027 夢だと知った




 手を合わせて、狩人とデジモンたちと笑い合う姿を見ていると、何だか心がおかしくなった。彼女は、闇と称され、彼女にとって排除すべき存在にまで、いつも笑いかけていた。一度だけ、そんなので守人が務まるのかと尋ねたことがあった。そんな時でも、彼女はただ笑っていた。


―――…1人は楽かもしれない。けれど独りほど苦しいものはないんだよ。


 もし誰もいないのなら、私が傍にいるから。
 彼女は少しだけ、悲しそうに微笑んで、最後に言った。


★ ★ ★




「キャーッ!」


 ミミと空の悲鳴を聞いて、栞は太一に向けていた視線を上に向けた。唖然とするような光景に言葉を失い、引き寄せたイヴモンの身体もいつしか冷たくなっていった。
 みんなが眠っていたはずのベッドが宙に浮き、彼らがまとっていたバスローブは消えて、下着だけの姿となっていた。意識していなかったが、気づけば太一もパンツ一枚の姿になっているではないか。栞は、絶対彼の方を見ないよう気をつけようと意識したが、逆効果で顔に血が上る。一馬もよく風呂上がりはそんな恰好をしているが、親族と他人はやはり違うものだ。今のこの状況をいくら考えたとしても、顔を上に向けることができなかった。
 そんな栞の考えなどつゆ知らず、太一はデビモンに向かう策を考えていた。


「よし、アグモン、進化だ!」
「太一…、だめだよ、力がでない。あんなに食べたのに…」


 そんなアグモンを嘲笑うかのように、デビモンは猫なで声を出した。


「当然だな、食べ物も風呂もすべて幻だったのだから」
「くそ…!…なんでだ、なんで俺たちをこんな目に遭わせる!?」


 太一の叫びを受けて、デビモンはほぼ無意識に、視線を栞に向けた。ぴたりと止んだ静寂の中で、彼の視線だけが物言いたげに栞を見ている。その視線に気づかないほど太一は馬鹿ではなくて、しかしすぐに栞から外されてしまったので彼はその意味の真相を知ることはない。


「お前達が、」


 デビモンが再度口を開いた時、すでに彼の顔から笑みは消えていた。


「おまえたちが選ばれし子供たちであり、私と守人の壁になるからだ…」
「選ばれし、子供たち…?壁?」
「そう、私にとって邪魔な存在なのだ…。黒い歯車でこの世界を覆い尽くそうとしている私にとってはな!」

 
 歯斬りをしたデビモンが腕を広げるのを合図に、辺りに地鳴りが響いた。地震が起こったのかと錯覚させるほど大きな揺れが栞と太一を襲う。


「うわッ!」
「っ、わ…!」


 おそらくは、ファイル島全体に及ぶ大きな揺れであろう。ファイル島の中心であるムゲンマウンテンからたくさんの黒い歯車が姿を現し、キリキリと音を立てて動き出す。己の中の深いところに触れられたような気がして、ぞっとした。


(だめ、いっちゃだめ…!)


 イヴモンを抱きしめたまま、必死に願う。歯車によって支えられていた島たちは、栞が危惧する通り、バラバラに分かれてしまった。まるで、すべてが必然であるかのように、動き出すのだ。

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