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北川第一中学の名城みすず。
中学バレー界隈で、彼女のことを知らない人はいないと言っても過言ではなかった。
中1時点で強豪校でスタメンとなり、何度も全国への切符を手に入れるのに貢献していた。活躍はもちろんのこと、その容姿も注目に拍車をかける要素となっていた。
だが、ある大会から、彼女はその姿を完全に消すこととなった。
これは、そんな彼女の、お話。
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勝利の天使。
いつの間にか私に付けられていたソレは、とても恥ずかしかったけど、悪い気はしなかった。だって、私たちチームが強いことの証明になる気がしたから。
バレーボールは1人じゃ出来ない。
私にトスが上がらなければ、私は飛べない。私を満足に飛ばせてくれるのは、いつだってセッターが頑張ってくれているから、セッターに繋ぐために、皆でボールを上げるから。
だから私はそのあだ名が少し、誇らしかった。なのに。
「勝利の天使?どこが?調子に乗らないでよ」
「…え」
「スパイカーなんて、私が居なきゃ何も出来ないのに…なんでアンタが」
「ほんとそれ、きもすぎー」
「私らだって指示されてるから、アンタにトス集めてるだけなのにね」
「それな」
まさか、そんな風に思われていたなんて。
今のチームになって初めて勝ったとき、あんなに一緒に喜んだのに。毎日、毎日、一緒に練習して、帰り道に寄り道したり。あんなに、一緒に、笑ったのに。
でも、【勝利の天使】の見出しがついた雑誌を踏みつけながら、わたしを睨みつける目は、明らかに私を拒絶していた。
ああ、そうか、この人たちずっと、私のこと嫌いだったんだ…。
私はその日はじめて、部活を休んだ。
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「オイ」
「…飛雄くん」
「なんで最近、朝こねーんだよ」
朝練前、皆が集まるよりも早く練習を始めていた私に飛雄くんが声をかけてくれて、いつの間にか一緒に練習をするのがルーティーンになっていた。
天才セッターの卵と言われてる影山飛雄と一緒に練習出来るのは、私にとってはとても幸運なことだった。
けど、私は、あの日から部活に行くということが、バレーをする、ということが、あまつさえ学校に行くのが怖くて、辛いことになっていた。
だから最近は朝早くから練習に行けなかった。
「あの、ちょっと…いそがしくて」
「なぁ」
「ハイ」
「なんかあった、のか?」
「…べつに、なにも」
言える訳が無い。バレーをするのが怖いなんて。生粋のバレー馬鹿の影山飛雄に。
口をとがらせて納得いかないような顔をしていたけど、それ以上は何も聞いて来なかったのが救いだった。…私だって、バレー馬鹿だったはずなのにな。
「影山は誤魔化せても、俺は誤魔化せないよ」
「ひ、」
飛雄くんと入れ替わるように後ろから声をかけて来たのは、英くんだった。
無表情にも見えるポーカーフェイスが私をじっと見つめる。何か言うまで、逃がしてくれなそうだ。
「で?何があったの」
「何もないよ」
「ふぅん?」
「…うそだと、思ってる」
「うん、だって明らかに最近変じゃん」
「そうかな、」
「そうだよ、放課後になったら走って体育館まで行ってたクセに、部活の時間ギリギリまで教室にいるし…何よりなんか、暗いじゃん」
「……飛んだ」
1試合目の時間がずれていたから、男バレの試合を見ようと足を運んだら、相手チームの小さな男の子が、高く宙へ飛び上がっていた。あんなに小さいのに、あんなに飛べるんだ。
見るからに即席チームだったけど、その子は無茶なトスでもがむしゃらに飛びついていた。
「すごい」
感動と同時に、胸がぎゅっと締め付けられる。
わたしはきっと、あんな風にできない。絶対に勝てないと思う相手に、あんな風にがむしゃらに飛び付いて、どんなトスでも打ち抜いてやろうってきっと、思えない。
なんとなく、悔しい気持ちが込み上げる。
「あ、」
セッターが恐らくトスをミスして、あの小さな男の子とは逆サイドにトスが流れる。
セットポイント、もうあの子のプレー見れないのかと残念に思ってすぐ、私は文字通り目を疑った。男の子は気付いたら、そのトスに追い付いていて、そして、スパイクを打ち抜いていた。
いっそ、怖かった。あんな風に出来る彼が。
「お前は3年間、何やってたんだ!!」
突然聞こえた飛雄くんの怒鳴り声にハッとしてコートを見ると、試合はもう終わっていた。さっきのは、アウトだったのか。
最近の飛雄くんはピリピリしているけど、相手選手にも怒鳴りつけるとは。飛雄くんも、何か感じるものがあったのかな。
「みすず〜、行こう」
「…うん」
私も、なんとなく早く試合に出たくなって、友達の後を早足で追いかけた。
そして私は、その大会から、スタメンを外されることになった。