったら」

「……」

「…警戒されて仕方ありませんね。私もあまりに都合良く話が進むものだから、馴染んでしまいましたが、普通は十四郎くんの様な反応が正しいのだと思います。」

「別に、お前が何かするたぁ思ってねぇよ」


隣に置いたおにぎりを1つ手に取った土方を見て、櫻子は嬉しくなった。

今まで自分が持ってきたおにぎりを食べているところを見たことが無かったからだ。なんだか微笑ましく思って、それを眺めていると土方は懐から徐に何かを取り出した。


「…えっと、それは?」

「マヨネーズ」

「ま…まよねーず?」


どろりとしたマヨネーズをおにぎりにたっぷりかけた後、手につかないように器用にかぶりついた。

新しい調味料だろうか、それにしてはかけ過ぎではないだろうか、ミツバさんも辛いものが好きだとよく一味を色々なものに振りかけたりしているが、同じだろうか。だとしたらもう本来の味など関係ないのではないか?むしろ相殺したくてかけられているのか?

と、櫻子の脳内は混乱していた。


「アンタもかけるか?」

「へっ…いや、大丈夫デス」


なんとなく身の危険を感じた櫻子は、なるべく角が立たないように断った。口端はひくついていたが。


「…それで、さっきの話ですが」

「何処で何してたかって?」

「はい。はっきりとした記憶はありません、ただ…私は誰かと、多くの人たちと、何かの目的のために生きていたということは覚えています。私の型も、そのために習得しました。」

「そりゃ大変だな、女が刀を振るわなきゃいけねえってのは…どんな仕事だァ」

「仕事と言うと、至極真っ当に感じますが…そうですね、どちらかと言えば」



復讐、の方が合っているかも知れません。


そう言い放った櫻子の横顔を見て、土方はもう何も言えなくなった。


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