「ファイル島はすでに黒い歯車で覆い尽くした!次は海の向こうの世界すべてだ!」
「海の向こう…?この島の他にまだこの世界があるのか!?」
「お前たちが見ることはない。選ばれし子供よ、ここがお前たちの墓場となるのだからな」
『墓場』という言葉が、とても恐ろしくて、それ以上にこれから起こるであろう未来が恐ろしくて、ぎゅ、とイヴモンを強く抱きしめた。(わたしは、だれ?)イヴモンはただ、釣り上がった空色の瞳でデビモンを見ているだけだった。(わたしに、なにができるの?)慰めもない、笑顔もない。けれど今、彼以上の存在が、たくましいとも思えなかった。(世界を、守りなさい)ぷつり、ぷつりと声が頭の中に流れてくる。暖かくて、それは知らぬ母親のように、知っているおばのように優しかった。
「な、んで―」
泣きそうなほど、声はふるえていた。
しかし栞は問わずにはいられなかった。
「どうして――」
光あるところ、闇は生まれる。確かにその通りだった。太陽の陽射しが濃くなればなるほど、影の色も濃くなるものだ。それと同じではあるが、しかしどうして闇と称されるものたちは自分を悪と呼ぶのだろう。悪になるよりも、お互いに笑い合う未来を生みだす方が、よっぽど簡単なのだ。栞は、それを知っていた。
そして栞の泣きそうな目は、デビモンを見ていた。
「子供タチ…倒ス!」
そんな栞の注意を逸らしたのは、レオモンだった。時折混じる機械音、そして今まで歯車によって心を蝕まれたデジモンたちと同じような、冷えた暗い瞳。視界の端でデビモンが動くのが見えた。しかし、栞はレオモンから目が離せなかった。
太一はただ唖然としていた。この島の向こうには、まだ他の世界が広がるのだというデビモンの言葉が頭から離れてくれない。だめだ、だめだ。一つ頭を振って、余計な考えは振り払おうとするが、それでも駄目だった。この島じゃない、他の新しい世界。それはどんな世界なのだろう。今の状況を考えればとても不謹慎なことだが、その新しい大地に思いを馳せてしまうのは止められない。
「栞っ!」
「や、っ!」
そんな太一を現実に引き戻したのは、イヴモンの切羽詰まった声と、栞の小さな悲鳴だった。慌てて振り返れば、栞の小さな身体はデビモンによって、いとも簡単に捕らえられていた。地面に落ちているイヴモンは、憎しみの籠もった目で、デビモンを睨み付けている。そんな小さな憎しみさえも、デビモンにとっては、微塵も痒くない。腕の中にいる守人さえいれば、世界を取るなど容易いことなのだ。
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