シスコン真一郎の心境
俺には8個下の妹がいる。名前は天音。
爺ちゃんの親友の孫で、ご両親は他界。親戚はほとんど居らず、藁をも掴む思いで爺ちゃんを頼りにしたらしい。親友の頼みだからと天音を養女にして引き取ったのが…2年前か。
来たばかりの頃は口数の少ない大人しい子だったけど、その頃に比べるとよく笑うようになってくれた。本当、目に入れても痛くねぇってこう言うことを言うんだな…。血の繋がった妹じゃねーけど、もう可愛くて可愛くて仕方がない。俺の妹まじ天使。写真撮りすぎて、買ってもらったばかりのケータイがもう容量不足になった。ちなみに待ち受けはもちろん愛しの天音だ。ダチにも天音の可愛さについてはプレゼン済みであるが、会わせたことはない。だって好きになったらどうする。まだ誰にもやらん。
とにかく天音はめちゃくちゃ可愛くて優しくて良い子に育った。俺が爺ちゃんに怒られてたら、こっそりプリン持って来てくれたり、大丈夫、と頭撫でてくれたりすんだよ。やばくね?女神なん?道場の子たちにも気に入られてるとか、爺ちゃん言ってた。お兄ちゃん鼻たけーわ。
天音は万次郎に大してもそうだった。
実のところ、俺はちょっと天音が万次郎のことどう思うのか不安だった。爺ちゃんもしかり。だからずっと話せないでいたが、天音に初めて万次郎のことを話した時、それはもうお前はマリアかなんかか?ってくらい美しい笑顔で楽しみだと言ってのけた。出来た子過ぎて怖えーくらいだった。
そんな天音が万次郎の世話を率先してやってくれていた結果、万次郎は無事にシスコンと化したと言うわけだ。天音も天音で、初めての弟という存在に使命感みたいなものを感じているのか、2人ともいつもべったり引っ付いている。最初こそその絵面が可愛過ぎて、また爺ちゃんと撮影会してたけど、それがずっと続くとなると、そのポジ俺のだったんですけど…と大人気ない気持ちになって来るわけで。
「天音、本よんで」
「いいよ」
「だっこしてよんで」
「うん」
俺がいつも天音を後ろから抱えて、腕の中で絵本を読んでいたスタイル。いつか、それを見た万次郎が俺ではなく天音にそれを要求した。天音は頑張って、そのちっせー腕で万次郎を抱っこして本を読んであげていた(ページがめくりづらそうで、くそ可愛かった)これに味をしめた万次郎は何かにつけて本を読むように天音におねだりし始めて気がついた。コイツ、天音とくっつきたいだけだと。それからと言うもの水面下で俺と万次郎の天音争奪戦が始まった。まあ?俺はお兄ちゃんだから?ほぼほぼ譲ってあげてますけどね!!でもお兄ちゃん寂しいわけ。万次郎が天音に懐いてんのはすげー嬉しいし、もちろん俺にも懐いてくれてんのも分かる。んで、天音が万次郎を可愛がってくれてんのもすげー嬉しい。
でもさ、俺もさ、万次郎の兄貴であり、天音のお兄ちゃんなわけですよ。
「2人でばっかいちゃつくな!俺も混ぜろ〜」
ラッコ座りで本を読む後ろから、2人ごとガバッと抱きしめると、万次郎の不服そうな顔と天音のびっくり顔が同時に俺を見上げて来た。んぐっ…ここは天国か、俺の妹と弟くそ可愛いんだけど。万次郎、ガン飛ばしても怖くねーよ。
「お兄ちゃん…!!」
「げっシンイチロー!じゃますんな」
「あン?だれが邪魔だって〜?」
「ケンカならまけねー」
「なんだと、俺は兄貴だぞ誰が弟に負けるかボケ」
「大人げないよ、お兄ちゃん」
「ハイすみません」
「なかまにしてほしーなら、シンイチローが本よんで」
「おー、兄ちゃんに任せろ」
天音の時に何度か読んだその本は俺の十八番だった。そんで天音がこの本を俺の真似して、万次郎に読んでるのも知ってる。はあ…ここは本家の力を見せるしかねぇ。そう思って迫真の演技をしていたら、最初こそ2人とも楽しそうにケラケラ笑っていたが、途中から何もリアクションしなくなった。あれ?と思ったら天音が口元に人差し指を立てて、しーっと俺を見上げて来た。ぐうかわか。
「万次郎、ねちゃった」
「あーほんとだ」
万次郎を覗き込むと、気持ち良さそうにすやすや眠っていた。寝顔可愛いなおい。起こさない様に頭を撫でると、なぜか天音が嬉しそうに微笑んだ。ん?と首を傾げると少し考えてから、天音が口を開いた。
「お兄ちゃんと万次郎が仲良くしてるのが私のしあわせ」
「……」
一瞬なにを言われたか分からなかった。
いや、言葉だけなら分かる。俺も天音と万次郎を見てるとそう思う。でもなんとなく天音が言ったのは、そう言うのじゃなくて…だってなんで、俺と万次郎と、じゃねーんだ?なんで、そこに自分を入れないんだ。もしかしたら天音はずっと、本当の兄妹じゃねーこと気にしてたのか?
「お兄ちゃん…?」
「3人で、だからな天音。そこ間違えんなよ」
「どういうこと?」
「俺と万次郎と天音が3人で仲良くするから幸せなんだろ」
「!」
「あーあと爺ちゃん入れたら4人だな」
天音のまんまるの目が更にまんまるになって、俺を捉える。
万次郎が生まれ後も、それより前も、天音はあんまり甘えることをしなかった。しっかりしてるからだと思ってたけど、たぶんこれのせいだった。自分をこの家の住人にそもそもカウントしてなかったのか。それを気付かせないように天音はずっと上手くやって来てたのか。
「俺ら4人で家族だろ、だから4人揃って幸せなんだよ。ま、爺ちゃんはいま老人会で酒飲んでるけど」
「いいの…?」
「何が」
「私もその幸せに、はいっていいの…?」
「…当たり前だバカ」
じんわりと涙が滲んで、ぽたぽた溢れた。天音の泣き顔を見たのって何年ぶりだ?気付かなくてごめんな天音。本当はずっとどっかで寂しかったんだな。万次郎ごとぎゅっと抱きしめると、泣きながら笑った。それからあの殺し文句を放ってみせた。
「お兄ちゃんだいすき」
俺ほんと佐野家の長男で良かったわ。