新たな決意を固める
「お前が佐野真一郎の妹?」
「へえ、ガキのわりに可愛い顔してんじゃん」
「大人しくしてたら乱暴しないからサ、俺らに着いて来てくれない?妹ちゃん」
これは、もしかしてもしかしなくても、私ピンチなのでは…?
この怖そうなお兄さんたちは多分、真一郎か真一郎周辺の方々と揉めている人達だろう。主に髪型が不良っぽい。さしずめ私は人質だろうか…これは誘拐ですよお兄さんたち。大丈夫ですか?出るとこ出たら捕まるよ?知らないよ?でもどうしよう、お兄ちゃんに迷惑をかけてしまうことになる。逃げる…うん、足は速い方だと思うし、隙を付けば家まで逃げられる気がする。子どもだから隠れちゃえば見つけられないと思うし。うん、それで決まり。
「妹ちゃんケータイ持ってる?」
「…持ってません」
「ウソつくなよ」
「あっ…!」
ランドセルを奪われて、忍ばせていたケータイを目敏く見つけらた。まだ綺麗な教科書が周りにバサバサとちらばる。
どうしよう電話されたら真一郎が来てしまう。でも私1人でどうにか出来るわけはない。だけど気付いたら、ケータイを取った男に思い切り体当たりをしていた。不意をつかれたのか、バランスを崩したその男がケータイを落とした。私はそれを奪って全速力で走った。ランドセルとかは後で回収しよう。とにかく今は逃げて、誰かに助けを求めよう。
「天音チャン、何してくれちゃってんの?」
「ひっ…」
「大人しくしてろ」
「っ!」
ぱしん、と乾いた音が響いた。
痛い、そんなに強くはなかったけれど、小学生を怯えさせるには十分だった。気持ちは大人だけど身体は子供の私はぶるぶると震えが止まらなくなる。私の手からケータイを奪い取ると、電話をかけ始めた。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。こんなことになるつもりなかった、私が真一郎を助けると決めたのに、私が助けられてどうするの。じわりと涙が滲んで来る。こんなんで、私…助けられるのかな。
「1人で来なかったら、妹がどうなっても知らねーからな」
◇◇◇◇
「天音…!」
「お兄ちゃん、」
少ししてお兄ちゃんが現れた。
手には私が置いて行ったランドセルがあった。拾って来てくれたんだ。肩で息をしてるから、すごく急いで来てくれたのが分かる。
「やっほーお兄ちゃん」
「可愛い妹ちゃん預かってま〜す」
「おい!天音から離れろ!!」
「そんな口聞いていいのか?」
「い……ッ!」
「くそっ……天音に触んじゃねェ!」
グイッと髪を引っ張られた。
さっきからこの幼気な美しいお顔叩いたり、つやつやの髪引っ張ったり…コイツら人じゃないのか?!今時の不良中学生は良心と言うものが無いのか?!痛い痛い痛い。やめろよ、まじでお前、真一郎が手入れした肌と髪に何傷つけてくれてるねん。つい、睨み付けてしまったら、気に食わなかったのかまた手が振り上がった。
「やめろ!!っ、やめて、ください…!」
「じゃあ土下座しろよ、妹を返してくださいって」
そんなことする必要ない、こんな奴らに。
そう思ってるのに言葉が出て来ない。真一郎は眉間に皺を寄せてその場に膝を着いた。悔しい、悔しい悔しい。何も出来ないのが悔しい。男たちは跪いて頭を下げる真一郎を取り囲んで、一方的な暴力を始める。なんで、なんでこんなことに…私何のために佐野天音として生まれ変わったの?推しを、真一郎を助けるためじゃないの?なのに私のせいで真一郎が傷付いてたら意味が無い。だって私が居なければ、こんなイベントは起きなかったはずだ。私は一体、なんのために。
「やめ、て…もうやめて……!」
「天音っ、危ないから…来るな!お兄ちゃんなら、大丈夫、だから……!!」
男たちの隙間から見えたお兄ちゃんはボロボロの顔で私に向かって笑顔を向けていた。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
一体どれくらいの時間、殴られ続けていただろう。その内男たちは気が済んだのか、げらげら笑いながらどこかヘ去って行った。私は震える足を叱咤して真一郎に駆け寄った。顔はすでに血まみれで、体も痛いだろうに私の顔を見ると、安心させるように笑って見せた。私は着ていたワンピースを裂いて、顔の血を拭き取る。
「…ありがとな」
「ごめ、なさ……ごめん、なさいお兄ちゃん」
「なんで、天音が謝るんだよ。巻き込んでごめんな…つーか、顔叩かれたのか…?腫れてる」
大きな手が腫れた頬っぺに触れる。
痛いけど、触っていて欲しくてその手に擦り寄ると真一郎はそのまま涙を指で拭ってくれた。身体中痛いだろうに、ゆっくり上体を起こして泣き止まない私を優しく抱き締めてくれる。私のせいだ。私が、弱いから。
「怖かったよな、痛かったよな、ごめんな天音…もう大丈夫だからな」
「おにいちゃんっ…私のせいで、痛い思いした…ごめんなさい、私なにも」
「だから、ちげーって。元々は俺らがアイツらと揉めてたからで…」
「くやしいの……っ」
「は?」
「わたしが、真一郎を守り、たいのに…ケガさせてっ…守られて、くやしい…っ!」
「悔しい…ってお前、守るって…」
最初こそ私は推しの闇堕ちを救うために、真一郎を助けることが目的だった。
でも違う、数年間過ごして私は真一郎のことも凄く大切な存在になったから。だから、推しを救うためじゃなくて、私が真一郎にいなくなってほしくやいから、私は真一郎を死なせない。絶対に守ってみせる。守るには強くならなくちゃいけない、ただ知っている出来事を止めようとするだけじゃ駄目なんだ。
「…妹に守られるわけにゃあいかねー」
「ヤダ」
「ヤダって、万次郎じゃねーんだから」
「だって、お兄ちゃんが私たちを守ってくれるなら、お兄ちゃんのことは誰が守るの…?」
「天音…」
「お兄ちゃんが私を守ってくれるなら、私がお兄ちゃんを守る、守りたかったから、だから、こんなことになって…悔しくて、」
「あーわかった、わかったから…もう泣くな天音」
こつん、と額がぶつかる。
真一郎は痛々しいのに、どことなく嬉しそうに見えた。私もつられて笑うと、やっと泣き止んだなって頭をくしゃくしゃに撫でられた。うん、もう、ちがう。万次郎のために真一郎を助けるんじゃない。私が助けたい人をみんな、助ける。それがきっと私がここに来た理由なんだ。あなたの周りに、私の周りに、居なくなって良い人なんて誰もいないんだから。
「お兄ちゃんは私が守る」
「ったく……俺の妹、頼もしすぎ」
かくして、佐野天音は道場で万次郎以外に勝てる者がいなくなるくらい、強くなっていくのであった。