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あれから1ヶ月ほど経った。

前世の記憶を思い出したせいでここでの記憶が曖昧だったけれど、なんとなく思い出して来て、違和感なく過ごせている、と思う。思うと言うのはですね、記憶の中の真一郎は優しくて良いお兄ちゃんだったんですが、ああ、いや、今もいいお兄ちゃんなんだけど、私が前世の記憶を思い出したあの日からシスコンへと化してしまったのです。朝の弱い私を毎朝ちゅーでもせんばかりに起こしに来るし、稽古はサボりがちだけど私が自由になる時間には必ず帰って来て、テレビを見たり、本を読んだり、一緒に遊んでくれた。その間もとにかくスキンシップがすごい。シスコンの権化、佐野真一郎。もうずっとくっついてるの、私にはご褒美ですけれども。



「天音」

「んー?」

「明日、母さんに会いに行くけど…一緒に行く?」

「…かーさん」

「そう、俺の母さん…お腹に弟がいてさ。俺は天音のお兄ちゃんだから、天音にとっても弟だ」

「お、おとっ…おとーとっ!?!」

「い゛ッ〜〜」



今日も変わらず私を足の間に座らせて、ダラダラしていたと思ったら突然そんなことを話し始めた。私も1ヶ月も経てば少し慣れて来て、真一郎の背中にもたれかかりながら、ぽやっとテレビを見ていたものだから、驚きすぎて真一郎の顎に頭突きしてしまった。ごめん、でも急に大事なこと話し始めるから…うん、ごめん痛いよねごめん。謝罪の気持ちを込めて頭を撫でると、涙目になりながらヘラヘラ笑っていた。彼の将来が不安である。

と、冷静になったところで、弟ですって皆さん。ここに来てからと言うもの、推しの話は1度も出て来なかったのですよ、実は。それは多分、私が本当の妹じゃないからだと思うけど…ちょっとだけ不安になっていた。私がここに来たことによって、推しが生まれない世界になっていたらどうしようとか。でも良かった、やっぱりお兄ちゃんとおじいちゃんの優しさだったんだろうなぁ。そして、ここまで黙っていたと言うことはたぶん、生まれるのはあと少し、なんだろう。ふへへ楽しみすぎてにやにやして来てしまう。



「へへ、たのしみ」

「! あ゛ーっ天音!まじ天使!俺の妹!」

「お、おにいちゃん……?」

「うんうん、楽しみだよな、俺も!」



ぎゅううっと抱き締められた。私が受け入れられるか不安だったって、ことかな。ご心配なさらず、私はたぶん推しもとい貴方の弟の闇堕ちを防ぐためにここに来たと思っているから!…ん、待てよ。私はもちろんウェルカムだけど推しから拒絶されたらどうしよう。ホントの姉ちゃんじゃねーじゃんとか言われたらどうしよう。いやまあ、事実なんだけど。



「じゃあ明日、母さんに一緒に会いに行こう」

「うん」

「弟が生まれても、お兄ちゃんとも仲良くしてくれよ」

「いいの?」

「え、いいよ!なんで聞くんだよ」

「弟、おにいちゃ。わたしは、ちがう」

「ばかだな〜、天音だって俺の妹だろーが」

「ふふ、うん」



この世界の私はきっと真一郎のこと大好きだったんだろうなあ。私に塗り替えられてしまったけれど、真一郎にハグされると凄く落ち着くんだもん。子供の特権だと思って、いっぱいスキンシップしておこう。もしかして夢だったらいやだし、うふうふ。