「でもこんなんで大丈夫なのか?」
「…決めたんだ!行くしかない!」


 いつもとは違う真剣な眼差しで海の向こうを見つめる太一に、栞はまた胸の奥が変になる感じがした。胸を押さえ、首を傾げる。この想いに、まだ、名はつけられない。


「お前たちならこんな海ぐらいきっと越えられる!」
「ありがとう、レオモン!」
「…いや、そう思えるのもお前たちのおかげだ」

( …タケル… )

「――…え?」
「…どうしたノ、栞?」


 掠めただけの小さな音だったが、それはしっかりと栞の耳に届いた。耳をおさえ、タケルの卵を見つめる。おそらく、そこから声が聞こえたのだろう。

 デジタマから聞こえた声、それはきっとあの子が。

 栞は急いでタケルの傍へと寄った。


「タケルくん!」
「どうしたの、栞さん」
「デジタマ、見て…!」
「デジタマ…?…あ!!」
「どうした!?」


 デジタマに、ぴしっと亀裂が走る。タケルの顔に、ぱっと笑顔が咲いた。


「ポヨ…」
「デジタマが、孵った!!かわいいっ!!」
「よかったわね、タケルくん!」
「わーい、わーい!」

―――…今度こそ、絶対に傍を離れないよ、タケル。


 栞は、デジタマから孵ったポヨモンが、そう言ったような気がして、そっと微笑む。それは、まるで母親が子供を見守るような暖かいものだった。例えれば母なる大地が、すべての人類を包み込むようなものとも類似している。


「栞さん!見て、ポヨモン!」
「うん、かわいいね、タケルくん」
「うん!」
「今度も、大切に、…大切に育ててあげようね」


 その言葉に、タケルは頷きはしなかった。その代わりに、とびっきりの笑顔が、栞に返ってきた。栞も、いつもより、明るい笑みを浮かべた。
 それから子供たちはいかだに乗り込む。揺れる波の上では、立つことが少し難しくて、栞は最初何回もバランスを崩しては空に支えられていた。そのたびに謝り、そのたびに笑顔を浮かべた。


「お別れだな…」
「みんな、元気でなー!とくにタケル、泣くんじゃねーぞ!」
「うんっ、ありがとう!」
「守人、また会える日を、心待ちにしている」
「うん、私も楽しみにしてるね」

「さようなら!」


 自分の力で生き抜くことを覚え、たくさんのデジモンと戦い、大きな犠牲を得て、またたくさんのデジモンとは友情を育んだ。そしてそのファイル島を子供たちは、後にした。


“I'll be there for you wherever you go, whatever you do”


17/07/25 訂正
10/11/23 訂正

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